第149話『陽だまりの午後、マリアの微笑み』
あの日の戦いから三日。
俺たちは、塔のあった山を下り、
湖畔の小さな村“レシレ”に身を寄せていた。
戦いで焼け焦げた服、ひび割れた武具、
そして何より、心に開いた“言葉にできない空洞”。
村の子どもたちが、無邪気に花冠を編んでいる。
遠くでリリィが、料理をしながら口喧嘩するウケールにじゃがいもを投げていた。
「あいたッ! なんで当たる!?」
「黙ってろーっ! こちとら感情取り戻して、ちょっとセンシティブなんだから!」
「知らんわ!!」
のどかだった。
戦いの音も、悲鳴もない――静かで穏やかな午後。
そんな中で、マリアの様子が少しだけ、妙だった。
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◆マリアの違和感
「……マリア、お前、パンの耳食ってなかったよな」
「……そうかしら? 最近の私は、ちょっと好みが変わったのかも」
エリュがそっと俺の袖を引く。
「それ、“記録の不整合”よ。
マリアはもともと“耳は残す”タイプだった。私は観測してたから間違いない」
「……まさか、アイツにも……?」
「塔で負った影響、もしくは――」
そこまで言って、エリュは口をつぐんだ。
マリアは遠くで微笑んでいた。
花の冠を編む子どもに紛れて、何事もなかったように。
だがその目は――少しだけ、光の焦点を失っていた。
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◆“観測の代償”とマリアの決意
夜。湖畔の木陰で、俺はマリアと並んで腰を下ろす。
「なあ、マリア」
「ん?」
「……お前、本当はちょっとずつ、消えかけてるんじゃないか?」
彼女は、少しだけ目を見開き、そして笑った。
「……やっぱり、ばれちゃうか」
「……っ!」
「塔で、私は**“世界の記録”に直接アクセスした**。
改稿者を倒すには、どうしても必要だった。
でもそれは――“観測者と被観測者の境界”を壊す行為なの」
「つまり……」
「私は今、“自分が記録されてるのか、しているのか”が曖昧になってる。
そのうち、どちらでもなくなって、“存在”がぼやけていく」
俺は何も言えなかった。
ようやく、ほんの少し笑えるようになってきたばかりなのに。
これ以上、誰かを失うのは――もう、嫌だ。
「……やだよ、マリア。消えるな」
「……ふふっ、泣きそうな顔」
彼女はそっと俺の頬に触れた。
「安心して。私はまだ“あなたたちを記録したい”って思ってる。
その想いがある限り、私は“消えない”。
だから、まだ一緒に旅をさせて」
「……約束だぞ」
「あたりまえじゃない」
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◆エリュの記録と“日常の修復”
翌日。
エリュが村の子どもに記録魔法を教えていた。
「いい? 記録は“書き写す”んじゃなくて、“観測した想いを写す”の。
だから、好きな人が笑った瞬間を書きたいなら――その気持ちを覚えてること」
「えー、むずかしー!」
「簡単よ。だって、今日のあなたはとても笑ってるから」
彼女の言葉は、とてもやさしかった。
書き換えられたはずの感情も、今はもう――ちゃんと戻っている。
そして、リリィが俺の隣に座った。
「……ほら、言ったでしょ。ちゃんと戻ってくるって」
「うるせーよ。もっと褒めろよ」
「えー……じゃあ、特別に。よく泣いて、よく怒って、よく立ち直ったね。ヨシオ」
「……うん」
少しだけ、また涙がこぼれそうになった。
でも今回は、ちゃんと笑えた。
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