第148話『観測者の塔、書き換えられた心臓』
灰色の空を背景に、観測者の塔はそびえ立っていた。
魔力ではなく、まるで“物語そのもの”を糧にして成長しているような建築物。
その中心に――ヨシオの“感情ログ”が保存されている端末があるという。
「ヨシオ、気を抜かないで。塔内部は“感情干渉領域”よ」
マリアが真剣な表情で言う。
「つまり、“俺たちの気持ちそのもの”が武器になるってことか」
「同時に、敵にも利用される。中に入った瞬間から、“自分で自分を保てなくなる”」
エリュは、ヨシオの腕にそっと触れた。
「でも、私は知ってる。“記録されてない想い”は、誰にも書き換えられないって」
ヨシオは頷く。そして扉を押し開けた。
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◆心を操作する塔
塔の中には、まるで図書館のように並んだ巨大な書架。
そこには“感情の断片”が本として分類されていた。
> 『怒り:ヨシオ/分類No.072』
『恐怖:ウケール/分類No.054』
『愛情:ヨシオ→リリィ/分類No.109(改稿履歴あり)』
「……俺の“好き”が……ファイルになってるのかよ……」
「そして改稿履歴あり……最低ね」
リリィが呟いたそのとき――塔の奥から、声が響いた。
「いらっしゃい、観測対象たち」
現れたのは、ローブをまとった男。仮面の下の顔は見えない。
「“君たちの物語”は、あまりにノイズが多すぎた。
だから“最適化”しようとしただけだよ」
「……ふざけんな」
ヨシオが睨みつける。
「仲間の死も、俺の感情も、“お前の最適化”のせいだったってのかよ!」
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◆感情バトル:ログと本物の想い
「さあ、“怒り”のログを展開してみせよう」
仮面の男が手をかざすと、空中に“ヨシオの怒り記録”が浮かび上がる。
その中には、
ルシェの死に声、リオナの最後の眼差し、テナの微笑み――
全てが“演出として”組み直されていた。
「それはお前の都合だろうが!」
ヨシオが叫ぶ。
だがその怒りは、塔の内部で強制的に数値に変換され、吸収されていく。
「ここでは感情はデータ。叫びも涙も、数字になるだけだよ」
だがそのとき、背後からエリュが叫んだ。
「ヨシオ! “演算できない記憶”で上書きして!」
「――ああ、分かった」
ヨシオは、静かに目を閉じ、心の奥に触れる。
テナと交わした“言葉にならなかった約束”。
リオナの最後に握った手の温度。
ルシェが託した“背中を押す”という沈黙の肯定。
「お前に、これが書き換えられるか?」
ヨシオの手に、光の刃が生まれた。
それは“未記録の想い”から生まれた、“書かれなかった力”。
「これは、俺だけの感情だ!」
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◆改稿者の崩壊
仮面の男の端末が悲鳴を上げた。
未記録の想いにシステムが耐えきれず、記録領域が崩壊する。
「ば、馬鹿な……この世界の全ては“物語”の中に……」
「違う。“物語”は書くもんじゃねぇ――生きるもんだ!」
光の刃が、仮面を貫いた。
男は断末魔をあげることなく、静かに消えていった。
その瞬間、塔が崩れ始める。
マリアが叫ぶ。
「今! 感情記録ログを削除して! それで完全に解放される!」
ヨシオは“感情ファイル”に手を伸ばし――
> 『愛情:ヨシオ→リリィ』
『仲間意識:ヨシオ↔エリュ、マリア、ウケール』
『痛み:ヨシオ→全ての別れ』
それを、自分の手で破り捨てた。
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◆再び流れ出す感情
外に出たとき、雨が降っていた。
「……涙、止まんねぇな」
リリィが、そっとヨシオに傘を差し出す。
「それ、あたしのだし。貸し代あとで取るからね」
「うるせぇよ」
そのとき、ウケールが咳払いした。
「おいヨシオ、お前泣いてるのか?」
「泣いてねぇよ……」
「うそつけ。エリュの手、握ってんじゃねーか」
「それは……その、握り返されたんだよ」
エリュは何も言わず、ただ、そっと手を握ったままだった。
「面白かった!」
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