第147話『涙の記録、エリュの証明』
──その日、俺は泣けなかった。
テナを思い出しても、胸が動かない。
リリィの声が耳に届かない。
(これが……“改稿”か……)
心の中が空っぽになっていく。
好きだったもの、嫌いだったもの、
全部、他人の感情みたいに遠く感じる。
仲間の声が、どこかノイズ混じりに聞こえるなか、
エリュがそっと隣に座った。
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◆記録術士エリュの問い
「ヨシオ。あなた、最近“私の紅茶に砂糖を入れなくなった”わね」
「……砂糖、入れてたか?」
「ええ、必ず二杯。あなたは“苦いのは疲れるから嫌だ”って言ってた。
でも、今のあなたは、私の紅茶が“苦い”ことに気づかない」
俺は、言葉に詰まった。
「これは、“些細な改稿”よ。
でも、積み重ねれば――あなた自身が“あなたじゃなくなる”」
「…………」
「私ね、記録術士だからわかるの。“書かれたもの”と“本当のもの”の違い」
エリュが机に一冊のノートを置く。
そこには、ヨシオとエリュが出会った日から今まで、
彼女が書き綴ってきた“観測記録”が綴られていた。
「これが、あなたの“本来の心”よ。
改稿される前の“本物のあなた”の断片」
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◆“涙”を取り戻すために
「記録ってのはね、過去を保存するだけじゃない。
“忘れられないための闘い”なのよ」
エリュが語る声に、少しずつ、心が揺れる。
「ねえ、あなたが“最初に泣いた時”のこと、覚えてる?」
「……最初に?」
「あなたがこの世界に来て初めて涙をこぼしたのは、
自分が“何も守れない”って絶望した夜だった」
「……リオナとルシェが……死んだ日……」
「そう。でも、あなたはその夜、私の部屋の前でうずくまって泣いてた。
そして、“もう絶対に誰も失いたくない”って、震える手で誓ったの」
その記憶が、胸に焼き戻ってくる。
静かな夜。凍るような孤独。
背中をさすってくれた小さな手の温度。
「……あれ、エリュ……だったのか……」
「あの時のあなたが“本物”よ。
泣いて、傷ついて、それでも前を向こうとした“あなた”」
涙が……こぼれた。
頬を伝う、それが――あたたかくて、苦しくて、でも確かだった。
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◆記録を塗り直す戦いへ
「エリュ……ありがとう。俺、戻れた気がする」
「まだよ。
“書き換えられた部分”は、完全には修復されていない。
でも、“書き直す術”は、私たちが掴み始めてる」
マリアが扉を開けて、言った。
「準備はできたわ。“改稿者の観測点”を突き止めた。
このままなら、“心の改稿”を強行している中枢にたどり着ける」
「……取り戻す。俺の心も、仲間も、全部」
ヨシオは立ち上がる。
その隣には、記録術士エリュ。
彼の“記憶の保管庫”を担う、ただ一人の証人。
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