第146話『失われる声、テナの最期』
ギルド宿舎の朝。
いつものように、俺たちは集まって朝食を囲んでいた。
「おいヨシオ! このジャムパン、昨日のやつだろ! カッチカチだぞ!」
「文句言うなら作れ、ウケール」
「ふふ……ほら、これならどう?」
リリィが差し出したフルーツパイ。
甘い香りが、場をほんのり包む。
そして、そこに――テナはいなかった。
いや、“いたはず”なんだ。
ほんの数日前まで、一緒に話していた。笑っていた。
だけど、誰も――彼女の名前を口に出さなかった。
そして、その日。
彼女は死んだ。
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◆“改稿死”――書き換えによる消失
「……おかしいと思ってたんだ」
マリアが、地下の端末室で呟く。
「この数日間、観測魔法のログに“記録されていない動き”が多すぎる。
そして今日、ついに――“彼女の感情曲線”がゼロになった」
「それって……」
「存在は記録されてる。けど、“記録に感情が紐付いていない”。
つまり――“死”と同じ。しかも、それが物語の外側から書き換えられた結果なら……」
マリアは黙った。
俺は、テナの寝室へ向かった。
誰もいない。
荷物もない。
声も、匂いも、すべて――最初からなかったように、消えていた。
でも――壁にだけ、文字が残っていた。
> 『ヨシオへ。
あなたが、誰かを守ることで、私は“物語から外れた”みたいです。
後悔はしていません。
最後の時間、一緒に冒険できて、幸せでした。
テナ』
「……っ、くそ……!」
拳を壁に叩きつけた。何も変わらない。
「俺は……何を選んでも、誰かを失うのか……?」
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◆ヨシオの“心の改稿”が始まる
その夜、俺は自分の中に“何かが抜け落ちている”感覚に気づいた。
テナの死を悲しんでいる――
そのはずなのに、感情が“鈍って”いる。
「ヨシオ、元気……ないね」
リリィがそっと肩を寄せてくる。
だがそのとき。
「……誰だ、お前」
思わず口に出てしまった。
次の瞬間、リリィが凍りついた。
「え……?」
(違う、違う。リリィだ。ちゃんと知ってる。知ってるはずなのに――)
「っ……ごめん、違うんだ、俺……今、なんか、」
「……ううん。……少し、距離置こうか。ごめんね」
静かに、彼女は去っていった。
(まずい……俺の感情そのものが、“誰かの手で書き換えられてる”)
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◆マリアが見つけた鍵
「ヨシオ、これを見て」
マリアが手渡してきたのは、一冊の“異なる記録の断片”だった。
そこにはこう書かれていた。
> 『本来、テナは“死ぬ予定ではなかった”』
『彼女の存在は、“心の改稿”を止める鍵だった』
『彼女がいないことで、ヨシオの“防壁”は崩れる』
「つまり、テナの“消去”は、あなたを壊すために仕組まれたもの」
「……誰が、こんな……」
「まだ分からない。でも“次はあなたの心臓が書き換えられる”。
もう時間は、あまりないわ」
俺は、手を握る。
テナが残してくれたもの。
感情がまだ残っているうちに――取り返さないといけない。
「面白かった!」
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