第144話『マリアの手紙、記録の鍵』
ギルド宿舎の朝。
「おーい、ヨシオ! 今日はクエストないってよー!」
ウケールがいつもの調子でリビングに転がり込んできた。
「にゃふーん……ぐだぐだするにゃ……」
「……すごいな、みんな。全力で休んでる」
リリィが笑いながら、台所で朝食を作っている。
エリュは静かに紅茶を淹れて、マリアは……窓辺で、何かを見ていた。
「マリア? どうした?」
「……あ、いえ。少し気になることがあって」
マリアは手に封筒を持っていた。
それは古びた紙で、外の封蝋にはこう書かれていた。
《改稿ログNo.0:開封条件未設定》
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◆記録されていない手紙
「これ……“記録されていない記録”よ」
「なんだそりゃ」
「たぶん、誰にも認識されないはずだった手紙。
でも私の端末が、一時的に“観測解除状態”になったときだけ表示されたの」
マリアが手紙を開く。
そこに記されていたのは、断片的な文章だった。
> 『物語は、描く者の意志によって、いつでも書き換え可能である』
『この世界はすでに数度、“改稿”されている』
『ヨシオ――お前もすでに、“最初の姿ではない”』
「…………え?」
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◆“改稿された”記憶
俺は、どこか胸の奥がヒリついた。
たとえば、ルシェとリオナのこと。
たとえば、自分の魔法を習得したときの感覚。
どこかが曖昧で、どこかが“脚本の後付け”のようだった。
「この世界の“物語”は、誰かの手で“何度も上書きされている”可能性があるわ」
「じゃあ、あの戦いも、誰かが“書いた”? 俺たちの選択じゃなくて?」
「……その可能性を否定できる証拠は、今のところない」
マリアの声は静かだった。
だが、その瞳には確かな決意が宿っていた。
「だから調べる必要がある。
私たちは“物語の読者”なんかじゃない――
私たちは、自分で物語を描ける登場人物であるべきよ」
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◆“改稿者”の痕跡
その夜。
俺は、ギルドの中庭で静かに空を見上げていた。
星空が、なぜか今日は少し、見え方が違っていた。
そのとき――声がした。
「あなたは、まだ気づいていないんだね。
本当は、すでに“改稿されていた”ってことに」
振り向くと、そこにいたのは仮面をつけた男だった。
黒いローブ。どこか不自然な影。
「誰だ、お前」
「名乗る必要はないさ。私はただの“書き手の影”――
あるいは、“前の世界の記録者”」
「……!」
男は一枚の白紙を俺の足元に投げた。
それは“記録のないページ”だった。
「君がそこに何を書くかで、この世界の在り方は決まる。
――自分の意思で、物語を選べるなら、だが」
そして男は、煙のように姿を消した。
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◆それでも日常は続く
翌朝。
何事もなかったかのように、リリィが食卓に座っていた。
「ねえ、ヨシオ。今日、どっか行く?」
「……そうだな。久しぶりに、外の花咲く層でも見に行くか」
「にゃー!お花見!お花見!」
「クエストは!? 俺の出番は!?」
「……ウケール、座れ」
そんな会話が、いつものように続いていく。
でも、俺はポケットの中の“白紙の記録”を握っていた。
この紙に、何を書くかで――未来が変わる。
俺は、もう知ってしまった。
この物語の“主役”が、自分自身であるということを。
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