第143話『記録喰らいの裏側、ウケールの記憶』
――真っ白な空間。
何もない。音も、風も、光も――記録もない場所。
俺はそこに立っていた。
扉の中、“記録の裏側”にある観測不可能領域。
ここでは、「存在していないこと」が前提だ。
俺の記憶も、少しずつ薄くなる。
手に握ったはずの剣が曖昧にぼやけてくる。
(急がなきゃ……)
奥へ進むと、ぽつんと浮かぶ島のような場所があった。
そこに――彼がいた。
「……ウケール!」
俺が叫ぶと、振り向いたのは、確かにあのバカな笑顔を浮かべる仲間――
「……おう、ヨシオ。来たんだな」
でも、彼の目はどこか遠くて、色がなかった。
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◆忘却の代償
「お前……覚えてるのか?」
「ぼんやりと、な。でも、何もかもが“夢だった気がする”んだ。
俺が誰かと冒険してたことも、笑ってたことも、
全部、寝て起きたら忘れてるような、そんな感じだ」
彼の声は、まるで録音されたテープのようにかすれていた。
「それでも……来てくれて、ありがとな。
たぶん、お前が“俺のことを忘れてなかった”から、
俺はここで、なんとか“俺でいられる”んだと思う」
「当たり前だろ……お前は、俺の仲間だ。
俺たちの記録から消されたって、俺の中にいる限り、消えねぇ」
ウケールが苦笑した。
「でもな、ヨシオ。……たぶん、もう俺、“人じゃなくなってる”んだよ」
彼の手が、ぐにゃりと歪む。
影のような霧が、肩から垂れている。
それは、あの“侵蝕魔力”に似ていた。
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◆“記録喰らい”の干渉
「彼は“選ばれなかった存在”。
あなたが選ぶなら、あなたの“記録”と引き換えになります」
現れたのは、黒衣の女――エルディナではない。
もっと深く、もっと古い存在。
顔のない、記録喰らいの本体だった。
「彼を救うなら、あなたがこの世界から“存在を消される”でしょう」
「……それで、アイツが助かるなら構わない」
「では、あなたの“記録の書”を提出してください」
そう言って、空中に本が現れる。
俺の名が、そこに記されている。
“ヨシオ”という存在の全記録。
それを差し出した瞬間、俺の身体が透明になっていった。
だが――
「やめろヨシオ!!」
ウケールが俺を突き飛ばした。
「なんで、お前が消えようとすんだよ!
それじゃあ、“お前を覚えてる奴”すら、いなくなるだろうが!」
「……でも、お前を――」
「だったら一緒に帰れ!!バカか!!
そんな選択肢しかないと思ってんのかよ!!」
俺の手の中で、“記録の書”がパキンと割れた。
それと同時に、空間が光に包まれる。
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◆“共鳴”という選択
「記録喰らい」に対して、俺たちは叫んだ。
「俺とウケールの記録を“繋げろ”!
一人の記録を分け合えば、“どっちも消えずに済む”はずだ!」
それは、常識外の行為だった。
だが、“記録されない世界”だからこそ、新たなルールを書き換えられる。
花が咲いた。
星が降った。
そして――記録が“塗り替えられた”。
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◆帰還と、ひとつの違和感
扉の外。
ギルドの宿舎で、リリィが微睡んでいた。
扉が開く音に気づいて、顔をあげる。
「ヨシオ……?」
「……ただいま」
「ウケール……!」
飛びつくリリィ。
そのあとを、ウケールが照れたように頭をかく。
「ヘヘ、なんか……寝起き感あるけど、とりあえず生きてるぜ?」
「無理だったと思ったのに……!」
リリィが涙をぬぐうその横で、
エリュがそっと言った。
「……ただ、ヨシオ。あなたの“生まれ”の記録、ほんの一部が……無くなってる」
「……そうか」
「大丈夫? それでも、後悔ない?」
俺は答える。
「記録なんかより、今ここに“仲間がいること”の方が、
よっぽど確かだ。……それだけで、十分だろ」
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