第142話『星夜に咲く選択肢、見えない扉』
「……なあ、お前たち。ウケールのことなんだけど――」
「……誰、それ?」
その一言が、空気を凍らせた。
「え……?」
リリィ、エリュ、マリア、テナ。
全員が、一様に不思議そうな顔をして、首をかしげた。
「まさか、冗談だろ?ウケールだよ。緑の髪で、ムードメーカーで、
昨日“記録実験だ!”って言って踊りだしたアイツだよ!」
誰も、覚えていなかった。
そこにいるはずの仲間の記憶が、まるごと抜け落ちている。
「……ありえねぇ……」
俺は震える手で、ギルドの名簿を開いた。
そこにも――ウケールの名前はなかった。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
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◆“記録から除外される”ということ
マリアの顔が青ざめる。
「……ついに、始まったのね。“本格的な観測破綻”が」
「どういう意味だ?」
「記録されない時間が続けば、その間に生じた因果も“未観測”と判断される。
つまり――“その時間に存在していた者”すら、因果から削除される」
「まって、それって……ウケールが、このまま……?」
「誰にも“覚えられなくなったまま”消滅する可能性がある」
脳が冷える。
冗談じゃない。あいつは、確かに――ここにいた。
笑って、ふざけて、俺の隣で戦っていた。
「……そんなもん、認めるわけねぇだろ」
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◆“見えない扉”の話
エリュが、記録花の標本を調べていた端末を閉じる。
「ヨシオ。たったひとつ、手段があるかもしれない」
「……なんだって?」
「記録花の“枝分かれ”の中には、稀に“観測不能領域”がある。
それは、どの記録にも属していない、扉のような構造体」
「……扉?」
「それを通れば、“記録の裏側”に入り込めるかもしれない。
ウケールの“存在の因果”を取り戻すには、それしかない」
「代償は?」
「……中に入った者は、確実に“誰かの記録と交換”される」
つまり、俺がウケールを助けに行けば――
別の誰かが、この世界から“記録されなくなる”。
「……選べってことかよ」
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◆夜の静けさ、消えない声
その晩。
俺は星空の下で、ギルドの裏庭に座っていた。
花が揺れる。夜風が冷たい。
――「にゃふー……ここ、静かすぎだろ。
誰か俺のセクシーダンスを観測してくれ……って言ってただろ」
あのバカな声が、まだ耳に残ってる。
たしかに、そこにいた。
笑ってた。
俺たちの仲間だった。
それなのに――
「……ヨシオ」
後ろからリリィが来た。
「……行くんだよね、“扉”に」
俺は無言でうなずいた。
「じゃあ、私はここで“待つ”。あんたが誰に忘れられても、私は絶対に忘れない」
その言葉が、胸にしみた。
「……ありがとう」
俺は小さく言って、歩き出した。
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◆扉の前にて
花咲く層の奥、かつて異形を倒した地点。
そこに、存在しないはずの“扉”があった。
目には見えない、でも確かに感じる“境界”。
「……ウケール、今から取り戻す」
深呼吸一つ。
そして俺は、扉の中へと――足を踏み入れた。
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