第141話『花と星と、あたたかな嘘』
戦いの翌朝。
俺はギルドの宿舎のベッドの上で、どこか頭の奥がチリチリするような感覚に目を覚ました。
(……なんか、変な夢を見てた気がするな)
ぼんやりしたまま顔を洗いに行くと――
「ヨシオ~!朝ごはんできてるよーっ!」
リリィが笑顔で、鍋をかき混ぜながら俺を呼んだ。
「……おう、ありがとな」
「ふふ。今日のスープはバジル増し増し!昨日のお祝いだよっ」
昨日――あの異形との戦い。
確かに、俺たちは勝った。
けど、なんだろう。
記憶が、少しだけ“かすれている”。
「なあ、昨日の夜……何してたっけ、俺?」
「え? えーっと、たしかスープ飲んで、みんなで乾杯して……寝た、よ?」
「……そっか」
おかしい。確かにそうだった気もする。
でも、なにかが“抜けてる”ような感覚が消えない。
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◆エリュの指摘
ギルドの裏庭で、エリュが記録魔導端末をチェックしていた。
「……やっぱり」
「おい、なにかわかったのか?」
「ヨシオ、あんたが昨日使った《ブルーム》って魔法、
“記録対象時間に空白領域を作る”可能性がある」
「空白領域……?」
「簡単に言うと、“みんなの記憶から、ごっそり消える時間帯”ができるってこと。
物語の主軸にいなかった存在として、観測が省略される。
しかもそれが、数十分〜数時間単位で断続的に起きる」
「……それ、俺のせいで?」
「ううん。魔法自体は“可能性の枝を観測可能にする”技術だから、
むしろ“記録側”が混乱してる状態」
エリュの目は真剣だった。
「今後、長期的に使い続けると――
あんた自身が、“誰にも覚えてもらえない存在”になる可能性がある」
俺は無言になった。
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◆リリィの嘘
その夜、星空の下。
リリィと並んでギルドの屋上で風に吹かれていた。
「ヨシオ、ねえ……」
「ん?」
「私、ほんとは昨日の夜――
“あんたと一緒にどこかにいた”気がするんだ」
「……!」
「でも、思い出せない。
でも、すごく、あったかくて、すごく、大事だった気がするの」
「……それ、多分、合ってる」
俺は小さく答える。
「じゃあ、お願い……」
リリィがこっちを向く。
「“思い出せなくても、消えないもの”って、あるって……言って」
その表情は、泣きそうで、それでいて笑っていた。
俺は、ほんの少しだけ距離を詰めた。
そして、彼女の指先に触れながら――
「思い出せなくても、お前が俺の大事な仲間ってことは、
絶対に変わらない。だから、大丈夫だ」
その瞬間、風が止まり、花のような香りがした。
……でもきっと、それも“記録には残らない”。
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◆ウケールの実験
「……ふふーん!名案浮かんだ!」
次の日。
「なあヨシオ、俺が寝てる間に踊ったら記憶が残るか実験しようぜ!」
「やめろウケール、くだらない実験やめろ」
「うるせー!俺のセクシーダンスは記録に残す価値がある!」
「全力で阻止するからな」
「ちょ、やめろ、うでがねじれるうぅぅ!」
――そんなやりとりも、記録に残るかどうかは、誰も知らない。
けれど、“俺たちが生きてる”ことだけは、絶対に本物だ。
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