第139話『記録外の予言者、夜を裂く声』
ギルドの前に立つ、黒衣の女。
あたりは夕焼けから夜へと移ろい、世界が息を潜めているような静けさがあった。
「……お前、誰だ?」
俺が問いかけると、彼女はゆっくりとフードを外した。
現れたのは――20代半ばほどの女性。
黒髪に琥珀の瞳。どこか、誰かに似ているような……そんな既視感が胸を掠めた。
「私は“エルディナ”。記録の外より来たりし者。
この世界が『滅びる未来』を――“見てしまった”者です」
「……予言者、ってことか?」
「予言とは違います。“記録されなかった可能性の投影”……つまり、“未来の幻影”です」
仲間たちも集まってきた。
リリィ、ウケール、マリア、エリュ、そしてテナ。
エルディナは俺たちに向かって静かに言った。
「あなたたちは今、非常に危うい分岐点にいます。
“記録された物語”の外に踏み込んだ者たちは、世界から“忘れられる”のです」
「……それって、どういう意味にゃ?」
「あなたたちが“選ばれた英雄”でなくなること。
あなたたちの功績も、存在も、すべての記録から消えるということ――」
「……冗談だろ?」
そう言った俺の声は、自分でも驚くほど乾いていた。
「そして……もうひとつ忠告を。
近いうちに、この浮遊都市に“侵食者”が現れます。
それは、“記録の誤差”として生まれた災厄。通常の魔法では対処できません」
「それを、俺たちに止めろってことか?」
「違います。これは“警告”です。
――止めるな、ヨシオ。もし戦えば、“あなたが物語の中心になる”。
その瞬間から、世界はあなたを排除し始めるでしょう」
「……」
「選ぶのはあなた。でも、時間はもうあまり残っていません」
そう言って彼女は、霧のように姿を消した。
---
◆沈黙する仲間たち
「ねぇ……これ、どうするの?」
リリィが不安そうに言った。
「未来が滅びるって……私たちが、記録されなくなるって……」
「にゃ……ボクたち、今までいっぱい戦って、いっぱい助け合って……
それが全部、消えちゃうなんてイヤにゃ!」
エリュは黙ったまま、小さな花弁を見つめていた。
「“記録に残らない存在”――それは定義上、観測者がいない限り“存在しない”とされる」
マリアがポツリと言った。
「でもそれでも……私は、ヨシオたちと過ごした記憶を“本物”だと思ってるわ」
「……オレもだ」
ウケールがぽつりとつぶやく。
「もし世界に拒絶されるとしても……俺は、仲間のために立つぜ」
「……俺も、同じだ」
思わず言葉が出た。
「記録に残ろうが残らなかろうが、
――お前らがいて、ここに俺がいる。それで十分だ」
静かに風が吹いた。
どこかで、また一輪、花が咲いた気がした。
---
◆夜明けの決意
次の日の朝。
ギルドの掲示板に、新たな依頼が出ていた。
---
【緊急調査】
浮遊都市《ヴァルト=アイン》第三層にて、
未知の“侵食魔力”を検知。調査と対処にあたれる者を募集。
・危険度:不明
・報酬:不明
・備考:該当地点では“記録花の異常成長”が確認されています。
---
「……来たな」
「……うん。あれが、彼女の言ってた“侵食者”……」
リリィの声がわずかに震えた。
でも、俺たちは決めていた。
「行こうぜ。俺たちの記録が、どうなろうと――
この世界の未来を、手放すわけにはいかねぇ」
「面白かった!」
「続きが気になる、続きが読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、
正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。
あと、感想も書いてくれるととても嬉しいです!