第138話『花咲く記録、君の影』
――迷宮“花咲く層”。
入った瞬間、思わず息を飲む。
「まるで……空気が甘いみたいだ」
天井のない空間に、紫紺の空が広がり、
足元には“記録花”と呼ばれる奇妙な植物が一面に咲いていた。
青、赤、金色、黒。
花ごとに“魔力の揺らぎ”が異なる。
「全部、“誰かの記録”を宿してるのか……?」
マリアが答える。
「正確には、“記録されなかった物語の残り香”。
未選択の分岐や、誰にも語られなかった真実――そのイメージが形を持ったもの」
「こえぇな……それ」
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◆ウケールの花
奥に進むと、風が一瞬吹いた。
そして、目の前にふわりと浮かび上がった――ひときわ大きな、緑の花。
「にゃ……? この色……ちょっと懐かしい感じがするにゃ」
「……それ、俺の、だ」
ウケールが花に手を伸ばそうとしたその時――
バチッ!
花が“拒絶するように”魔力を放った。
「うわっ!? なんで!?」
「……花は、“本人すら見たくない記録”には、防御反応を示すの」
マリアの言葉に、ウケールが複雑な顔をする。
「……俺、もしかして……自分で“自分の記憶”を消したのかもしれないな」
「ウケール……」
「でも、いまさら思い出したくねぇや。
今の仲間がいれば、それで十分だって、思ってる」
ウケールは、花に背を向けた。
その姿が、なんだかいつもより、大人びて見えた。
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◆リリィの花
その先で、見つけたのは――
深紅の花。
「これ……私の、かも」
「リリィ……?」
花は静かに揺れて、まるで問いかけてくるようだった。
そして次の瞬間、リリィの周囲に光の粒子が舞い――
「……うそ、これ……私の、夢?」
場面が歪む。
俺たちは、花が映し出す“記録の幻”の中へと引きずり込まれていった。
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◆記録の幻影:少女リリィ
そこは、小さな教会だった。
――雨漏りの音。冷たい床。
誰もいない、ひとりきりの孤児。
「……神様、わたしも、いつか“誰かの物語”になれるかな」
少女は、名前を呼ばれたことがない。
誰かに“選ばれた”ことがなかった。
ただ、ずっと――待っていた。
それが、リリィの過去だった。
「リリィ……」
俺はそっと彼女の肩に触れた。
彼女は、泣いていなかった。
でも、その瞳には確かに、想いがあった。
「ヨシオ……ありがとう。
あなたが“わたし”を、名前で呼んでくれたから、
今、私はここにいるんだと思う」
「……こっちのセリフだよ。
お前がいてくれたから、俺も今ここにいられる」
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◆戻ってきた仲間たち
光が収束し、現実に引き戻される。
リリィの手には、小さな花弁が一枚残っていた。
「これ……記録の花の欠片?」
「持ち帰れるなんて珍しいわね」
「きっと、“今”の私たちが、ちゃんと向き合えたからじゃない?」
エリュが静かにうなずいた。
「観測された記録は、存在として定着する。つまり、君たちの想いが物語になった証」
「……にゃふー、やっぱり難しい話は苦手にゃ。
でも、今のみんなが笑ってるなら、それでいいにゃ」
ウケールも笑った。
「よし、俺は明日からポジティブ担当として、花に話しかける係になるわ」
「いらねぇよ、その役」
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◆そして新たな兆し
その帰り道。
ギルドの前に、見知らぬ人物が立っていた。
全身に黒いコートをまとい、目元を隠した女。
「ヨシオ、リリィ……“記録にない者”たちよ。
私の話を、聞いていただけますか?」
その声は、懐かしさと――死の気配を宿していた。
「面白かった!」
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