第136話『転生して3秒で魔王に絡まれたんだが』
――深層記録域の戦いから数日が過ぎた。
新たな敵の影もなく、浮遊都市《ヴァルト=アイン》は、奇跡のように静かだった。
ギルドの依頼掲示板も「荷物運び」「風船回収」なんて、緊張感ゼロなものばかり。
「戦いが終わった後の日常って、こうもぽけーっとするもんなのか……」
俺は空を見上げながら、ベンチに座っていた。
そよ風が心地よい。今日は何も起こらない、そんな気がした。
「……あ、ヨシオいた!」
リリィがパンケーキ皿を持って駆けてきた。
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「じゃーん!浮遊都市名物《ふわしゅわ雲パンケーキ》!食べたかったでしょ!」
「いや、さっき飯食ったばかり――」
「関係ない!これは“別腹”!!」
「はいはい……うわ、なにこれ。雲か?」
「噛んだら消えるのよ。なんかもう、味も記憶になるって感じ!」
「意味わかんねぇよ……でも、うまっ……なんだこれ……」
「でしょでしょ!? ね、もうひとくちちょーだい」
「今食わせたのお前だろ」
「気にしない気にしない~♪」
こうしてリリィと並んでパンケーキを食ってると、なんかこう、“普通の青年”って感じがする。
でもまあ――
「英雄の仕事って、けっこうゆるいんだな……」
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そこへ突然、どっかん!という爆発音。
「にゃにゃにゃにゃ!?エリュ、それ違うって言ったにゃー!!」
「理論上は問題なかった。誤差範囲内のカタストロフよ」
「誤差で俺の毛がチリチリになるかーッ!!」
向こうの広場では、ウケールが煙をあげて転がっていた。
どうやらエリュが試作した“風魔術式シャボンバズーカ”が暴走したらしい。
「……なにしてんだあいつら」
「平和って、こういうことよね」
そうだな……これも、俺たちが守った“日常”の形なんだ。
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◆
その日の夕方、ギルドのテラスでマリアと並んで紅茶を飲んだ。
「静かね」
「悪くねぇよ、こういうのも」
マリアは、ちょっとだけ微笑んだ。
「この都市はね、“過去を捨てた者たち”が集まる場所だった。記録外として、ここに流れ着いたの。
でも、あなたたちは――この場所に“未来”を与えた」
「……俺たちが?」
「ええ。過去は記録から消えても、未来はこれから書くものだから」
彼女の言葉は、静かで強い。
「……俺、もう逃げねぇよ。自分が“記録外”でも、“物語”を選んでいくつもりだ」
「ふふ、それが“英雄のセリフ”ね。少し照れるわ」
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◆
夜、空を見上げながら、俺はふらっと広場に出た。
「いた」
後ろから声をかけてきたのは、リリィだった。
「また星見てた?」
「なんか、安心すんだよな。変わんねぇから」
「うん……でも、変わったこともあるよ。たとえば――」
彼女が、俺の袖をつまんで言う。
「……こうして、“隣にいたい人”ができたこととか」
「……リリィ」
俺は言葉を詰まらせた。
でも、それでも。
「俺も――お前が、隣にいると落ち着く。
だから、ありがとう。これからも、よろしくな」
「……うんっ!」
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その夜、仲間たちはひとつのテーブルを囲んで食事をしていた。
エリュが爆発音を出しながらスープを温め、ウケールはサラダをつまんでうまいうまい言っていた。
「にゃっ!?このニンジン、星型にゃ!?」
「味は同じよ。形が違うだけ」
「でもこういうのが嬉しいんだよなぁ……。お前らと一緒に、こうしてメシ食ってんのが」
マリアが静かに笑う。
「英雄も、記録も、運命も関係ない。
私たちがこうして笑ってるなら、それが“物語”なのよ」
「……そうだな」
夜風がそっと吹いて、遠くの空に小さな流星が流れた。
「面白かった!」
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