第131話『浮遊都市ヴァルト=アインと、記録されざる叡智』
――俺たちは、空に浮かぶ都市へとやってきた。
その名はヴァルト=アイン。
重力の法則すら一部無視して存在する、大空の浮遊大地。
浮いてるのは島だけじゃない。建物、森、さらには家畜まで。
「……牛が空飛んでる!?」
「平然と鳴いてるにゃ……あれ、落ちないの?」
「重力を捻じ曲げる魔導構造体が、空間の下層に存在しているの」
と、いつものように冷静な声で解説してくれるのはマリアだった。
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◆ヴァルト=アインと“記録外の住人たち”
この都市には、地上の記録から“存在を消された人々”が住んでいた。
記録神に“異常”と判断され、抹消された血統や魔術、民族。
だけど、彼らは生きていた。
この空の都市で、記録に頼らない方法で文明を築いていた。
「ヨシオ、ここって……まるで“別の世界”みたい」
リリィが不安そうに言う。
たしかに、言語も文化も空気すら違う。
だが、ここにも笑う人がいて、食べて、働いて、恋をしている。
そして――マリアが、その文化に馴染みすぎていた。
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◆マリアの秘密
「マリア……?」
広場の一角で、俺たちが見たのは、
複雑な文様が刻まれた浮遊石に、マリアが手を当てている姿だった。
「どういう……?」
「この浮遊文様、《フ=ルノ・アルド記述式》。
私の“元の一族”の知識体系よ」
マリアは、微笑んだ。
「私はヴァルト=アインの“記録外血族”なの。
記録神に“危険思想”と見なされ、存在を封じられた……記録前の民」
「……ずっと黙ってたのか?」
「怖かったの。私が“記録にない存在”だって知られたら……誰かが私を疑うかもしれないって」
その瞳に、微かな怯えがあった。
だが俺たちは――そんな彼女を、笑って抱きしめた。
「お前も、ちゃんとここにいた。それだけで十分だろ?」
「……ありがとう、ヨシオ」
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◆記録されざる叡智――「浮遊の心臓部」
マリアの案内で、俺たちは都市の中心部――浮遊を支える《大核石》へと向かった。
「この大核石には、“世界の重力構造”を書き換える装置が組み込まれている。
記録されていないけど、本来は“記録神の管理外技術”だったの」
「……つまり、ここに神への“対抗手段”があるってことか」
「ええ。けど、それは同時に――狙われる可能性があるってことでもある」
その時。
――カツン。
石の床に、ヒールの音が鳴った。
「やっと見つけたわ、“記録を壊す者”たち」
現れたのは、真紅のドレスに身を包んだ女。
瞳は金、背には黒い羽。
「名乗っておくわ。“忘却の観測者”レメ=ルーア。
あなたたちを“再記録”するために来たのよ」
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◆不意打ちと、決意
レメ=ルーアが指を鳴らすと、空間が歪む。
「この都市も、そろそろ限界でしょう。
記録の外にあるものは、いずれ“矛盾”で崩壊する運命なのよ」
「させねえよ……!」
俺たちは即座に剣を抜く。
けど、レメ=ルーアは一瞬だけ、ニヤリと笑っただけで、姿を霧のように消した。
「……様子見、か」
「でも確かに、あれはただの観察者じゃない」
マリアが大核石の制御盤を見ながら言う。
「近いうちに、ここに“攻撃”が来るわ。
それも……“記録に記されてない”形で」
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◆日常に戻る一瞬
その晩。
浮遊都市の外縁にある、空が見えるバルコニー。
マリアが一人で風を浴びていた。
そっと、俺も隣に立つ。
「……今でも怖い?」
「少しだけ。でも……今はそれ以上に、“ここにいられること”が嬉しい」
「なら、俺たちが守るよ。お前の存在も、笑顔も、声も」
「ヨシオ……」
彼女はそっと、寄り添ってきた。
「今だけ、少しだけ甘えていい?」
「ああ。何度でも、何度でも」
風がふわりと吹いて、空に浮かぶ島々がゆっくりと揺れた。
次の戦いは、静かに、しかし確実に始まっていた――。
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