第12話『心拍数で死ぬ恋』
「えっと……この装置、ホントに心拍を測るだけなんだよな……?」
ヨシオの胸には、妙にピンク色に光る“心拍測定魔導具”が装着されていた。
――場所は、“恋愛力試練エリア”と呼ばれる謎の神殿。
壁画には、「手を繋いだだけで蒸発した男」や「見つめ合っただけで爆発した男」など、失敗例のオンパレード。
「き、危険じゃない……? 私、ちゃんと耐えられる自信ないかも……っ」
リリィが真っ赤な顔で袖をギュッと握る。
「大丈夫、絶対叫ばない、暴走しない、誤作動させない……ってか、なんで俺がこんな恋愛爆弾試験受けなきゃなんねぇんだよ!!」
「だって、“恋愛力”が足りない人間は転職できないんですって」
「転職要件にときめき必要なのかよ!!」
今回の試練のルールはシンプルだ。
・ヨシオはヒロイン候補(今回はリリィ)と“恋愛イベント”を体験する。 ・心拍数が一定以上になったら“アウト”。 ・バレたらその場で床が抜けて沼に落ちる。
「それ、ただの羞恥地獄じゃねーか!!」
◆ステージ1:手を繋ぐだけ◆
「じゃ、じゃあ……手、出して……ヨシオ……」
リリィが震える手を差し出す。
(よし、ここは心を無にして……無心、無欲、無反応だ……)
……ふわっ。
リリィの手は柔らかくて、ほんのり温かくて、桜の香りがした。
ピコン。
【現在心拍数:98 → 115】
「やっば!? まだ手繋いだだけだぞ俺!!」
「ヨ、ヨシオ!? そんなにドキドキしてます!? わ、わたしもですっ……」
「やめて! 追い打ちやめてリリィ!!」
◆ステージ2:見つめ合うだけ◆
「じ、じゃあ……目を閉じないで……ヨシオとちゃんと、向き合いたいから……」
真正面で見つめ合う二人。
(無心、無心……俺はただの石……冷静な石……!)
リリィの目は潤んでいて、吸い込まれるような青色だった。
ピコンピコンピコン!
【心拍数:132 → 145】
「やべぇ! 鼻血出そう!!」
ゴゴゴゴゴッ……! 床が震える!
リリィが飛び込んできて、全身でカオルを抱きしめた!
「無理ですっ!! 好きですっっっ!!」
「リリィーーーーーっ!!!」
【心拍数:199】
【試練結果:アウト】
――ズボッ。
二人は見事、爆笑恋愛沼に沈んでいった。
◆そのころ外では◆
「ふふっ……やっぱり失敗したか。ヨシオは純粋だからな」
ピラミッドの外で、エリュが微笑んでいた。
「私が行ってたら、もっと厳しい試練だったのに……ふふふ」
※たぶん心拍計が爆発してる。
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