第115話『旅立ちの前日、笑って明日へ』
昇格から数日が経ち、エルグレアの朝は相変わらず水と陽光に満ちていた。
「ヨシオくん。今日、休み取ってるから――ちょっと付き合ってほしい場所があるの」
ギルドからの報告を終えた帰り、リリィがそう言ってきた。
「どこ行くんだ?」
「ふふっ、内緒。すっごく気持ちいいところだよ」
「なんかこわいな。爆発とかしない?」
「しないってば!」
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◆
向かった先は、街のはずれにある天然の露天温泉だった。
「エルグレアの《水脈の湯》……昔は神官しか入れなかったんだけど、今は解放されてるんだって」
静かな岩風呂。湯煙の向こうで、風がやさしく髪をなでる。
「ふぅぅ~~~……これは……最高だ……」
「やばいねこれ、溶けそう……」
リリィは湯に肩まで浸かって、ぷかぷかと浮かんでいる。
「ヨシオくんも、疲れてたでしょ?」
「まぁ、なんだかんだで戦い続きだったからな……」
「うん。でも、だから……今日だけは、“戦士”じゃなくて、“普通の男の子”でいて」
「……お、おう。そんな風に言われると逆に照れる」
「照れてるヨシオ、3割増しで好き」
「だからその言い回しやめろ!」
温泉の湯気の向こうで、リリィが少しだけ寂しそうな笑顔を見せた。
「たぶん……次の旅、危ないよね?」
「ああ。空の遺跡。地図にも記されてないって話だ。たぶん、今までとは別格だ」
「……じゃあ、今言っとく」
リリィが、真っすぐ俺を見た。
「……戻ってこれたら、ちゃんと話すから」
「……ああ。俺も」
それが何を意味するのか、互いにまだ口には出さない。でも、もう“わかってる”。
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◆夕方・エリュとの散歩
温泉からの帰り道、エリュと並んで歩く。
「……あの遺跡、私の故郷の古文書に出てくる」
「えっ?」
「《アヴァロス》。空に浮かぶ知恵の塔。神と人の間に立つ場所」
「ってことは、エリュにとっても“特別な場所”か」
「うん。でも、怖いの」エリュは立ち止まり、少し空を見上げる。
「もしそこに、私たちの“答え”があるとしたら――それが、壊れてしまうかもしれないって」
「壊れる“かも”しれないから、見に行かないってのはナシだろ?」
「……そうね。見届けたい。あなたと一緒に」
ふと、エリュが俺の服の袖を、そっと引っ張った。
「……もし、私が“何か”を知って変わっても……嫌いにならないでね」
「ならないよ。そんな簡単に“嫌い”になる関係じゃないだろ、俺たち」
「……そう、だといい」
その言葉に、エリュは久しぶりに、どこか安心したように微笑んだ。
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◆夜・全員集合の食卓
ウケールが全力で鍋を作り、みんなで大爆笑しながら囲んだ晩ご飯。
「うぉおお!秘伝のウケール鍋だああああああ!!」
「なぜ味が“炭”と“チョコ”の中間なんだ……!」
「リリィ、逃げて!これは毒よ!」
「おい、俺の努力の味をバカにするな!!」
「いや全員倒れてるって!」
でもその夜は、みんながよく笑って、よく食べた。
明日、また旅立つその前に。
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