第111話『水底より来たる影、少女の記憶』
水面から這い上がるようにして現れた魔水の亡者は、明らかに“何か”の呪いを帯びていた。
その体は水と泥と魔素が混ざり合ってできており、人の形をしていながら、その目だけが――赤く、まるで“恨み”を宿しているかのように輝いていた。
「くるぞ!」
俺は剣を構え、エリュがすかさず後方に展開する。
「後衛は任せて。広範囲の干渉魔術を使う!」
「リリィは?」
「私もやれる……今回は、怖くない!」
リリィの目が燃えていた。
◆
敵は複数体、運河の水から次々と這い上がってくる。
「《雷鎖連撃・雷鳴の盾》!」
リリィが咄嗟に前衛を守るように雷の結界を展開する。その内側から俺とウケールが飛び出す。
「おりゃああああああああああああッ!!」
「おまえ絶対バカ力タイプだろ!?」
ウケールの打撃が一体を吹き飛ばし、俺がその隙をついて首を断つ。
だが次の瞬間、残りの“亡者”たちが呻き声のような音をあげて連携攻撃をしかけてくる。
「……まるで知性があるみたいだ」
エリュが冷静に観察しながら呟く。
「もしかして……これ、かつての“人間”が変じたものかもしれない」
「じゃあ……誰かの記憶とか、感情を背負ってるのか?」
その言葉に、リリィがピクリと反応する。
「ヨシオ……!」
「……リリィ?」
「わたし……この景色、どこかで……見たことがある」
その瞬間、亡者の一体が突如とどまり、声にならない囁きを漏らす。
「リ……リィ……さま……?」
「――!?」
リリィの目が見開かれる。
その影は、かつての姿――人間の少女のような形へと変化していた。
◆
「ヨシオ……わたし、ここにいた。ずっと昔……この都に、わたしは住んでた……!」
リリィの中に、微かに眠っていた記憶が溢れ出す。
静かな水音、家族の笑い声、小さな祠、そして――水の神に祈る、白い服の自分。
「この都は……わたしの故郷だったの……!」
その言葉に、魔水の亡者たちが一斉に動きを止めた。
「リリィ……さま……封印を……解いて……」
「封印?」
「……都を呪いから守るため、私は“何か”を祠に封じた。でも……何を?」
リリィが額を押さえて苦しむ。
「リリィ、無理に思い出さなくていい!」
俺は肩を支える。
「……ううん、思い出さなきゃ……。ここにいる人たちの苦しみを、終わらせなきゃ!」
彼女の声が、亡者たちに届いていく。
その時――
エリュが魔術陣を展開し、彼らを静かに封じるための詠唱を始める。
「《転写・穢れし記憶、静かなる水へ帰れ》」
光の環が広がり、次第に亡者たちの姿が淡く溶けていく。
彼らは最後に微笑みながら、リリィに向けて静かに頭を下げた。
そして、完全に水へと還った。
◆
夜が明け、エルグレアの水路は何事もなかったかのように静まり返っていた。
「……ありがとな、リリィ」
「……ううん。ありがとう、ヨシオ。……一緒にいてくれて」
彼女は少しだけ涙を流した。安堵の涙だ。
エリュは近くで黙っていたが、そっとリリィの頭に手を置くと、一言だけ。
「……よくやった」
リリィは、少し照れて笑った。
「面白かった!」
「続きが気になる、続きが読みたい!」
「今後どうなるの!!」
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