第110話『青の街、静寂のささやき』
「うわぁ……!」
水の都を目の前にして、俺は思わず声を漏らした。
四方を運河に囲まれたこの街は、白と青を基調とした建物が美しく並び、水路を小舟が静かに渡っていく。
「砂漠のあとだと、天国みたいだな……!」
「水と魚と花の香り……すごい……!」
リリィが嬉しそうにスカートをひるがえし、水路沿いを跳ねる。
エリュも目を細めながら、「……ここまで湿気が心地良いとは思わなかった」と、いつになくリラックスした様子だった。
そして――
「ヨシオ!見ろよ!名物の《巨大たこ焼き》だってよォ!!」
ウケールが水辺の屋台に全力ダッシュしていた。
「……あいつはいつも全力だな」
「まあ、元気なのはいいことよ」
エリュとリリィが肩を並べて微笑む姿に、俺はほんの少しだけ、安心する。
セレナとの戦いのあと、エリュの表情は柔らかくなった。
以前のような孤高さではなく、今はほんの少し、寄りかかってくれている気がする。
そしてリリィも――どこか、言葉にできない“焦り”のようなものを感じていたけど、今は落ち着いているようだった。
「ね、ヨシオ」
「ん?」
リリィが水辺に腰を下ろして、足をちゃぷちゃぷと水に浸けた。
「このまま……ずっと旅が続けばいいね」
「……終わってほしくないってことか?」
「うん。だって、ヨシオたちと一緒にいられるから」
リリィは、小さな声で続けた。
「私ね……ここに来てから、なんだか懐かしい気がするの。見たことないはずなのに、水の匂いが落ち着くっていうか……」
「それ、前世の記憶とか……?」
「わからない。でも――この街に“何か”ある気がするの」
俺はその横顔を見て、ただ頷いた。
「じゃあ、調べようぜ。今度は戦うためじゃなくて、誰かの命令でもなくて――自分たちの足で」
「……うん」
リリィの目が、嬉しそうに細められた。
---
◆その夜――
宿屋の中庭で、エリュが一人、星を見上げていた。
「……やっぱり、ここにも魔術障壁の痕跡がある」
俺はそっと近づく。
「エリュ」
「……ああ。起こしたか?」
「いや、なんか……眠れなくて。エリュこそ、平気か?」
「少し、考え事をしていた」
エリュは夜風に髪をなびかせながら、俺のほうを見た。
「セレナの言葉が……どうしても気になる。運命からは逃げられない、と」
「でも、お前は逃げなかったじゃないか」
「そうかもしれない。だけど……怖いんだ。もしまた、誰かを守れなかったらって」
「エリュ……」
俺は迷いなく言った。
「俺たちは、お前に守ってほしいなんて思ってない。お前が一緒に笑ってくれたら、それでいいんだよ」
エリュは少しだけ目を見開いた。そして――小さく、笑った。
「……お前は、ほんとに変わったな」
「お前もな。笑うようになったし」
「……そうかもな」
そのときだった。
風が止まり、夜空に浮かぶ月の輪郭が揺れた。
「魔力の揺らぎ……?」
エリュが即座に身構えた。
「なにか、来る――!」
街の中心、運河の水が一斉に黒く染まり始める。
その水面から、赤い目をした影が現れた。
「……またかよ、せっかくの休暇が……!」
俺は剣を抜いた。
リリィ、ウケールも駆けつける。
「ヨシオ、あれ……“人間じゃない”よ!」
「なんかヤベーぞ!魔素の塊が泳いでる!!」
その正体は、“魔水の亡者”――
かつてこの都を呪いの魔術で包んだという、封じられた存在だった。
「ヨシオ、戦うわよ……!」
リリィが雷を纏い、エリュが呪文を構え、俺は剣を握る。
戦いは、また始まる――
「面白かった!」
「続きが気になる、続きが読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、
正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。
あと、感想も書いてくれるととても嬉しいです!