第107話『灼熱の預言、眠る鍵』
地下都市を離れた俺たちは、東の大陸へと向かっていた。
目指すは「砂塵の都・ナフリール」――灼熱の大地に築かれた、伝説の預言者が住むとされる街。
「ふぅ……まさか、本当にこんなに暑いとは……」
俺は額の汗をぬぐいながらつぶやいた。体感、真夏のサウナの中を旅しているようなもんだ。
「ヨシオ、もう少し姿勢を下げろ。陽の熱をまともに受けすぎてる」
となりで淡々とした口調で歩くのは、エリュ。
「いや、下げても暑いもんは暑い……それにしても、よく平気だなお前……」
「訓練を重ねれば自然と慣れる。――それに、こういう環境は嫌いじゃない」
珍しくエリュが微笑む。その顔に、俺はちょっと驚いた。
「珍しいな。笑うなんて」
「……砂の匂いは、俺の故郷を思い出すからな」
「エリュの……?」
エリュがふと視線を遠くへ向ける。
「昔、東方の山裾で育った。周囲は荒れた大地ばかりだったが、魔法を覚える前は、よくこうして旅をしていたんだ。母が、少しでも風が抜ける場所を探してな」
それは彼の過去の一端。普段寡黙なエリュが、自分から語ることは珍しい。
「その頃から、魔法の勉強してたのか?」
「いや、母が亡くなってからだ。それまでは……“普通”の子どもだった」
エリュは静かに言った。
「でも……その“普通”を守るには、力が必要だった」
その言葉の意味を、俺は少しだけ理解できた気がした。
だから、彼はあれほど魔法に厳しく、冷静でいようとするんだ。
「……お前も、色々あったんだな」
「誰にだって、あるさ」
と、エリュが目を細める。
「それでも、こうして仲間がいる。昔は想像もしなかった。――不思議なものだ」
◆
その夜。
俺たちはようやく、ナフリールの城門前にたどり着いた。
「で、これが……砂の都、か」
リリィが驚きと疲れが混ざった声を出す。
城壁の中は、異国の市が広がっていた。水色の布が風にひらめき、香辛料の香りが漂う。
「活気があるね……なんだか、ちょっと好きかも」
リリィが目を輝かせる。
「ウケール、何食べてる?」
「羊肉の串焼きだ!砂漠といえばこれだろォ!」
「仕事中だぞ」エリュが鋭くツッコミを入れつつ、俺たちはギルドに情報を求めた。
そこに現れたのは――
「よく来たな、“選ばれし者たち”よ」
砂の預言者と呼ばれる男・シェリドだった。
年齢不詳、銀の仮面に白い装束。両目を隠し、まるでこの地の神官のような雰囲気を纏っていた。
「――四つの鍵。それらは世界の理を繋ぎ、“虚無の門”を開く」
「四つ……?」
「かつて古代王朝が封じた“災厄の記憶”。その鍵のひとつが、この砂漠の地下に眠っている」
俺たちは言葉を飲んだ。
リリィが一歩進み出る。
「それは……魔石に関係しているの?」
「深く繋がっておる。お前の血と記憶も、また然り」
預言者は続けた。
「されど、“鍵”は封じられておる。古代魔術によって。そして、それを解くには――“エリュ・ヴァレンツ”の力が要る」
「……俺の?」
エリュが目を細める。
「その名を、なぜ知っている?」
「汝は“眠れる塔”の番人の血を引く者。東方の忘れられた一族、魔術の“門”を受け継ぐ者。封印を解けるのは――おぬしだけだ」
場が静まる。
エリュの表情に、わずかに動揺が走ったのを俺は見逃さなかった。
「……話が早いな。どうやら、逃げ場はないようだ」
彼は静かに頷いた。
「やるべきことなら、やるさ。今度は、守るために」
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