DAY 2 不慮の事故
雷は今日も出勤して、朝礼後の体操をしていた。今回も同僚が横に並びムーンデビルの話を始めた。
「昨日のムーンデビル凄かったなぁ」
「またそれかよ」
「強盗凝らしめたんだぜ?」
「知ってるよ、お前があまりに煩いからニュース見たよ。相手、瀕死の重症だったんだろ?普通に犯罪じゃないか」
「ヒーロー番組見たことないのかよ?」
「あれはテレビ!ここは現実!ああいうのはいつか自分達に牙を向けるよ」
同僚はつまらなさそうに相づちをうった。話題を変えようと切り替えた。
「そーだ、愛莉ちゃんだっけ?娘の。いくつになった?」
「あ~高校2年生に最近なったから…16歳だな」
「もうそんなに育ったか!早いね~ 養うの大変だろ?」
「そうでもないさ、幸い反抗期はまだ来てないよ。俺に気を遣ってるかもな」
「奥さんのことか…」
雷の年齢は36歳 顔は童顔寄りの短髪、娘と歩いていてもカップルに見えるくらいの顔立ちである。仕事柄肉体労働もあり身体は引き締まっていた。
そんな雷にも愛していた、いや今も愛している女性がいる。名前は芽衣、雷と同い年であった。
十数年前、雷と芽衣と愛莉で山へ遊びに行っときに、不慮の事故で亡くなった"ことになっている"。特に事件性もなく事故として片付けられている。
仕事が終わった雷はスーパーに寄り、夕食の食材を買い家に帰った。愛莉と週替わりで食事当番をしている。この日は愛莉の帰りが遅かった。いつもなら夕食前後には帰るはず。ここ最近の様子も少し変わった気がする。見た目のこだわりが増えたような…。
少しソワソワしながら、連絡をするが返信なく21時を回っていた。すると、玄関の開く音がした。雷は急いで玄関へ向かうと愛莉が靴を脱いでいた。
愛莉は幼い顔で目は母親似のキリッとしている。髪は胸くらいの長さで、よく色んなヘアアレンジをしながら出掛ける。
「どこほっつき歩いてたんだ?」
「ちょっと友達と遊んでただけ」
「ならちゃんと返信するんだ、心配するだろ?」
「はいはいごめんねパパ」
「…」
話し半分で流す所は雷とよく似ている。それは雷も実感しており、沁みたのか小さく小刻みに頷いた。
「夜ご飯は?」
「食べてきたから明日の朝食べる」
「お弁当箱だして、洗うから。その間に風呂入ってきな」
「はーい」
「適当な…誰に似たんだか」
ブレザーを脱ぎながら夜のニュースを見ている愛莉に、早く風呂に行けと急かす雷。
「ムーンデビルってなんかカッコいいよね」
「愛莉もか…学校でも流行ってるのか?」
「まあね、特に男子には」
「愛莉くらいの多感な時期に、こういうのは良い影響を与えない。興味持つな」
「でも、カッコよくない?」
「まさか…こういうのが好みなのか!?お、ちょ、待て!危険な男に付いていきたくなる気持ちは分からんでもないが、絶対ダメだぞ!」
「わーわー」
愛莉は両耳をタップしながら、そそくさと風呂に逃げていった。
「パパは絶対許さんぞー!」
愛人込めて育てた自分の娘を、こんな危険な奴のような者に取られるのと思うと、身震いして怒りが込み上げてくる気持ちで一杯になった。すると、またふらっと眠気に襲われる感覚に陥った。
「この時間になると眠気が…早寝過ぎるぞ…そんなにまだ年食ってないぞ?」
風呂から出た愛莉は、髪を拭きながらキャミソールとパンツスタイルでリビングを歩いた。
「あれ?パパ?パパー?」
先程までリビングで音がしていたような気がしたが、今はバラエティー番組の音しか聞こえない。
愛莉は雷の部屋を覗くと、パジャマはベッドの上に乱雑に置かれていた。
「コンビニ行ったのかな?」
ありがとうございました。
雷の親バカのようなムーブは面白いですね。