第15章 勇者ですが、なにか!!
ドラゴンを足止めしているサイガは飛ばされてもなんども立ち上がりなんども立ち向かう。
「ははは、もっとだドラゴン!! それでは俺を倒せんぞ」
とその間にナギがスッと現れた。
サイガに背を向けながらナギが話す。
「おいサイガ、勇者からの伝言だ」
「お、なんだ」
「ドラゴンを殺さず、村に入れさせるな」
「そうか、難しいな。 ははは」
「そうか…それとお前を助けた僧侶は死んだぞ」
サイガは驚いた顔したがドラゴンが向かってきたのを見たてサイガの顔が引き締まった。
「そうか、頑張らないとな」
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クロウは村で一番高い建物の上でクモグサ達を探し魔術で五感を研ぎ澄ました。
「(どこだ、どこだ、どこだ)、見つけた。あいつらドラゴンの反対方向まで逃げていたのか」
クロウは建物から降りてリリネッドに伝える。
「見つけたが、かなり奥にいた」
「どうする?」
「俺に掴まれ」
クロウは足に魔術をかけて猛スピードで走り出した。
「す、すごい、建物が避けてる」
「俺が避けてんだよ」
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クモグサたちは馬車を盗んで今でも出ようとしていた。
「ドラゴンが来る前に早くいくぞ」
とそこにクロウとリリネッドが馬車の前に立つ。
「勇者!」
「どうして?」
「俺たちがやったって証拠がないだろう」
「私は、『どうして』って言っただけだよ」
「っくう!!!」
「ソロアクはあなた達も助けてって言ってたよ。許してほしいって言ってた」
「なら、俺たちを逃がしてくれ。仲間の最後の望みなら」
リリネッドはクモグサに近寄る。
「誰が持ってるの卵」
「なんの事かな?」
クモグサは仲間に合図を送る。
それを見たブリノは拳銃を構え、カタハヤはナイフを構えたのを見てクロウが警告をする。
「おい、お前ら動くな」
近寄ったリリネッドにクモグサは首に腕を回し裸絞をして剣をチラつかせた。
「おっとお前こそ動くなよ。この女を無事でいさせたいならな」
クモグサはリリネッドと一緒に馬車に乗った。
馬車は動き出しクロウは目が据わりながら見続けた。
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村から少し離れた馬車の中。
「よしで、どうするこの女」
「少し楽しんだら、闇売り場で売っちまいばいいんだよ」
カタハヤに手を押えられ、クモグサに馬乗りにされるリリネッドは口を開く。
「一緒にいた時間は短かったけど、ソロアクがあなた達と一緒にいて楽しそうには見えなかった」
「なんだ?」
「苦しそうだった。でも、だからって何かしてあげたいとは思わないの」
「急にどうしたんだコイツ」
「私は勇者に向いてない。でもね、そんな私にソロアクは言ったの」
リリネッドは思い出す。通じ合った時に心の中でソロアクがリリネッドに背中を押して伝えた言葉を。
『君なりの勇者を世界に見せてつけろ…ですよ』
「ソロアクも冒険者だしこうなることはも覚悟していたはず…」
そしてリリネッドは一息ついて言った。
「私は勇者…勇者リリネッドだ!!」
「てめぇーさっきから何を!!」
と馬車が動かなくなった。
「今度はなんだ?」
カタハヤが後方を見ると馬車に糸のようなものが付けられていた。
遠くの方でクロウがニャリと笑って手を振っていた。
「さてと、そろそろ戻ってこい、クソ野郎ども…とバカ」
馬車に糸はゴムのように伸びたあと反発で戻って馬車は元の場所にたたきつけられた。
「馬は無事だよ~、俺が助けた」
「私はあまり無事じゃないけど」
リリネッドは羊の様なモコモコした状態で出てきた。3人が混乱している間、モコモコを脱ぎ捨ててリリネッドは持ち物を見る。
卵を見つけリリネッドは持ってクロウに近寄る。
「飛ばしていいよクロウ」
「便利なロボじゃないんだぞ」
クロウは魔術でドラゴンの近くまでテレポートさせた。と同時にリリネッドの剣がポロンと落ちた。
「さて、お前たちの命は俺に任せられてる。俺は勇者様より優しいから安心してくれ」
胡散臭い顔でクロウにがそう言うと怯える3人。
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ナギとサイガはドラゴンを止め続けていたが少しつづ近寄って来ていた。
「(斬らずに止めるってやっぱ難しいのじゃが。というかサイガのやつ)」
サイガは剣でドラゴンを殴ったり、剣でドラゴンを叩き落したりして止めた。
「サイガ、お前さんの剣じゃが」
「なんだい?」
「その剣…刃がないのじゃなぁ」
「ああそうだ」
「それでよく、旅を続けられてきたのお」
「俺は強いからな」
「馬鹿的な頑丈さだけじゃろう!!」
ドラゴンは暴走して叫び、サイガを掴んで地面に叩きつけて押しつぶす。
サイガはそれでも平気な顔を見せつけたが。
「ははは、大丈夫…(と言いたいがさすがにしんどいなぁ)」
サイガは意識が消えかけた時、走馬灯が脳内を巡った。
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サイガはとある王国の兵士の隊長を父・サイに持った子供。
兄が二人いてどちらも優秀で秀才だった。
長男・サイアは父と同じ隊長まで上り詰め、次男・テサイは兵士を動かす軍師となったが、サイガは兵士にもなれなかった。兄二人からは「落ちこぼれ」と呼ばれ、父からは「戦う戦士になるな」と言われた。
ある日『ギョク城』の城で旧勇者が持っていたとされる剣が見つかった話を聞いた父が兄二人と兵隊数人を連れて出かける事になったのを聞いたサイガは内緒でついていった。
サイアとテサイは剣を引き抜く事は出来ず、サイもできなかった。
サイガは優秀な家族がダメだったならと思った。
サイアは前向きな男だった。
剣を抜けば父や兄に認められ優秀な兵士と認めてくれるはずと思ったが…。
剣を抜くことはできなかった。
サイガは思った『なら強くなり勇敢な戦士だと思わせる男になれば…魔帝王を打ちのめせれば』と。
そしてギョク城を出て、一人で旅をすることにしたのだった。
サイガは練習用として父から持たされた刃のない剣を装備し、父の金の鎧を身に着け旅を始めた。
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サイガドラゴンの手を払いのけ、刃の無い剣でドラゴンを殴る。
向かってくるドラゴンを素手で止める。
ドラゴンは大きく叫ぶも怯まないサイガは一歩も引かなかった。
ナギもサイガの近くに立ち、構える二人の前にリリネッドがたどり着いたが向かってくるドラゴンに驚く。
「うっえぇ!!?」
「危ない」
サイガは剣でドラゴンを受け止める。
「サイガ!!」
「気にするな、俺がなんとか」
「サイガ!!」
「なんだ?」
「邪魔」
「え?」
サイガは力が抜けた瞬間、ドラゴンに飛ばされた。
ドラゴンにゆっくりとリリネッドは近寄る。ナギが構えたのを感じたリリネッドは無言で止める。
「大丈夫だよ、この子は無事だよ」
リリネッドは目の前に宝石の卵をドラゴンに見せた。ドラゴンはリリネッドの目を見た。
「安心して大丈夫だよ」
口で卵を掴んだ。ドラゴンはリリネッドの目を見て心に問い開けた。
『卵、私の子』
「そう、返すから…だからもう村を襲わないで」
『あなたは?』
「え~と~…ゆ、勇者リリネッド」
『勇者…そうか』
ドラゴンは周りを見渡す。
『もうここにはいられない。他をあたらなけらば』
「そうだよね、こんな事があったら村の人たちが襲ってくるかもね」
『…勇者リリネッド、卵を返してくれてありがとうございます。私はどこか人のいない場所に移動します』
「うん、ごめんね。人間が」
『奪うのなら襲うだけ。襲われれば戦う、人間もドラゴンも変わりません』
「そうだね」
『それでは勇者リリネッド』
ドラゴンは飛び立ちどこかへ去っていった。
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村はドラゴンを追い払った勇者に皆が大興奮。感謝の言葉が飛び交う。
リリネッドは「ち、違うよ私は何も」と問いかける前にサイアは「君が止めたんだ」と言った。
だが、リリネッドは言った。
「私はドラゴンと戦ってない、戦ったのは私の仲間のナギと…サイガ。彼らが居なかったら」
それを聞いた村人たちはサイガに集まり感謝を伝えた。
「彼はドラゴンを止めた英雄だよ」
「勇者だが」
「サイガ、君はこの私が認めた人なんだよ。自信もってこの村の英雄になって」
リリネッドはサイガの背中を押して村人達に寄り添う。
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村から離れたとおい場所、崖の奥深くまで行った所にクロウとクモグサ達がいた。
「た、助けてくれ!!」
「俺はコイツに命令されただけだ!!!」
「俺は関係ない!!」
クロウは3人をゴミを見る目で見下ろす。
「本当はソロアクが居た村にでも置いていこうと思ったけど…生まれ故郷にお前たちを置いていくのは失礼だ」
「アイツの生まれ故郷知っているのか?」
「ソロアクの話から場所はわかった。まあ~そんな事はどうでもいい」
クロウは杖を取り出して行こうとしていた。
「待ってくれ!!!」
「ソロアクから伝言だ」
「?」
「『仲間に誘ってくれてありがとう』だってよ…運が良ければ誰かが助けてくれるはずだ。そーいう場所を選んだ」
「頼む…助けてくれ?」
「その言葉は俺じゃない奴に言うべきだったな」
クロウは村に戻った。
クモグサ達は仲間同士で罵り合った。
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3日後に勇者たちとサイガは村へ出た。
サイガは「まだどこかで」そう言ってリリネッド達とは逆方へ歩き出した。
と思えば大きな鳥に掴まってしまいどこかへと飛んで行ってしまった。
リリネッド達はそれを見送った後、次の冒険へと歩き出した。
亡き友の思いを秘めて




