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鏡の中の誰か

作者: 耀海紫月

私が引っ越してきたアパートは、とても古くて安い物件だったが、家具付きで、安さに惹かれて住むことに決めた。引っ越しの後、部屋を整理していると、目の前に大きな古い鏡が立てかけられているのを見つけた。少し埃をかぶっていたが、なんとなく気に入ってそのまま置いておいた。


最初は何の変哲もない鏡だった。だけど、次第に不安な気持ちが湧き上がるようになった。何度も目を向ける度に、鏡の中の自分の姿が微妙に違う気がしたのだ。髪の流れがいつもより少し乱れているように見える。目の下のクマがひどく見える。何気なく鏡を覗くと、私の表情がひどく歪んでいたりするのだが、すぐに元に戻る。


最初はただの疲れや気のせいだと思っていた。でも、夜が深くなると、その違和感はどんどん強くなり、ついには私が鏡の前に立つたびに、鏡の中の自分が何か違う表情をしていることに気づいた。まるで鏡の中の私は、私の真似をしているかのように、微妙に違った動きや表情をしていた。


ある夜、私は寝る前にふと鏡を見た。鏡の中で、私がぼんやりと立っている姿が映っている。ただの反射だと思って見ていたが、次第に違和感が大きくなり、何かが変だと感じた。その瞬間、鏡の中の私がゆっくりと笑い始めた。最初は小さく、けれどだんだんとその笑みが広がり、顔が歪んでいくのが分かる。


目を見開いて、私は動けなかった。鏡の中で、私の顔がまるで別人のように歪んでいく。私は必死にその場から目を逸らし、深く息を吸って自分を落ち着けようとしたが、鏡の中の私の笑い声が耳の奥でこだました。目を閉じても、その笑い声が消えることはなかった。


やっとのことで目を開けると、鏡の中の私が無表情になり、今度はじっと私を見つめ返していた。その視線が、どこか冷徹で、無機質なものに感じられ、私は体を震わせた。


翌朝、私は鏡を見てみることができなかった。どうしてもその鏡を見たくなかった。でも、家の中に置いてある他の鏡を使うのも怖くて、結局、もう一度鏡を見てみることにした。恐る恐る鏡の前に立つと、今度は何事もなかったかのように普通の私が映っていた。安心したが、その安堵も束の間、鏡の角度を少し変えた瞬間、再び鏡の中の私が微かに笑っていることに気づいた。


その日から、私は鏡を一切使わないことに決めた。洗面所も、寝室のドレッサーも、何一つ使わなかった。しかし、時折、部屋の隅で鏡を見たような気配を感じ、振り返ると、鏡の中で私が微笑んでいるような気がした。


ある夜、寝る前に部屋の電気をつけて布団に入ると、部屋が真っ暗になった。恐怖で布団の中でぎゅっと目を閉じる。けれど、ふと目を開けてしまう。布団の中から何も見えなかったが。


しかし、次の瞬間、またその恐ろしい感覚が戻ってきた。


鏡の中に私が映っている。いつの間にか鏡の前に立っていたようだ。私が鏡の中で何かをしているわけではない。私はただ、鏡の中でじっとこちらを見ているだけだった。その視線が次第に不気味に強くなり、無言で私を見つめ続けるその目に、私は冷や汗をかいた。


次に目を開けた時、陽の光が入っていることに気づき、私は家を飛び出した。その後、あの家には帰らず引っ越し手続きを行なった。


そして、今でも鏡を使う度に感じるその恐怖。それが私の体にしっかりと刻まれ、私は永遠にその鏡から逃れられなくなったのだろうか。

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