ルームメイトが聖女として召喚されたので、代わりに魔術師がうちにいる。
なろうラジオ大賞6への二つ目の応募です。1000文字。
ルームメイトの部屋に異世界の魔術師がいた。
「その……ご友人は私どもの世界に聖女様として召喚されておりまして……」
目元まで覆う黒いフードの奥から、たどたどしい説明が聞こえてくる。
そういう小説流行っているよね。
私も好きだよ。
自分に関係なかったらね。
「ただ、一方的に召喚して元の世界に帰さないというのは人道的によくないと問題になり……」
やっと気づいたんだ、誘拐ってことに。
「で、それとあなたがここにいることの関係は?」
「聖女様を戻すためには、代わりに私たちの世界の者が一人こちらへ留まる必要がありまして……」
なるほど、意味分からないけれど意味分かった。
「異性とのルームシェアは不可。出てって」
「決してご迷惑かけませんので、どうか私をここに置いてっ……良い匂い……」
すでに大変迷惑なことだというのに、目の前の魔術師はこの状況で鼻をくんくんさせた。
「あぁ、カレー?」
そういえば、夕食にカレー作っていたんだった。
異世界にカレーはないのかとても興味を持たれ、私もお腹が空いていたため、とりあえず一緒に食べることにした。
深くフードを被っていたので分からなかったけど、外すと思っていたより若いイケメンだった。
カレーを口にした瞬間、顔を輝かせた。
「こんなに美味しい物は初めて食べました……! もしやあなたは城のお抱え料理人ですか?」
「普通の会社員だけど……お代わりする?」
褒められたことに気を良くした私は、ついお代わりまでさせてあげた。
けれど情けもここまで、異性とルームシェアはできない。
話を戻そうとしたら、彼はテレビのニュースを見ていた。
「あれは……?」
「え? あぁ、イルミネーションの中継?」
「綺麗ですね……」
「……近くだから行く?」
あまりにも真剣に見ているから、ついそんなことを言ってしまった。
*
半年後。
結論から言うと、友人は戻ってこなかった。
何と向こうで王子とカップルになったらしい。
異世界で幸せになります、という異世界手紙が届いた。
友人、強い。
そして、友人が戻ってこないため、あの魔術師が今もうちにいる。
友人が戻らないので彼は元の世界に帰ることができないらしい。
不憫……と思いきや、そうでもなかった。
「今日はリズニーランドに行く日ですよ! 早く行きましょう!」
「リ、じゃなくてディ、ね」
すっかりこちらの世界の服に馴染んだ彼は、遠足前の子どものようにウキウキしながら私の手を握った。
……まぁ、こちらもそういうことです。
カレーにするかシチューにするか悩みました。
読んで頂きありがとうございました!
(追記)
第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞にて、大賞に選んで頂きました。ありがとうございました!
こちらからプロの声優さんによる朗読のアーカイブを聴くことができます。
https://youtu.be/xIrPzoSyx58?si=FsE1LA9FhgY69v4F
すごいです!