80話 ハンター3と僕
ノリノリで作ったハンター3。その力は魔王をも遥かに上回る。ちょうどバルモグラがあって良かったよ。作る手間が省けた。
アスモデウス様の加護の力で、このゴーレムの操作方法が頭に入ってくる。
「むぅ、馬鹿げた大きさのゴーレムを作るとは………だが、それで儂に勝てるかな? 儂もゴーレム程度作れるのじゃよ」
シェムハザさんが杖を掲げると、魔法陣が描かれて、周囲の瓦礫が集まっていく。
『審判の時、全てを監視するもの、魔を討滅する存在。出でよ、サンダルフォン!』
その『力ある言葉』に従い、ハンター3人と同じような大きさのゴーレムが作られる。金属製のゴーレムで、堕天使のように白き翼を備えた鎧を着た騎士のように見える。
シェムハザさんはサンダルフォンの胸元に吸い込まれて、サンダルフォンの目に光が灯り、生命が灯る。
「ふふふ、面白くなってきたようじゃな。印の力が大天使と同等か確かめる時!」
「ムーッ、あ~ちゃん負けないもん!」
シェムハザさんの言葉にあ~ちゃんがペチペチとコンソールを叩いて不機嫌な顔になっちゃう。魔王が大天使の力を試そうとは、たしかに不遜だ。ここはお仕置きをするしかないだろう。
「いくよ、ハンター3!」
「力をみせよ、サンダルフォン!」
お互いが叫び、僕はレバーを握るとサンダルフォンに立ち向かう。
「まずはロロの出番うさ! ラビットミサーイル!」
ロロが目の前のコンソールに手を伸ばしポチリとボタンを押す。ハンター3の肩が開き、先端がミニウサギの顔を模したミサイルが大量に発射される。
「なんの! ホーリーアイビームッ!」
サンダルフォンが対抗して、目からビームを放つ。空を飛んで迫るミサイル群は白きビームにより薙ぎ払われて、空中で爆発していく。
「とやぁぁ!」
僕はスラスターを噴射させてハンター3を一気にサンダルフォンへと突撃させる。サンダルフォンも翼を展開させて、地上スレスレに飛んでくる。
お互いのパンチが顔に当たり、ハンター3の機体が激しく揺れる。負けずにパンチを繰り出し、お互いに殴り合っていく。
「くっ、お互いのパワーは互角のようだね」
「むぅ、これだけのパワーを引き出せるのか」
ハンター3とサンダルフォンが殴り合いを止めて、少しの間合いを取り、僕とシェムハザさんは唸る。まさかアスモデウス様のパワーでも押しきれないとは予想外だ。
「あ~ちゃんは負けないもん! チェーンジハンター3!」
ポチリとボタンをあ~ちゃんが押すと、ハンター3が分離して、戦闘機に変わると、すぐに合体する。今度はあ~ちゃんの座る椅子がセンターに変わり、ハンター3の姿も騎士のような姿から、丸っこい幼女の姿に変わった。
「むぉーっ! あ~ちゃん、メガトンパーンチ!」
あ~ちゃんが叫ぶと幼女モードの足が爆発するように膨大なエネルギーのスラスターが噴出されて突撃する。ちっこい幼女タイプなのに、繰り出したパンチがサンダルフォンに命中すると、サンダルフォンの身体が大きく凹み吹き飛ぶ。
「ぬぐうっ! 先程とは違うパワーを出すだと! ならばこれで!」
『魔を討滅せし天使の羽よ、光となり展開せよ』
シェムハザさんが動揺の声をあげて、魔法を発動させる。サンダルフォンの翼が分解されて、羽が飛び立つと、ハンター3の周囲を高速で舞う。
そして羽からビームが放たれてきて、ハンター3の身体に命中していく。
「むー、はやくてあ~ちゃんあたらない!」
ビームを放つ羽を壊そうと幼女パンチを繰り出すけど、羽の動きは速くてまったく当たらない。むーむーとあ~ちゃんは怒るけど、パワー主体の幼女モードは限界のようだ。
「なら、ここはロロの出番うさね! チェーンジハンター2うさ!」
今度はロロが鼻をスンスン鳴らして、ボタンをポチッと押す。幼女モードが分解されて、次の変形はウサギモードへと変わる。コックピットのセンターはロロ。うさが主人公うさよと、ペタペタ足をステップさせてご機嫌ウサギだ。
「ラビットステップ!」
ロロがレバーを握ると、ウサギモードの姿がかき消えて、羽から放たれたビームが空を切る。敵を見失った羽がウロウロとするが、その横にウサギモードが姿を現して、ラビットキックを喰らわして破壊しちゃう。残骸が落ちていく中で他の羽がウサギモードをロックしようとするが、また姿を消すと、羽の横に姿を見せてラビットパンチで破壊する。
ハンター2ラビットモード。超高速機動が可能なウサギモードなのだ。その機動に羽はまったくついていけない。
「超高速機動じゃと!? くっ、指示が追いつかぬ!」
シェムハザさんは視認できているようだが、羽へと指示を送るとなるとタイムラグが発生し、ウサギモードはそんな時間を与えない。
「うさーっ! ひっさーつ、ラビットキラーキック!」
ロロがレバーを倒して、前のめりすぎてコロリと椅子から落ちちゃう。けれどもラビットモードはしっかりと発動すると、ぴょんと空高くへとジャンプする。そして、短いウサギ脚をサンダルフォンへと向けると、加速して突撃する。高速での一撃。風よりも速く、音速を超えて迫るウサギモードにサンダルフォンは体をひねり回避しようとするが、右腕を含めて肩ごとごっそりと削られてよろめくのだった。
「ぬぅぅぅ、これだけのパワーを出せるとは! アスモデウスの力というわけか」
肉体を削られた個所から放電しよろめきながらも、サンダルフォンは戦いを諦めることなく、残った左腕から光の剣を生み出して構える。
「まだだ、まだサンダルフォンは力を残しておる。負けるわけにはいかぬ!」
「シェムハザさんの諦めないところは称賛するけど、そろそろ終わりにするよ! 僕の出番だ! チェーンジハンター1!」
再び3機の戦闘機に変わると、高空へと僕らは合体して騎士モードへと戻っていく。
「きゃー、あ~ちゃんが、ひっさつわじゃ、ひっさつわじゃつかうの、つーかうのー」
そして、必殺技はあ~ちゃんが担当したい模様。だいたい予想していたから、仕方ないなと譲ってあげる。
「ひとびとにあいのちからをあたえりゅ、あすでもうすぱわーちゅーにゅー!」
ペチとコンソールに手をつけると、あ~ちゃんは自分のエネルギーを注入していく。パワーゲインがどんどん伸びていき、百%を越えていく。
「アスモデウスパワー百%を超えたうさ!」
「オーケだ! それじゃ、あ~ちゃん、ロロ、トドメの一撃を出すよ!」
「りょーかい!」
「らじゃー」
ロロとあ~ちゃんの返事が返ってきて、二人と一羽はレバーを握り、コンソールにある赤いボタンを同時に押す。
「シェムハザさん、これがアスモデウス様の力。愛の力だ!」
ハンター3の身体がエネルギーに満ちていき、足元から黄金色へと変わっていく。周囲の空間がハンター3の膨大なエネルギーの余波で歪んでいき、掌に光の剣が生み出される。
「ぬぅぅぅ、サンダルフォンよ、全てを滅する力を見せよ!」
ハンター3が黄金色に変わっていき、そのエネルギーが莫大であることに気づき、サンダルフォンが飛び上がり、剣を振り上げて迫ってくる。
だけどそれは少し遅い。僕は剣を掲げると、すべてのエネルギーを込める。
「今、僕らの愛の力を一つに!」
「人参への愛うさ!」
「しゅーくりーむ、あ~ちゃんはきょうはしゅーくりーむへのあい!」
「神様への愛!」
二人と一羽の心はたぶん一つになり、剣が世界を照らすように光り輝き、剣身が空を貫くように伸びていく。
「ひっさっーつ!」
「らぶらぶせかいぎりー!」
「うさー」
天を支えるかのような巨大な光の柱となった剣を振り下ろし、受け止めようとするサンダルフォンを剣ごと光の柱で押し潰す。そうして、サンダルフォンは光の中で身体が崩壊し、存在を消滅させられるのであった。
地上に太陽が生まれたかのように爆発し、暴風が巻き起こる。地上にクレーターが生まれて、やがて静寂が訪れる。そして、ハンター3は日差しの中でキラリと輝き、その姿を消すのであった。
◇
「勝った………かな?」
万魂の魔王シェムハザのせいでクレーターとなって、どこまで深いか分からない穴を見ながら僕は辺りを見回す。残念ながら、魔王の力によりそびえ立ったビル群は消滅し、だいぶ見晴らしがよくなっていた。シェムハザさんめ、なんというひどいことをするんだ。
念の為に辺りを確認するけど、シェムハザさんが現れる様子はない。でも━━━。
「シェムハザはどうやら逃げたうさ。たぶんサンダルフォンを突撃させた時にうさよ」
「だよねぇ〜。そうじゃないかなとは思ってたよ。断末魔の悲鳴も、辞世の句も口にしなかったしさ」
ロロの言葉にへたり込んで座ってしまう。あれだけの巨体だ。囮にするのは簡単だっただろう。こっちは切り札を使ったのになぁ。
がっかりして、肩を落としていると
『シェムハザが隠していた高位ダンジョンを攻略しました。跡形もなく消滅させたので、中の魔物を含めてダンジョンコアの破壊も計算しまーす』
神様のお気楽な言葉が届いてきて、さらにファンファーレが鳴り響く。
『てれれてっててー、愚民の階位を51まで上げた!』
一気に階位が上がり、身体に力が満ち溢れていく。どうやら、クレーターにした所にシェムハザさんがダンジョンを設置していたらしい。全てを消滅させたので、経験値に変換してくれたらしい。ありがとう神様。
愛していますと祈りを捧げる僕。これでステータス面では魔王にも負けなくなった。まぁ、問題は他にもあるんだけどね。
「まーくーん、大丈夫だったー?」
避難していたあかねさんたちが、手を振りながら走ってくる。どうやら心配をかけてしまったようだ。
「大丈夫でーす。シェムハザさんのせいで、名古屋は更地になってしまいましたが。シェムハザさんが更地にしましたが」
大事なことなので2回繰り返しつつ、笑顔で手を振る。激戦だった。だけど僕らは生きている。
「命がある。生き残れた。皆は復興に向けて希望を持つと思うよ」
空を見上げて、僕は微笑むのであった。更地となった元都市に穏やかなる風が吹いてきた。
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