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追放されしニート。土地持ちとなり、異世界との交易で村興しをする  作者: バッド
4章 再会を楽しもう

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70話 混沌の駐屯所

「敵の規模はどれくらいだね?」


「わ、わかりません。情報が錯綜しておりまして、現在は各個迎撃中!」


「くっ、まさかここを襲撃してくるとは完全にやられたな、司令官へ連絡を取ってください」


 十三は焦りを感じながら部下に命じる。事務次官の自分には兵士を指揮する権限はないが、身を守るためにも部下の命を守るためにも状況を把握したかった。


 激しくビルが揺れて爆発音が近くから聞こえてくる。体勢を崩し倒れそうになるが、スッと手を差し伸べられて支えられ転倒を防げることができた。誰かと顔を上げると眼鏡をかけた女史が微笑みながら支えてくれていた。


「ありがとう、むつみさん。助かったよ」


「いえ、事務次官こそ大丈夫ですか?」


 周りを見ると皆転倒したり、壁に手を付けて体勢を崩していたが、不思議なことにむつみさんだけは揺れなどなかったかのように立っていた。バランス感覚がすごいんだなと思いながら、身体を起こし窓へと駆け寄り外を見て、顔をしかめる。


「大さそりの中に、人型の魔物がいるな。あれが襲撃の中心になっているのか」


「あれはパピルサグですね。どうやら戦車ではパピルサグには敵わないようです」


 大さそりの下半身に人間の上半身を持つ魔物を見て、すぐにむつみが敵の正体を看破する。他の部下たちも不安げに化け物を見て、十三へと助けを求める視線を向けてきた。


 窓の外では戦車が発砲を続けているが、パピルサグに命中する寸前、空中で爆散してダメージを与えることができないでいた。しかも、敵の放つ石礫により穴だらけとなってスクラップに変わっていく。対戦車ロケットランチャーを撃つ歩兵もいるが、虚しい抵抗であり皮膚を焦がすこともできずに倒されていく。


「次官、どうしますか? これ、抵抗するだけ無駄ですよ」


「待機していた冒険者たちはどこにいるんだ?」


「司令官が司令本部に集めて━━━」


 最後まで聞く前に、司令本部のあるビルが大爆発を起こした。轟音と共に炎が逆巻き、瓦礫がここまで飛んできて、いくつかの窓ガラスが割れて悲鳴が上がる。


 それを視界に入れて、皆は絶望の表情となり呆然とする。戦車で対抗できない相手でも、冒険者たちならと希望があったのに、それが一瞬で踏み潰されてしまったのだ。


「………たった今全滅したと思われます」


「くそっ、こちらの情報が漏れてるんだ! 全員撤退だ。次席指揮官に判断を仰ぐ!」


「もう高官はいないですよ。定時になるからと全員司令本部に集まっていたはずです!」


 金切り声をあげて泣き出す部下に、十三は深刻な顔となり、現状を考える。夕方というのがまずかった。まさか敵が攻めてくるとは思ってもおらず、後は夜勤に引き継ぎするだけだと弛緩していた時間でもあったのだ。


「各隊との通信途絶! 最後の通信は戦車隊は撤退する。戦車隊は撤退するとのことです!」


「もはや組織的防衛は無理ですか。こちらも全員撤退を」


 十三の指示は最後まで言えなかった。残るまともなビルは十三たちの事務所があるビルだけであり、それを見たパピルサグがジャンプすると一気に落下してきていた。


 鋏を振り上げ迫る魔物を前に、皆は逃げる時間もなく、ただ佇むのみ。目の前にパピルサグが迫り、その異形が残酷な死の訪れを感じさせる。人の顔をしているのにどこか無機質な虫のような表情が魔物なのだなと本能が教えてくれるが、抵抗する手段はない。━━━と思われたが


「とやぁぉ!」


 パピルサグが今にもビル壁に鋏を振り下ろそうとした瞬間、横合いから砲弾のごとくなにかが突撃し、その巨漢を弾き飛ばした。パピルサグは空から落下してきた勢いも余って、地面に激突すると横倒しになっていた車両に突っ込み、動きを止める。


「おぉっ、誰が助けて………あかね!?」


 誰か生き残りの冒険者がきたのかと思いきや、十三は目の前の冒険者を見て目を疑う。


「じゃじゃーん! パパ大丈夫? 軽尾あかねただいま見参! 見参って謙譲語らしいけど、これであってるかな?」


「そもそも見参なんて最近のヒーロ物でも言わないよ、あかね………」


 窓枠に着地して、得意げにサムズアップするのは我が娘であるあかねであったのだった。


           ◇


「危ないところだったね、パパ!」


 ギリギリのところだったと冷や汗をかきつつ、あかねはニカリと笑う。


「助かったよ、あかね。だが、どうやってあれだけの力を? それにその服装はなんなんだい?」


「これは、え~っと……なんでしょう? えへへ」


 はにかむような笑顔で、対パパ用誤魔化しスマイルで誤魔化そうとするあかねだったが、地面を爆走してきた車が砂煙を残して勢いよく停車することで終わる。


「あなた、大丈夫? あかねはどうやらマセットちゃんを見つけたみたいなの!」


 ドアが壊れんばかりの勢いで開くと夜子が飛び出るように出てきて叫ぶ。十三は己の妻の叫びを正確に理解して、驚きと共に笑顔に変わる。


「マセット君を見つけたのか! そうか、その服装はマセット君からもらった特別製なんだな?」


「パパ、わかりみが早すぎるよ!? 両親の阿吽の呼吸ってやつかな?」


「チッ」


 なんであれだけでわかるのと、あかねは驚き、むつみは舌打ちする。


「むつみさんどうかしたかい?」


「いえ、何でもありません。昼に食べたもやしそばのもやしが歯に挟まっていたようです」


 十三はそうだったのかと気にすることをやめて、あかねを問い詰めようとするが安心するのは早かった。


「きゅー。あかね様油断するのは早いでうさ。パピルサグは推定階位30うさよ! 全然ダメージは入ってないはず!」


 ぴょんとあかねの頭に飛び乗ったミニうさぎの声に、慌ててあかねは構え直す。見ると車両に突っ込んだパピルサグが挟まった金属片を忌々しそうに剥がしながら立ち上がろうとするところであった。殴られた顔は少し腫れて口が切れて血を流しているがそれだけだった。


「ゲゲッ、今のは会心の一撃だったのに、全然倒せてないよ!?」


「あれは魔法障壁を備えた厄介な魔物うさよ。ハンターも戦うのを嫌がる敵なのに、なんでここに? ウ~ンうさ」


 手応えはたしかにあったのだ。しかし、会心の一撃でもパピルサグにはダメージはほとんど入っていなかったのだ。あかねは怯み顔を引き攣らせて、チサはコテンと小首を傾げて不思議そうにする。

 

『この世界の冒険者か。今のは痛かったぞ。今までの冒険者とは一味違う……うん?』


 憎々しげに睨んでくるパピルサグの動きがなぜか止まる。が、その脇から小さな悪魔グレムリンが飛んでくる。


『ききっ、いーもんみーつけた。この世界の武器で死ねっ!』


 その手には自動小銃が握られており、醜悪な笑みであかねたちを狙ってくる。


「まさか魔物が銃を使うのか!」


『撃ち方はじめーキキッ!』


 驚愕する十三たちを尻目に、グレムリンはあっさりと引き金を引く。銃というものは使用が簡単だ。子供だって大人をあっさりと殺せる力を持つ。今までは魔物たちに対して、強力な武器となっていたが、その武器が人類に牙を剥いてきた。


「ここで逃げるわけにはいかないよーっ!」


 あかねは銃弾が確実にパパたちに命中すると、レベルアップにより向上した動体視力からわかってしまった。だからこそ逃げるわけにはいかなかった。


(今の私なら魔力を限界まで体に巡らせれば致命傷は負わない………と思いたいっ!)


 自分でも信じていないが、耐えるしかないと手を広げて目をギュッと瞑る。軍の銃弾は魔物用に大口径に変わっており、しかも貫通力と破壊力も上がっている。ライフル弾を受ければ、ただでは済まないかもとは分かっていたが、両親を見捨てるわけには行かないのだ。


 せめて死にませんようにと思いながら、いつ銃弾が命中するかと、こわごわと待っていたが………いつまで経っても身体に痛みは走らなかった。


「あれぇ? あ、あれぇ!? なにこれ?」


 なぜなんだろうと恐る恐る目を開いて、驚きで目を見張る。


 ━━━なぜならば、銃弾が宙で停止していたからだ。全ての銃弾が中空で停止しており、力を失いポロポロと地面に落下していった。


 停止した理由は明らかだった。紋章を中心に描いた青色の障壁があかねを包んでいたからだ。


「これ………まさかまーくんから貰ったワッペンの力? でも1ダメージしか減衰しないって……そっか! 1って魔力的な1ダメージなんだ! だから魔力が付与されていない銃弾は完全に勢いを失っちゃうんだ! と、とんでもないワッペンもらっちゃった!」

  

 ゲーム世代のあかねは兄ほどではないが、ファンタジーとかには詳しい。最近では黒幕幼女とかを読んだ覚えがあるので、すぐにピンときたのだ。


 だが驚いたのはあかねだけではなかった。


『リンボ帝国の紋章印! 貴様、冒険者ではなく、リンボ帝国の騎士か! なぜここに? まさか援軍に来たのか!』


 パピルサグもまたその障壁に浮かんだ紋章を見て、動揺の声を上げていた。予想外のことだったのだろう、パピルサグの目つきが真剣になり、警戒するように後ろに下がる。


 その様子を見て、チサがちっこい手をあげると、パピルサグへと胸を張る。


「魔王軍発見うさ! ハンターギルドは正式に魔王の出現を発表。リンボ帝国に魔王討伐の情報を伝えます」


『赤よ、白よ、紫よ。花火となって天へとあがれ』


 そうしてチサの手から魔法弾が放たれて空へと飛んでいくと色とりどりの花火となって爆発する。

 

 あかねはその魔法の意味がわからなかった。しかし、チサはあかねたちに向かって使ったわけではなかった。


『ちっ、リンボ帝国の信号弾か! 他にも騎士たちが援軍に来ているのだな! 全軍撤退だ! 殿は大さそりたちに命じろ! ハンターギルドのウサギも来ているぞ!』


 パピルサグは花火の色がどのような意味を持つのか知っていた。すぐに身を翻すと地面に空いた穴へと退却していく。他にもグレムリンたちが大量の銃器を担いで、撤退していく。


 激しかった戦闘はあっという間におさまっていき、戦っていた兵士たちがなにが起こったのかと、顔を見合わせる。


「えっと、なにがどうなったのかな? あたしの活躍のお陰……かな?」


「わからないが、それはウサギさんに聞けば良いだろう。さて、あかねは後で事情聴取だからな?」


 戦うまでもなく撤退した敵を見て、どうにも不完全燃焼気味ながらあかねは胸をなで下ろし、十三の厳しい目に、また大変そうだなぁとため息を吐くのであった。

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― 新着の感想 ―
確かにどんな銃弾も防げるワッペンとか現代に出てきたら大問題やな。どこまで防げるかで脅威度変わるけど、魔力が無いから核も放射能も効きませんだと悪夢やね。
はよスパイ処分しないと
ほほぅ、黒幕幼女を嗜んでるとは中々のお方でござるな。
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