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7話 魔法大国に転移したらしい僕

「早く家に帰りたいの。うちには赤ん坊がいるのよ、こんなエアコンも効いていない場所で生活なんてできないわ!」


「儂らは税金をお上に納めてるんだ、さっさとモンスターなど駆逐して安全宣言を出し給え!」


「ママァ、お腹すいた〜。コンビニ行ってきて良い?」


 まるで楽器を適当に鳴らしているかのように周りがガヤガヤと騒がしい。老若男女、年老いた老人が怒鳴る声や中年の女性が愚痴を口にしており、子供の泣き声など、様々な声が聞こえてくる。誰も彼も不満そうだ。

 

 正直言ってうるさい。せっかく最高級の宿屋でふんわりベッドで寝ていたのに、防音はどうなってるのかな? ううん? ………そうだったっけ? なにか違う気が………。


「メガゴブリンにやられて気絶したんでした」


 パカリと目を開けると、僕はベッドに寝ていた。さわさわと僕の掛け布団は柔らかく、触り心地が良い。背中に感じるベッドも石のように硬かったり、藁のチクチク感がないので、高級品だと分かる。ベッドはカーテンで仕切りが作られており、横に少女が板みたいなのを見ながら座っていた。


「あ、起きた! 起きたみたいだよ、ママ!」


 脇に座っていた少女は板を置いて、僕が目を開けたことに嬉しそうに騒ぐと、心配そうに顔を覗いてくる。サラリとピンクの髪が流れるように肩まで伸びて、顔立ちは親しみやすい可愛さのある整った顔立ちの美少女だ。この子はさっき僕が助けた貴族様の一人だ。目立つピンク髪だから覚えた。


「お医者さんは頭には異常はないし、身体も擦っただけだから大丈夫だと言ってたけど、念の為に避難指示が終わったら精密検査を受けなさいだって。あ、あと保険証持ってる?」


「えぇと、ハンター証なら」


 駄目だ。あれは黄金だ。銅って嘘ついたし見せられないな。


「無くしました」


 嘘を付くのは気弱な僕にとってはとても心苦しいけど、これもトラブルを減らすためだ。まるで空気を吸うように嘘を付くけど、心はチクリチクリと痛いよ。顔に出ないだけだよ。


「話の文脈が変じゃなかったかな!?」


「どこもおかしくないですよ」

 

 ケロリとした顔で、ニコリと優しい笑みを見せると、なぜか美少女はそっぽを向いて頬を染める。


「うひゃ~。破壊力抜群だよ、この子。そっか、これが恋かな」


 ちらりと僕を見てきて、またそっぽを向くと呟く。


「恋かな!」


 独り言にしては、確実に僕に聞こえる大きさでした。素晴らしいアピールですね。 


「恋かな!」


「あ、はい。聞こえてますが、僕には好きなかみがいるのですいません」


 強引なるアピールに面白くなってしまうが誠実にお断りをする。敬虔なる神の信者である僕は恋人は作れない。なにせ神に身を捧げてるのだ。


「ガハッ、酷い、初めての告白、初恋だったのに!」


 ガクリと膝をつき、絶望の表情となる美少女。ごめんね、でも付き合うことはできないんです。貴族様の娘が好意を向けてくると、どんな結果になるかも知ってるし。


「私……結構可愛いよね?」


 ちらりと僕を見てくるその顔はたしかに可愛い。守ってあげたいふわっとした感じの女の子だ。なので、誠実に答える。


「はい。私が会ったことのある女性の中でも美しいと思います」


「そっか。そうだよね。告白されたことも何回かあるし。初恋って実らないというのは本当だったんだ。学会に報告するために博士号を目指そうかな」


 なかなか面白い子だよ、この子。なるほど、僕の笑みに破壊力があるのはわかった。自身がどんな顔なのか、俄然興味が湧いてきたな。


「まぁ、振られたのは仕方ないや。初恋は実らないし」


「いや、本気ではなかったですよね? からかってました?」


 肩を竦めて非難の目を向けると悪びれることもなく、少女はニヒヒと笑い返す。


「ほら、初恋はさっさと終わらせないと、確実に失恋するから適当なところで済ませておこうかなって。まぁ、付き合えるなら付き合いたいと思ったのは本当だよ。君は見たことがないくらいに………美少女? でもパオーンは見事だったよね。着替えさせる時に驚いちゃった。あ、最初は女の子だと思って私が着替えさせたの。わざとじゃないよ」


「気にしておりません。それくらいで恥ずかしがるほど子供じゃないですし」


「子供じゃないのはさっき知ったけど。あ、でさ保険証持ってる? 連結してるなら、アイカードでもいいけど。ママが聞いておいてって言ってたの」


 ケロリとした顔で話を元に戻してくる。けど、保険証って、なんだろう? この国独自の身分証かな? アイカードって、ハンター証とは違うのかな。


「えぇと、その前に僕の荷物はどこでしょうか?」


 答える前に尋ねておく。なぜならば、今の僕は薄青の貫頭衣へと着替えさせられていた。本来の装備がどこにもない。その状態でこの国の国民ではないとカミングアウトする程間抜けじゃない。


「あぁ、えっとこっちに纏めておいてあるよ。なんというか………助けてくれてありがとうね! あのままだと危なかったかもだし」


「いえ、ハンターとして当然のことです。それに僕も助けてもらいましたし」


 頭を下げてお礼をいう優しい子に手をふりふりと振り返す。少女はエヘヘとはにかみながら、ベッドの下から箱を引き出してくれる。箱には僕の装備が揃って置いてあった。折り畳んであるコートに上着とズボン。その上に置かれているショートソード2本とスローイングタガー10本。良かった、盗まれてはいなかったか。かなり貴重だったから盗まれることを恐れてたんだ。


 これで正直に話すことができて一安心。


「で、僕はこの国の国民ではないので、保険証というものを持ってません。すいません」


「え、そこまで設定に凝るの? ここは真面目に答えて欲しいところだよ?」


「あら、保険証ないの? それは少し困ったわねぇ」


 シャッとカーテンが開くと中年女性が困り顔で入ってきた。


「でも、保険証を後で提示すればお金は返ってくるから大丈夫よ。それに今は保険証があっても仕方ないし。それよりも助けてくれてありがとう。軽尾かるお夜子やこと言います。本当に助かったわ」


「あ、私の名前は軽尾かるおあかね。たった今初恋敗れて、新たな恋を探す少女です。中学3年生だよ」


 うん? ………貴族様の名乗りが変だな。軽尾というのを共通に名乗っているところから家の名前なのだろうと予想する。とすると、この国では反対に名前を名乗るのか。ま、どちらでも良いや。


「僕はリンボ帝国のハンター。平民のマセットと言います。軽尾様にお会いできて光栄の至りです。軽尾様を助けることができて、私としても幸いでした」


 ベッドから起き上がると深く頭を下げる。今回はメガゴブリンに遅れをとったし、報酬は遠慮しよう。鮮やかに染められた服、つけているアクセサリー、それに体臭はせずに良い匂いもするので貴族様なのは間違いなかった。なので丁寧にご挨拶だ。


 と、思っていたらクスクスと二人とも笑っていた。なにか変なことを言ったっけ? この地域の礼儀作法は違うとか!?


「あははは、まーくんって面白いね。軽尾様って、厨二病もそこまで凝るのは凄いよ」


 笑いながらあかねさんが親しげに僕の肩を叩く。まーくんって、僕のこと? この子、簡単に友人を作れるタイプだ。


「私は健康ですよ。病気にはかかっておりません」


 回復したばかりだしね。得体のしれない病気にはかかってないから安心してほしい。


「いや、そうゆうことじゃなくてさ………」


「マセット君。えっと、それは本名? ご両親はいないのかしら?」


「両親はモンスターに殺されました。後は神と共に生きていましたので。それと本名ですよ」


 ニコニコと答える。と、なぜか二人とも気まずげになって顔を見合わせて暗い雰囲気となる。あ、親が死んだことに対してか。


 でも、それはもうはるか昔の話なんですよと、笑い飛ばそうとして………まずい、今の僕はとても若いんだ。見かけは12歳? それで何十年も前に亡くしました………。うん、言えないな!


「そうだったの………だからそんな格好で歩いてたのね………」


「ご、ごめんね。その、そんなこととは知らずに無神経に聞いちゃって」


 夜子さんとあかねさんが謝罪してくるけど、どうしよ!? 生まれる前に両親は亡くなりました、気にしないでくださいとか、言えないよね!


「いえ、これでも自立しているので大丈夫です。結構稼いでますし、両親との優しい思い出は僕の心のなかにしっかりとしまわれていますので」


 敬虔なる僕はそっと胸に手を当てて、静かに答える。優しい思い出は心のなかの金庫に仕舞われて出すこともできないけど。金庫の暗証番号って、どこにしまったかな?


「そう………。そうね、これからも元気に生きていくのがご両親への一番の親孝行になるものね」


「うう、わかったよ。これからは私が親友として、側にいるから!」


 なぜか僕を抱きしめてくる二人。少し涙脆くて、騙されやすいゲフンゲフン、良い人たちだなぁ。


「僕も頑張って生きていきます! 両親のためにも!」


 強い決意の笑顔で、二人へと答えておく。まぁ、嘘も方便、神様もこんな展開は喜んでくれるだろうし、気にしない気にしない。どうせこの後で貴族様たちに会うこともないだろうし。


「いやいや、そんなお涙頂戴の展開よりも、聞かないといけないことがござろう! ゴブリンを倒したあの手並みは普通ではないですぞ!」


「あぁ、良かった。起きたんだね。助けてくれてありがとう。僕の名前は軽尾かるお十三じゅうぞうだ。このうるさい息子が馬治うまはる。高1だよ」


 太っちょの男子と穏やかそうな顔つきの中年男性が入ってくる。男子はつばを飛ばして興奮しており、男性の方は穏やかな笑みで頭を下げてくれた。


「軽尾様をお助けできて、私こそ光栄です」


 返礼をしてニコリと微笑むが、男子が身を乗り出して、僕に顔を近づける。


「そのアクリル板のナイフでどうやってゴブリンを殺したでござる!? 見事に真っ二つにしてたでこざろう! 覚醒? 覚醒でござるか?」


 ショートソードを指差して、ぺっぺと唾を飛ばすので、さりげなく後ろに下がるけど、アクリル板ってなんだろう?


「ちょっと兄さん! まーくんはご両親を今回の災害で亡くしたんだって! もう少し聞き方を考えてよ」


「あ、そうなんでござるか。それは申し訳なかったでござる。だけどその玩具の剣ではゴブリンは絶対に切れないし、パンだって無理でござるぞ? 興味があって当然でござろう」


「あー。そのいかにもオタクムーブやめないかな? 今はそんな格好も口癖の人もいないのに。というか、もうアニメやゲームなんてお爺さんお婆さんもやってるし、オタクという括りないから!」


「拙者、昔のオタクに憧れてるんでござるよ。今は無個性時代で皆同じような格好ばかりで━━━」


 あかねさんと馬治さんがお互いにギャーギャーと話し合うのを横目に、十三さんがショートソードを指差す。


「それで身体が大丈夫ならなんだけど、軍の人が状況を聞きたいと言ってきてね。申し訳ないんだけど、一緒に事情聴取に来てくれるかな?」


「もちろんです。それでは着替えますので少し待ってもらって良いですか?」


 軍の事情聴取か。まぁ、この装備をどこで手に入れたかとかだろうなぁ。

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 現代社会を知らずテンプレな異世界に居た存在が令和の世界に来たら( ̄∀ ̄)のifが良く出てる今回のお話♫しかしそれでも僕らの世界とちと異なる雰囲気なのがあかねちゃんのピンクヘアーから読者に伝わりますな…
アクリルの板ならパンは切れると思いますよ。 いや、千切ってるようなものか?
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