64話 ビンチョー対僕
ビンチョーはゴーレムマスターだったらしい。しかもかなりの高位だ。
『ノックノック。うさぎのノック。お家を見せてくださいな。ほら、可愛らしいうさぎが訪れてますよ』
『ビンチョー:階位66』
「もーぐもーぐ! モグの階位を覗いたもぐね、この階位の高さに恐れひれ伏すがいいもぐよ。高いんでびっくりしているもぐね?」
ロロの鑑定をいち早く見抜いて、まぁ、ぴょんぴょん踊るので鑑定魔法を使ったのはバレバレなんだけど、ビンチョーは大口を開いて哄笑する。
たしかに超一流と言っても良い。上げにくいゴーレムマスターの階位を66まで上げるのはなかなかできることではない。しかも、魔物をフレッシュゴーレムに変えても、産卵とアリの支配をさせていたとは驚愕するしかない。魔王と呼ばれてもおかしくないだろう。
「ビンチョーさんはたしかに強いね。もしかして魔王?」
なので、一筋の希望を持って尋ねると、慌ててビンチョーさんはステータスボードを可視化させて見せてくる。
「な、なにをいうもぐ! 魔王なんてそんな言葉を勇者に聞かれたら大変もぐよ。ほら、ゴーレムマスターって、職種に書いてあるもぐね? 間違いないよね?」
ビンチョー
種族:土竜人
職業:ゴーレムマスター
階位:66
筋力:205
体力:144
器用:280
魔力:151
精神力:8
固有スキル
怪力、疑似生命体創造、怯懦
スキル
格闘術22、土魔法51、ゴーレム術70
高位の魔王だったら、ダボハゼの如く食いつくベテラン勇者たちがいるから、慌てるビンチョーさん。高位の魔王はドロップアイテムも神級だったのに、たしかに『ゴーレムマスター』と書いてあるや。チェッ。
にしても、スキルも高いし強敵だ。帝国から鉱山を奪って保有し続けているだけはあるのか。精神力が異様に低いのは土竜人は怯懦な本能があるから仕方ない。怪力なうえに器用で魔法も使えるというドワーフを上回る上位互換とも言える土竜人だけど、臆病という最悪の弱点が本能にあるんだ。
「本当はマンセマットとその部下を一網打尽にしてから、村を支配するつもりだったけど、マンセマットだけでも充分もぐ。さぁ、鉱山の支配者ビンチョーの力を見せてやるもぐ!」
ビンチョーは高笑いをすると、ゴーレムとなったクイーンを動かして、片手を上げて半身となると構えをとる。
『鉱山の支配者:ゴーレムクイーンとビンチョー』
そして、僕の眼前にボスの証がログとなってキラリと光るのでした。わざわざログを送ってこなくてもいいのに、ビンチョーさんは凝り性だね。
◇
「それじゃ、先制だ!」
『目覚めよ炎華。吹けよ炎』
僕は炎華を抜き放ち、牽制の一振りを見せる。炎華から業火が噴き出し、ブレスのように前方を焼き尽くしながら、ゴーレムクイーンへと向かうが、素直には食らってくれない。
『砂塵よ壁となれ』
地面から砂塵がカーテンのように吹き出すと壁へと変わり、炎を受け止めてしまう。
「ビンチョーさん、一節の詠唱で炎華の炎を受け止めるなんて、なかなか強いね」
「そううさね。土魔法が50を超えてるのは伊達じゃないうさ。戦い慣れてるうさよ?」
「あぁ、相手にとって不足なしだ!」
強敵である分楽しそうだと、僕は目を細めて胸を躍らせる。つまらない魔物討伐ではなく、こっちのほうが断然楽しそう。
「ももももくくぐ! ビンチョー様のゴーレム操作の妙技を見るもぐ!」
砂塵を貫いて、ゴーレムクイーンがズシンズシンと重々しい足音を立てながら突進してくる。十メートルの体格での突進はそれだけで凶器だ。食らえばただではすまない。
「ゴーレムマスターの力を見せてもらうよ、ビンチョーさん」
『おぉ、怠惰の大天使ベルフェゴールよ。素早く仕事を終えて怠惰に過ごすため、我に強き肉体を与え給え』
かなりの速さだが、対抗して身体強化を行うと、正面から迎え撃つ。迫るゴーレムクイーンへと足を掲げると、槍のように鋭い蹴りを繰り出して、その胴体を蹴り飛ばす。
他者からは突進してくるゴーレムクイーンへ絶望な対抗に見えたが、見かけに反してゴーレムクイーンの突進は止まり、その外骨格がへこみ、体液が零れ落ちていく。
「もぐ!? まさかゴーレムクイーンの突進を防ぐもぐ?」
「あぁ、脚に魔力を集中させて強化すれば、今の僕なら対抗できるだけのステータスはあるのさっ!」
引き戻しての再度の蹴り。ミシリと外骨格全体に亀裂が入り、それを見たビンチョーさんは慌ててゴーレムクイーンを後ろに下げる。
「くっ、そ、そんな馬鹿なもぐ! 階位は圧倒的にもぐの方が上なのに………一体全体どんな職種についているもぐよ!?」
「それは内緒さ。でも、僕の階位を上げさせたのは失敗だったね。あれがなければ苦戦してたよ」
「過去形にするには少し早いもぐよ! まだまだゴーレムクイーンの力はこんなもんじゃないもぐ! 部下のみなさーん! 出番もぐー!」
ニコリと微笑み呼気を整える僕を睨んで、ビンチョーさんが叫ぶ。すると、後方からガシャガシャと足音を立てて、火炎アリたちが救援にきた。金の模様が入っている外骨格なので、近衛アリだ。
でも、知性があるから、ゴーレムクイーンがフレッシュゴーレムだとは一目見てわかるはず。敵を呼んだことになるのではと思っていると、近衛アリたちの胴体がブルリと震えるとパカリと中から開き、土竜人たちが顔を覗かせる。
「もぐだー!」
さすがに驚いて、後ろで見ていたルルが嬉しそうに叫ぶ。うん、言いたかったんだね。そうか、近衛アリも全て討伐してフレッシュゴーレムに変えていたのか、中々なやるな土竜人。知らぬは眷属の火炎アリのみだったのか。
「もぐもーぐ! 部下たちもゴーレムマスターもぐ。その数は30人。もはや多勢に無勢もぐよね?」
「もぐぐ。我らゴーレムマスター軍団には敵わないもぐよ」
「完全な布陣もぐ」
「ここが年貢の遅め時うさ」
「それ、納め時もぐよ」
ロロがどさくさに紛れておちゃらけるが、しっかりと包囲してくる土竜人たち。それぞれケラケラと笑って、勝利を確信している。
なるほど。この布陣は厳しい。普通なら絶望するところだろう。普通なら。
「ビンチョーさん、土竜人でなかったら逃げてたよ。見事だ」
「む? 人種差別もぐ? もぐたちの勝ちは揺るがない! 殺れ〜!」
ビンチョーさんは僕の言葉にカチンときたようで指示を出すが、その前に僕のターンだ。
『矢のように飛び、鷹のように獲物を狙え』
ガーゴイルダガーに魔力を込めると、攻め寄せてくる近衛アリへと放つ。矢のように速く飛んでいくガーゴイルダガーは、ドスドスと近衛アリに突き刺さった。もっと正確には頭を突きだしている土竜人の真横スレスレに。
笑っていた土竜人は真横に刺さったダガーを見て、瞳を潤ませて鼻をヒクヒクと蠢かせる。
「………もぐいちぬーけた」
「にー、抜けた〜」
「最初から戦う気はなかったモグ」
その光景を見て、近衛アリから抜け出したり、顔を覆って丸まったりと、あっさりと降伏する土竜人たち。怯懦な彼らは無理はしないのだ。
「な、なにしてるもぐ!? この役立たずたちめ、それならビンチョー様直々に殺してやるもぐ!」
予測してほしかったけど、ビンチョーさんにとっては予想外だったのだろう。ぷるぷる震えて激怒すると、再び向かってくる。
けれど、さっきよりも足が遅い。ビンチョーさんも怖いのだ。その証拠に脚の一本は顔の前に掲げて、ダガーが当たらないようにしている。
「もぐーっ!」
前脚を振り上げて、さらには他の脚を横から挟み込むように振るってくるゴーレムクイーン。僕は背面跳びで横から迫る脚を躱すと体をひねり、振り下ろされる前脚からも逃れる。
「とやっ」
そして、軽くジャンプして、地面に突き刺さった前脚に飛び乗ると、テテテとビンチョーさんまで駆けてゆく。
「あわはわはわ、来たら駄目もぐ!」
『土は槍となり、砂塵は縄となる』
ぷるぷる震えながらも詠唱を行うビンチョーさん。その目の前に砂が渦巻き、槍と縄に姿を変えて、僕へと放たれる。縄が曲線を描き、僕を包み込み絡め取ろうとしてきて、それを回避する僕を槍で狙い撃つ作戦だ。
「だけど回避すると思ったら大間違いだよ、ビンチョーさん」
『目覚めよ、氷華。吹けよ氷嵐』
氷華の力を解放し、氷嵐を巻き起こし迫る砂の縄を氷漬けにする。氷嵐に耐えることは出来ずに砂の縄はただの氷柱と化し、それを見たビンチョーさんが石の槍を放つが、簡単に受け流す。
「あばばば」
さらに接近する僕へと爪をブンブン振って、遠ざけようとするビンチョーさんだけど、その動きを見切って炎華を振るう。
キンと小気味良い音がすると、ビンチョーさんの爪は半ばから切れて、ポテポテと地面に落ちるのだった。
「………」
自分の切られた爪をじ~っと見るビンチョーさん。しばらく見たら、今度は僕へと向き直る。僕はといえば、もう間合いを詰め終えて、後は短剣を振るうだけだ。
「え〜と、土竜人流のマセット様のサプライズ歓迎パーティーだったモグよ? ほんとーもぐよ?」
両手を合わせて、うるうるとつぶらな瞳を潤ませると、ビンチョーさんは可愛く小首を傾げる。
「うんうん、わかってるよ。これからは鉱石を掘ってくれるし、建設や鍛冶なども手伝ってくれるんだよね? 格安で」
もちろんサプライズパーティーだったのは知ってたよ。だから、これからは僕の仕事を手伝ってくれるよね?
「もちろんもぐ! これからはマンセマット様に魂をかけて『忠誠』を誓うもぐ!」
ゴーレムクイーンから飛び出すと土下座をしてくるビンチョーさん。魂をかけてとは大袈裟だと応えようとして━━━。
「おめでとうございます、マンセマット様。貴方の久しぶりの眷属ですね」
見知らぬ声が聞こえてきて、慌てて振り向く。ルルやあ~ちゃんたち以外は気配はしなかったのに、誰だ?
振り向いた先には白い翼を生やした少女がニコニコと微笑みながら立っていた。金髪をツインテールに纏めている小柄な可愛らしい少女だ。
そして、周りが凍りついたように動かないことも気づく。驚いたことに、ルルやあ~ちゃんも停止している。
「ふふ、驚きましたか〜? 次元の位相をすこーしずらしているのでーす。キャピッ」
「………何者でしょうか? はじめましてで良いのかな?」
「ふふっ、はじめましてはビミョーかもですね~。ミカは〜、妖精のミカリンですっ。よろしくね、まーたん」
ウインクをしてキラリと星を生み出す少女。妖精とは初めてではないけど珍しい存在だ。
「うふふ、これからはぁ、ちょくちょく会うと思うから、まーたんもミカリンのことを覚えておいてねぇ。『謙譲』と『節制』の持ち主さん」
そうして、どことなく信用できないスマイルを見せるミカリンだった。
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