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追放されしニート。土地持ちとなり、異世界との交易で村興しをする  作者: バッド
4章 再会を楽しもう

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59話 東京戦線異常なし

 後に『東京決戦』と呼ばれる戦争が薄暗い大会議室には映し出されていた。遠距離からの撮影で、放棄された家屋の間を道路を埋め尽くす数のゴブリンたちが侵攻している。ゴブリンの他にもメガゴブリンや弓や剣で武装をしたホブゴブリンたちも集団の中には垣間見えた。


 その顔は醜悪な笑みを見せており、目の前にあるものは全てその数で押して殺し尽くすイメージを与えてくる。


 道路を整然と歩くゴブリンたち、道路脇の錆びて傾いている標識が東京都の某地区へとあと何キロメートルと記されていた。ゴブリンたちは東京都へと進軍をしているのだ。


 その数を見て、会議室にいる面々は微かに恐怖からの息を吐く。空気が重くなり咳払い一つするのも難しい雰囲気になったところで、様子が変わった。


 ゴブリンたちの集団が突如として爆発する。アスファルトが砕け散り、クレーターが生まれて、多くのゴブリンたちの死骸が横たわっている。


 混乱するゴブリンたちをさらなる爆発が襲う。空から、ヒュルル〜と風切音が聞こえてきて道路が爆発すると、ゴブリンたちが吹き飛んでいく。


 敵がどこにいるか分からないゴブリンたちが慌てて周囲を見渡して、がむしゃらに矢や魔法を撃つが、家屋を破壊し、ビルの外壁に穴を開けるが敵を見つけることすらできずに、再びの爆発で死んでいった。


 数万匹はいたゴブリンたちは、爆発に蹂躙されて、先ほどの整然とした進軍はどこへやら、混乱しバラバラに四散していく。


 だが、それで終わりではなかった。銃声が遠方から一斉に聞こえてくると、銃弾の嵐の前にハチの巣となって倒れていく。数百メートルは離れた場所に機銃を配置した兵士たちが潜伏し、包囲を行っており、追撃をしていたのだ。


 そして、6輪のタイヤを備える軽戦車が走ってくると、ゴブリンたちに戦車砲を撃ち、機銃で撃ち殺し駆逐していくのだった。


 メガゴブリンや金属鎧を着たゴブリンナイトたちは銃弾に対して多少は耐えるがあくまでも多少。銃弾の嵐の前には無駄なことで、数歩進んで穴だらけとなり倒れる。逃げようとするゴブリンたちは、空から軍用ヘリが飛んできて機銃で掃射をする。


 あれだけいたゴブリンの軍勢は1時間にも満たない時間で崩壊し、あっという間に残党の掃討へと移行するのだった。


「ぶはっ、なんだね、あれが魔物の軍勢かね? 酷いものだ、これでは弱いものいじめではないか」


「首相のおっしゃる通りですな。所詮は知性のない愚かな獣です。科学の叡智の前には敵ではない」


 小太りの老人が顔を歪めて嗜虐の笑みを浮かべ、側近が合いの手を打つように頷く。


「国防大臣として感想を述べますと、街中に現れた熊は恐怖の化け物ですが、軍の前に現れても、哀れなる子羊にしか見えない、ということです。魔物たちはあくまでもゲリラのように散発的に攻撃をしてくるので恐ろしいのです」


「他の都市でも同様に魔物の軍隊を殲滅したとの報告が入っております。ですが、被害はほとんどなく、たったの数時間で圧勝したとのことです」


 得意げな口調での男たちの報告に、一気に重苦しかった空気が弛緩していく。席に座る面々は顔を見合わせると、恐怖していたのが恥ずかしいと言うように照れながら話し始める。


「やれやれ、魔物の軍隊が各都市を囲んだというから大騒ぎになったが、蓋を開けてみればこんなものか。警戒する必要などありませんでしたな」


「本当にそのとおりです。狼を恐れて城に立て籠もるようなものです。馬鹿馬鹿しい」


「砲弾を撃ちすぎではないかね? 予算は無限じゃないんだ。もう少し節約して使えないのか?」


「増税で国民の不満も限界にきてますからな。まぁ、日本人は暴動を起こさない優れた民族ですから、マスコミを押さえておけばなんとでもなりますが」


「SNSが使えなくなって本当に良かった。政府に選ばれたマスコミだけが、情報を発信していけばよいのですよ」


「まさしくまさしく。なに、増税に文句をつけつつも唯々諾々に日本人なら従ってくれて、すぐに慣れますよ。わっはっは」


 座る面々は全員国の重鎮。国会議員であった。誰も彼もが気楽な様子で話し合い、モニターに映る戦況にはまったく興味を持たなくなっていた。


「お待ち下さい! これはそう簡単なことではありません! 戦果を前に損害をお忘れでは? 将軍、損害の報告が抜けております!」


 だが、その楽観的な空気を一人の男が打ち破る。男の名前は軽尾十三。軍の事務次官に就いている男だ。険しい顔で議員たちを見渡して、最後に将軍へと視線を向けると、将軍は苦々しい顔となる。


 わざと黙っていたのだ。この戦争は圧倒的な力で勝利した。そういう印象を与えて、悪いイメージを与えないように。


「あ〜………たしかに多少の損害は生まれました。敵の親玉を殺そうと、接近したBランク冒険者23名、Cランク冒険者87名、援護をしようとした戦車17両、戦闘ヘリ2機。功績を得ようと突出しすぎた兵が死ぬことは悲しいことですが、時折あります。これは兵士の訓練不足なので、今後はこのようなことが起きないように注意致します」


 いかにも面倒くさそうに、手にある資料を読んでいく将軍は、自身の汚点が生まれたことを苦々しく思うだけで、そこには死んだ者たちへの憐憫の情は欠片も見られない。十三はそのことに強く苛立ちを覚えて軽蔑の眼を向けながらも、資料をアピールするように持ち上げる。


「みなさん、お手元の資料をご覧いただきたい。この報告によりますと、ゴブリンのボスには銃も戦車砲も効かず、戦車は段ボールで出来たかのように装甲を切り裂かれて、冒険者たちは追い詰めるどころか、ろくにダメージを負わせることもできずに敗退したとあります」


 声を張り上げて、議員たちに説明をしていくが、その表情を見て失望する。あからさまに嫌そうな顔なのだ。嫌そうな顔を隠すこともなく、資料などは汚物であるかのようにチラ見するだけだった。


「これはボスには通常兵器は効かずに、冒険者たちも対抗することができないとの証です。ボスを含む強敵を倒すため、再度の攻撃を提案致します。そこでSランク全員とAランクの冒険者たちを集めて、ボスを排除したいと思います」


「あ〜………なるほど。軽尾事務次官のおっしゃることは理解した。数匹の魔物が強力だということだね?」


「はい、そのとおりです。放置しておけば、また軍勢を集める可能性が高いとシンクタンクも予測しておりまして━━━」


 この弛緩した楽観的な空気を変えねばならないと、十三は強く危機感を持ち、説明を続けようとするが、議員の一人が手を挙げて説明を阻む。


「なにか分からないところがありますでしょうか? それならば」


「いや、説明は要らんと言おうと思ってな。君が魔物のボスの危険を憂慮する気持ちは分かる。私も国を思う気持ちは一緒だ。しかしだね、あのゴブリンたちを再び同じ数だけ集めるのにどれくらいかかると思っているんだね? 最低でも半年だろう?」


「はい、そのとおりです。なので今の時点での」


「あ~、そこだよ、きみぃ。どうせ半年後も同じ戦いになるだけだ。ド派手に勝利を重ねた戦争にな。戦勝は不満をためて鬱屈した国民たちに良いガス抜きになる。これだけの数の魔物の軍勢から都市を守っているという証拠にもなり、政府に対する信頼感も上がる良い宣伝となるだろう」


 のんびりと話す議員を前に、十三は蒼ざめた。話の行き着く先を予想できたのだ。周りの議員たちも頷いており、反論を挙げるものは誰もいない。


「それに、最高の冒険者たちを向かわせる? その間、ここの守りはどうするんだね? 国防大臣も言ったとおり、奴らの強さはゲリラ戦だ。突然、会議室に魔物が現れたらどうするんだね? ミサイルで国会議事堂を破壊して魔物を倒せと?」


「………それならば少数の冒険者たちを護衛に残し━━━」


「駄目だ、駄目だ。最高の冒険者を護衛につける。我々は忙しいんだよ、きみぃ。それぞれ各地で国民を慰撫して、正しい政治を行って、この日本の舵取りをしなければならない。死ぬわけにはいかないのだよ。民主主義にて、我々は国民の総意を受けて、政治を行ってるんだからね」


「そのとおりです、戦勝の宣伝もありますし、我々議員の命も守られる。これほど、メリットのある話もありませんな」


「まったく、事務次官は予算だけを管理しておけば良い。軍の作戦は国防大臣と将軍に任せておけば良いんだ」


 皆が賛成し、反対する気骨のある政治家がいないことを十三は嘆息しがら確信した。彼らはなんだかんだ言っても損害が出て国民に文句をつけられるのを恐れている。それ以上に自分たちが魔物に襲われて殺されないかを恐れている。自己保身の塊だった。


(なにが民主主義だ。もはや民主主義など死んでいる。投票するのは政治家の息のかかった者たちばかり。無党派層といえば聞こえは良いが、投票にすらこない国民が半分を超えているんだ。見かけが民主主義なだけの本当は独裁政治だ………)


 選挙に投票しにこない者たちは、政治に対して期待は持たず、諦観している。その行動がますます腐った政治家を作り、国の政治が悪くなるのに。そして組織で投票をする地盤を持つ政治家が国を支配する。民主主義の意味は失われていた。


 十三はこれまで、事務次官の枠を超えて、地道にロビー活動をしてきた。だが、今の状況を危険だと考えるまともな政治家は少数存在したが、彼らは一様に力を持っていなかった。なので、効果的な活動などできるはずもなく、国会でも席の片隅で小声で文句を言うくらいだ。


 現場を知っている軍の若手の将官は段々と危機感が広がっており、政治に対する不満がマグマのように段々と溜まってきているが、それが噴火するということは━━━。


「さて、大本営発表では、各地の敵軍、合わせて百万匹を僅かな損害で撃退したということでよろしいでしょうか?」


 国防大臣が話は終わりだと、立ち上がって笑顔で言うと、周りの議員たちも拍手をして締めに入ってしまった。


「賛成! 華々しく行きましょう。そうだ、提灯行列などしてはいかがです?」


「わっはっは、いつの話をしてるのですか。だが、それも良いですね。今は戦時だと国民に認識させねば」


「では、あとの話し合いはいつもの料亭で行うと言うことで」


「芸姑を呼んで派手に行きましょう。なにしろ勝ち戦ですからな」


 話し合いは終わったと、ワイワイと話しながら、十三の横を通り過ぎていく議員たちを前に、悔しさを胸に、資料を強く握りしめるのであった。


「日本の崩壊は近い………。マセット君を早く探さねば………」


 十三の呟きは誰にも聞こえなかった。

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― 新着の感想 ―
その減った冒険者っていう戦力を集め直す事が無理だと理解していらっしゃらない?あと、相手の戦力と言うか、レベルが変わらないと思い込んでるのもマイナスでさすね
恐ろしいことに、これ今の日本政府も変わらんだろうってことですな。 どこもかしこもうんざりする腐った国なのであった。
護衛だってバカばかりでないだろうからグツグツしつつでもおいしい地位もやめられないブツブツくんという不発弾結構量産されてそうな政治やなw
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