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追放されしニート。土地持ちとなり、異世界との交易で村興しをする  作者: バッド
4章 再会を楽しもう

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55話 ベカ

 ベカは農家の両親から生まれた平凡な男だ。開拓も十年程度経過して作物もなんとか安定して収穫できるようになった平凡な村で平凡に生きてきた。


 自身が洗礼時に『カラクリのドワーフ王』と、『闇に潜む影の魔王』と、たった二つの職種しか表示されなくても、そのあとに『ニート』として生きることになっても平凡だった。


 たしかに『農民』になれなかった自分は他の人より田植えも遅いし、収穫も悪かったが、それは階位の平均が10程度しかない農民しかいない平凡な農村では、少し努力をすれば挽回できる程度で、気にすることもない差異であったため、常に人手不足に悩まされている農家では、まったく差別されることもなく、気にもされなかった。それどころか、他の人よりも努力するので、反対に働き者だと褒められる始末だった。


 そんなベカに転機が訪れたのは、16歳の夏の終わりだった。その年は干ばつで田畑の収穫が悪く、祭りは控えめにしなくてはならないなと、残念がっていたものだ。不作のときに備えて、昨年の米はあって余裕はあったし、万が一凶作になった時は、農作物系のスキルを持つ領主が助けに来てくれる。なので気楽なものであったが、少しだけ計算違いがあった。


 森や山でも干ばつの影響は出ており、餌のない魔物たちが麓の村へと下りてくるとは想像していなかったのだ。


 魔物に襲われて、村を囲む柵はあっさりと壊されて、家屋は燃えて、作物は食い荒らされる。凶暴なる魔物たちにより、平凡で小さな村はよく聞く話のように、魔物に襲われて消えゆく運命だった。


 だが、そこに一人のハンターが通りがかり、魔物たちを全て退治してくれた。魔物を倒した報酬としては安すぎる僅かな天貨を受け取って、立ち去ったハンターを見て、その姿に憧れたベカは決心した。己も人々を守る英雄となろうと。


 そうして、強く引き止める両親たちを説得し、蓄えていた僅かな旅銀で期待に胸を膨らませて、帝都に上京し━━━現実を知った。


 ハンターギルドを始めとして、どこの職場でも『ニート』は嫌厭された。自身の村が特異なだけで、『ニート』はこの世界では忌み嫌われるものだったのだ。


 それでも努力をして、ある程度の腕を持つに至ったが、彼の望む英雄の姿には程遠く、希望を失いかけた自分に、どこで噂を聞いたのか、スカウトをしに来たのがジュデッカ皇子だ。


『共に世界を変えよう』


 そう言って手を差し出してきたジュデッカ皇子のために、ベカは命を賭けることを決めた。希望を託すことを決意した。


 マセットがやったダンジョンの崩壊。その時に瀕死の自分たちに声をかけてきた者の怪しい誘いを受けたのもジュデッカ皇子が了承したからだ。


 そうしてベカは英雄の反対の存在。『影の魔王』となり、異世界を混沌に落とそうと活動をして、現在に至る。


 ベカは『ニート』であるのに、英雄として誉れ高い男と対峙していた。憧れていた英雄ではなく、英雄を倒す魔王として。


           ◇


「暴食の大天使の力だとっ! いったいどんな職種につきやがったマセット!」


「その答えは得られない。得ても君は誰にも伝えることができずに死ぬのだから同じことだよね」


 大天使の翼を羽ばたかせて、黒髪の美少女となったマセットへと問いかけるが、飄々とした声音で軽口で叩き返してくるので、答えは得られないと諦めて、ベカはシャドウサーバントに慎重に包囲させる。


(刀で切られなければ、マセットを倒せるはずだ。しかしマセットの剣の腕なら躱しながらかすり傷を与えてくる程度はできる。悔しいが俺様の腕ではマセットの攻撃を躱すのは難しい。なら、どうする? どうやったら倒せる?)


『影矢』


 牽制の魔法を放つ。だがマセットはその場を動くこともせずに、刀を振るい、影矢はあっさりと切られてしまう。しかも細かな霧となって、刀へと吸収されていった。


(やはり魔法を完全に吸収するタイプ。俺様との相性が最悪だ、くそったれ)


 影の魔王の能力はシャドウサーバントが主だ。極大魔法もあるが、躱されやすいし、魔力の消耗も激しい。シャドウサーバントもはそこまでの消耗はしないが、それでも何体も召喚したら、極大魔法を使える余裕はない。どちらかを選ぶ必要があり、ベカは確実性のあるシャドウサーバントを使うことにきめた。


 だが、今は窮地に陥っている。そして、今の状況で勝つには一つしか方法がないことにも気づいている。


 即ち、単純明快な方法。


「全員で斬りかかる! 死ねっ、マセット!」


 正攻法で攻めることに決めた。見たところ、マセットは低位ポーションしか持っておらず、その肉体はもう限界に見える。こちらは上位ポーション枝も魔力ポーション枝もあり、たとえいくら魔力を吸収されても力押しで倒せるとの目論見からだった。


「ぐぉぉぉ!」

 

「それが正解だ、ベカ!」


 一斉に襲いかかるベカとシャドウサーバントを前にして、まったく臆すことなくマセットは迎え撃つ。


 いくつもの剣閃が奔り、金属音が響く。かすり傷で消えてしまうシャドウサーバントだが、ソレでも数は力であり、全力での攻撃を前に完全に回避することは難しくマセットは徐々に傷を増やしていく。黒き翼が半ばまで切られて、肩に深く傷が入るが、傷はすぐに癒やして、流麗に剣を振るい、舞うようにマセットはシャドウサーバントを倒していく。


 だが、それも時間の問題だった。ベカは魔力ポーション枝を折り、魔力を回復させるとシャドウサーバントの召喚を繰り返して、無限とも言える戦力でマセットを押しつぶそうと強引なる攻勢に出ていた。


 マセットの内包する魔力は戦えば戦うほど吸収していき、膨大な量に膨れ上がっていくが、その魔力を使う隙を与えることなどしない。1体では詠唱する時間もなく、ただひたすら戦うだけだ。


(勝てる! 勝てるぞ! あのマセットに。英雄たるマセットに!)


 歓喜しつつ、自身も攻撃に加わり押していく。戦況はベカに傾き、あと少しで倒せると思った時であった。


 マセットの指から魔力の糸がふわりと展開されるのが見える。


「神技か! だが、分かり易すぎる! 破れかぶれか、マセット!」


「くっ、だが、これなら!」


『サークルブレード』


 魔力の糸に沿って剣閃が奔り、マセットの剣撃がベカたちへと襲いかかるが、余裕を持って回避して、後ろに下がる。


 だが、その選択肢が間違いであったことに気づく。全員が後ろに下がったために、間合いを広げてしまった。


 そうしてマセットは刀を上段に構えると、人の良さそうな笑みをにこりと見せてくる。


「これにておしまいとしましょう。たくさんの魔力はとても美味しかったです。お返しに僕も料理を差し上げます」


 刀に黒き力が集まっていき、膨大なエネルギーが突風を巻き起こし、圧力を与えてきた。


「っ! まさか、吸収した魔力を放出できるのか! くそったれ、全員で襲いかかれ!」


 危険な力が発動されそうと見て、ベカは慌ててシャドウサーバントに命じるが━━━。


「もう遅い」


『暴食の料理を召されよ』


 剣を振り上げてマセットを倒そうとするシャドウサーバントたちへと、刀を振り下ろし、黒き力が解放される。


 膨大なエネルギーは防御することも回避することもできなかった。シャドウサーバントたちは触れた瞬間に霧散して、強固なはずのダンジョン製のコンテナは淡いシャボン玉のように融解して弾き飛ぶ。


 全ては漆黒のエネルギーに呑み込まれて、その姿を跡形もなく消滅させるのだった。


 大天使ベルゼブブの奥義の一つ。喰らったエネルギーをそのまま敵を倒すエネルギーへと変える『暴食の料理』だ。その威力は絶対で、抗うことを許さなかった。


 放たれたエネルギーはコンテナを消滅させて、ただの更地へと変えた。全ての敵が眼前から消え去ったことを見て、マセットは息をついて安堵し━━━。


「もらった、マセット!」


 マセットの後ろ、影からベカは飛び出すと、爪を伸ばして、切り裂こうと迫る。きっとマセットは切り札を隠していると予想をしていたベカは密かに『影転移』の準備をしておいたのだった。


 全ての力を放出したマセットはもはやベカの相手ではない。マセットの首へと爪が迫り━━━ズンと肩に強い痛みが奔った。


『矢のように飛び、鷹のように獲物を狙え』


 マセットの呟く小さな声でのセリフ。体勢を崩して、マセットから離れると、ベカは肩を見て忌々しそうに唇を噛む。肩には深く短剣が刺さっており、紫色の血が流れていた。


「『ガーゴイルダガー』か。この展開を予想して、『ガーゴイルダガー』をそこらに隠していたのか。だが、無駄なことだ。こんなものはポーション枝で、え、枝で」


 ポーション枝を素早く取り出して折るが、光りに包まれても、その傷は治らなかった。あろうことかふらついて、立つこともできずに、膝をついてしまう。


「か、回復しない? な、なぜ……ま、まさか」


 自身の魔力も体内から霧散していき、身体が重りでも背負ったかのように崩れ落ちる。その効果には覚えがあった。


 クリスタルゴッドドラゴンを倒すために用意されたたった一本の短剣。大陸宝級の毒の魔剣『千毒』だ。『魔力霧散』、『回復阻害』、『魔法封じ』の効果のある恐るべき武器。そして、マセットを倒すべく不意打ちで刺した因縁の短剣。


「いつの間に……だから腕を切ったのか」


 辺りを見渡すと、落ちている腕に持っていたはずの千毒の短剣が無かった。マセットが回収していたのだ。突き刺さったガーゴイルダガーを見ると、先端に千毒が括りつけられており、二本を放った事が分かった。本来なら括りつけて飛ばすなど不可能だろうが、膨大な魔力で強引に飛ばしたのだろう。


 いつ行ったかは見当がつく。使い魔のうさぎは戦闘の途中まで震えて丸まっていた。あの時、うさぎが密かに仕込んでいたに違いない。震えていたのは演技だったのだ。


「そのとおりです、と言いたいところですが違います。なにか方法があればと、隠し持ってました。貴方相手にはきっと暴食の料理も効かないと思っていたのです。最初に切り札になり得る『影転移』を見せたのが敗因です、ベカ」


「そ、そういや、そんなことも言ってたっけか……そうか、俺様はマセット先輩の試験は……不合格となっちまったか」


 もはや耐えきれぬ毒の威力に、ドサリと倒れ込み、ベカはどこか清々とした顔で言う。


「マセット先輩。あんたの勝ちだ」

アースウィズダンジョンのコミカライズがやってます。ピ〇コマなどで見れますので、よろしくお願いします!ピッ〇マなら、最新話以外は無料で見れます!

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― 新着の感想 ―
 序章で自分をピンチに落し入れた敵の装備で大逆転!( ᐛ )وロジカルなバトルに痺れますがなマジすげーぜマセットさん!!そして最後まで彼を侮るどころか戦う事へ敬意すら感じつつ倒れた影の魔王ベカ(・Д…
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