49話 ゴブリンだらけだと首を傾げる僕
「なんだかゴブリンが多すぎませんか? この短時間でこの数はおかしいです」
ゴブリン退治を終えて、炎華についた血を軽く振って落としながら、僕は一息つく。
「うーん、たしかに最近ゴブリンの討伐が依頼ではよくあるんだ。でも、日本はダンジョン出始めた頃からゴブリンだらけだったらしいぞ? 銃で倒せるから半年前までは問題にしなかったくらいだからな」
「そうなんですか? ゴブリンオンリーなのはおかしいと思うんですが………この間は野菜系統もいましたが、今日はどれだけ歩いてもゴブリンにしかエンカウントしません。これは少しおかしい………」
辺りに散らばる魔石を眺めながら、僕は礼場さんの言葉を聞いても納得できずにいた。やけに多い、ではなく、ゴブリンしかいないのだ。これは極めて異例なことであり、思い浮かぶ事柄がある。
「ちゃららっらったたー。レベルが上がった! ようやく2になったよ、もぉ〜」
少し離れた場所で、あかねさんが口を尖らして不満を言っている。他の皆さんはあれから階位が上がって、もう4だ。それなのに今ようやく2は遅いけど、上位職は経験値テーブルきついと言ったでしょ。
「メタルスライムがいないのかなぁ。それか倒しても復活するゴースト」
「そんな便利な魔物はいませんよ。階位の高い魔物を倒すのが早道ですね」
「えー、そうなんだ。あ、でも筋力と体力が5上がったから、身体が凄い軽くなったよ。うわぁ、なにこれ、私オリンピックに出れるかも」
身体能力が倍になって、不満はどこへやら、はしゃぐあかねさんを横目に、苦笑しながら考えるのをやめる。今考えても答えはないのだ。なら、僕たちは階位を上げつつ、ハンターギルドからの依頼を片付けることにしよう。
「おっしゃ、階位5になったよ、お前は?」
「まだ4。そろそろゴブ狩りも経験値うまくなくなってきたな。マセットさんにもう少し強い魔物がいるところにいかないか意見しようぜ」
「レベリングができて強くなれるって良いよな。俺悪魔に魂を、いや、大天使様に魂を売って良かった」
「こちらはナ忍戦黒黒でーす。階位5以下の詩人かギャンブラー募集してまーす」
「盾2枚だと火力足りなくない? 2人とも神技使えるようになってる? 忍者は遁術でもいいけど」
他の冒険者改め、新米ハンターの皆はやけにレベリングに慣れているようで、ワイワイと騒ぎながら余裕を見せている。凄いよ、新米ハンターはだいたい興奮して地に足のつかない危ない狩りをするのに、元冒険者だからか落ち着きがある。
「全く皆調子が良いな。………だが今気づいたが白魔道士がいないな? 誰も選ばなかったのか?」
「あれ、そういえば………神官も白魔道士もいないなんて珍しいですね。わざと選ばなかったようには見えませんでしたが、あかねさんは洗礼を受けた際に神官系統が職種一覧に出ました?」
傷を負ったハンターたちがポーション枝だけで回復しているのに礼場さんが違和感を感じて眉をしかめる。たしかに治癒魔法ならタダだから、ポーション枝を優先的に使うのはおかしい。
「え? 私はなかったなぁ」
「そういや、俺も君主とか神女もなかった」
「ルックスB限定だから、あんたは神女はないわよ。にしても、言われてみれば、私も回復職はなかった」
コテリと首を傾げるあかねさんを、小鉄さんと初さんも追従して不思議がる。これだけの人数がいれば二、三人は回復職はいるはずなのに変だな………。
『シーッ、そこは疑問に思わないでください。回復役がいなくて、マセットさんがポーション枝を独占すれば、回復薬を求めて信徒は増えていくはずなので』
「礼場さん、たまたまだと思う。ポーション枝があるから大丈夫ですよ」
ニッコリと人の良い笑顔で考えるのをやめるマセット君です。
脳内に小声でなにか聞こえてきたような気もするけど気のせいだ。神様の教えを広めるためには独占状態にするのは良い手段なので仕方ないよね。神様の忠実たる使徒の僕は神様の深慮遠謀に従うだけだ。
「本当か…………君の笑顔を見て、なんとなくどうしてなのかは理解できたような気もするが………悪魔的な手法に文句をつけることはできないんだろうな」
疑わしげな顔で僕の気弱なお人好しの笑顔を見て、礼場さんは諦めて嘆息する。うんうん、人間は諦めが肝心だよ。今度中位ポーション枝も作るから我慢してね。
「さて、みなさーん。そろそろ階位5近くになって、安全マージンも取れる階位になったと思います。そろそろ見習いハンターのクエスト『聖域』クリアに向かいたいと思いまーす」
パンパンと手を打ち注目を集めて、皆に告げる。そろそろここの魔物も駆逐したと思うんだ。なにせ━━━。
「おー! もうここには瓦礫の山しかないもんね。私たち少しやりすぎちゃったよね」
あかねさんがテヘペロと舌を出しておどける。
神技や魔法が飛び交ったため、かなり見晴らしの良い風景となっています。皆が張り切りすぎたせいで、僕のせいじゃないよ。家屋もビルもほとんどが瓦礫だけど、この世界の建物が脆弱なのがいけないんだ。
「は~い、マセットちゃん、『聖域』クエストってなんですか〜?」
「初さんの質問にお答えします。『聖域』とはダンジョンコアに『聖域』を発動するように願うんです。ハンターギルドが指定する低位ダンジョンを攻略して行うクエストですね」
ピシリと手を挙げる初さんへと、指差しをして良い質問ですねと説明をする。
「ダンジョンコアとはダンジョン奥にある願いを叶えるアイテムなのですが、『聖域』はダンジョンコアの階位以下のネームドモンスターを除く魔物を殲滅する願いです。一般的に低位ダンジョンコアで使い、魔物を殲滅して街や村の安全を求めます」
「せんせー、なんで、低位なんですか? 高位は使わないですか?」
「高位の魔物は数が少ないですし、そのような高位ダンジョンは森の奥深くや山の麓とか、魔物が多数生息する場所なので、殲滅しても意味がないのと、高位のダンジョンコアでは様々な願いが叶うのでもったいなくて使えないのが実情です」
「おー、わかりました。なら、これからダンジョン攻略に向かうんですか?」
「はい。ハンターギルドが指定した場所にあるダンジョンですね。ここからも見えると思いますが」
指差す先には、瓦礫の山の中にポツンと残る無傷の蒲鉾型倉庫。他の建物は崩壊したのに、無傷なのは怪しいことこの上ない。
「あー………わかりやすくて良いね。少し罪悪感が湧くけどさ」
ポリポリと頬をかき、アハハと乾いた笑いをするあかねさんと、そっぽを向いて咳をするハンターたち。どうせここらへんの建物は解体する予定だったので気にすることないのに。
「というわけで、ダンジョン攻略にしゅっぱーつ」
「うさー!」
「ダンジョン楽しみでしゅ!」
全員で目指せダンジョン攻略である。ロロもあ~ちゃんもノリノリで、他のハンターたちも笑みを浮かべて、移動を開始するのだった。
◇
蒲鉾型倉庫は、遠目にはよくわからなかったが、かなり巨大だった。壁は魔法のコンクリート製でかなり頑丈だ。窓もなく外から中は覗けない。スライドする分厚そうなる金属の扉が威容を見せていた。暗闇が倉庫内を支配しており、まるで怪物が口を開けているようだ。
「おぉ~、なんかおどろおどろしいなぁ、まーくん、これがダンジョンなの?」
「はい、ハンターギルドから渡されたマップにダンジョンマークが表示されましたし間違いありません」
皆に見えるようマジカルホログラムを宙に映して、マップを映す。そこにはオートマッピングにて表示された僕が歩いた箇所が表示されており、ダンジョンアイコンの洞窟マークが目の前の倉庫にてマーキングされていた。
「ええぇぇぇ、なにこれなにこれ? こんな便利なシステムがあるの!? 今時の優しいマップだぁぁぁ! もしかして宝箱の場所とかも表示される?」
あかねさんたちが唖然として騒ぎ始めるが、僕もこれを見たときは驚いたよ。ハンターギルドって魔法技術進んでるんだなぁと。
「これ、クエスト用にハンターギルドから渡された物で、残念ながらハンターギルドを中心に短距離の地形しかマッピングされないんです。後は自分で『オートマッピングの書』を買わないといけないんですよ。結構高いので、僕は『マッピング』の魔法で代用してますけど」
「うぅむ………魔法の世界だからと甘く見てたが、魔法の分野で科学を上回るところがあるのか………。ハンターギルドのハンターは冒険者ギルドとは比較にならないサービスがあるんだな。ハンターになって良かった」
唸り声をあげる礼場さんだが、ハンターギルドは長年の経験と技術が積み重なった組織だ。組織のボスたるマモン様は穀潰しの役立たずだけど、その配下は能力が高いのだ。
「それよりも、中に入る前に、用意するものがありますので気をつけてください」
「あぁ、わかるわかる。十フィート棒だろ?」
僕が注意を告げる前に、小鉄さんが人差し指を振ってドヤ顔になる。ほほー、よく知ってましたね。少し見直しちゃうよ
「小鉄さんの言う通り、棒が必要ですが今時はウサギです。ウサギを十フィート先行させます。ハンターギルドなら簡単に雇用できるので用意してくださいね。それかトラップを見抜ける僕のような人です」
「きゅー、ロロなら罠をたまに見抜けるうさ。突撃〜!」
ロロが手を挙げて、テテテとダンジョンへと入っていく。
「えぇ………カナリア、カナリアなんですか?」
「実乃梨さん、カナリアは死んじゃいますけど、使い魔は死なないから大丈夫なんです。ハンターギルドで雇用できるウサギは天使なので不死です。とはいえ、一回引っかかったらおしまいなので、高位になれば罠を解除できる人は必要なのですが。高位のダンジョンは罠がたくさんあってウサギでは見抜けないので」
顔を引きつらせる実乃梨さんだけど大丈夫なので安心してほしい。まぁ、気休め程度なんだけどね。
「まぁ、ウサギが死ぬまでは大丈夫だよなぁ」
小鉄さんがあ~ちゃんの後ろについていくのを見て、もう一つ言い忘れていたことを思い出す。
「あ、小鉄さん。もう一つ注意することがありました」
「ん? なんですか?」
振り向く小鉄さんへと教えてあげる。
「幼女のそばにいても駄目ですよ」
「へ?」
「このボタンなにかな〜、てい!」
壁に突き出た不自然なトンガリをあ~ちゃんはキラキラした好奇心の瞳で叩く。
「うぉ、あっちゃーーーー!」
あ~ちゃんの頭の上を熱せられた油が噴き出て、ちょうど小鉄さんの顔に吹きかかるのだった。
「幼女やハーフリングは罠にかかりにくいんです。なぜなら、人間の大人の背丈に合わせた罠なんで、当たらないんです。で、そばにいる人が巻き添えを喰らいます。特に幼女の場合は100%巻き込まれます」
「ぐわー、早く言ってほしかった! アチャー!」
絶叫してゴロゴロ転がる小鉄さんを見て、少し言うのが遅かったかなと、僕はポーション枝を取り出すのだった。
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