46話 ハンターギルドと僕
なにはともあれ、ハンターギルドはできた。木箱の前にちょこんとお座りするもふもふウサギに見えるけど、ペットではなくて、ギルド員です。
「きゃ~、このウサギ可愛い! この子たちがハンターギルドの仕事をしてくれるのかな?」
あかねさんが、獲物を見つけたジャッカルのようにウサギを抱きあげて、頬擦りをして嬉しそうだ。ハンターギルドができたことには戸惑ってはいない模様。理解が早すぎないかな?
「適応力早いですね。慣れてます?」
「うん。ゲームではよくあるパターンだから気にしないよ。国をまたいだ冒険者ギルドも、どこから技術が提供されているかわからない傭兵事務所もあるあるだからね!」
「そうそう。俺らはこういうの慣れてるんだよ」
礼場さんたちも驚いてはいない。手慣れた風で早くも掲示板を見ている人もいるよ。
「日本人って、変わってるんですねぇ」
まぁ、慣れてるなら最低限の説明で良いか。
「掲示板の依頼表を持って、受付窓口で受注します。報告も受付窓口で。魔物の買い取りは買い取り窓口。ハンター証を作らないと駄目なので、窓口で最初に作ってくださいね」
「おー! 了解!」
特に争うこともなく列を作って、静かに待つ冒険者たち。なんか怖い。もう少し欲望を前に出しても良いような気がするよ。
「皆、銅ランクから始まるうさ。えっと、礼場彰俊、階位22、職業聖人と。手を出してうさ?」
「こうかい?」
受付ウサギの言う通りに、礼場さんが手を差し出すと、ウサギは早口で呟く。
『ハンター登録完了。魂の一部をカード化』
礼場さんの掌から1枚のカードが現れる。ハンターカードだ。
「うおっ、なんだこりゃ、発行は魔法なのか?」
「そううさよ。偽造ができないように本人の魂の一部を使ううさ。これはお金のやりとり、依頼中の内容や戦闘履歴も確認できるうさよ。カードの出し入れは念じればできるうさ」
「おぉ〜、なんていうかハイテクを超えた技術だな。これなら盗まれる心配もないのか……ありがとう」
物珍しそうにカードの出し入れをしたり、階位とはなにか、ランクは銅なんだが上がるのかとか、皆が質問を終えて、なぜかすぐに理解してしまう。新米ハンターはもっと戸惑うのに日本人は不思議だなぁ。
「あ、君たちは宗派が違うので、残念ながら、特典のほとんどは使えないから、討伐か採取にしておくうさよ」
「特典とは?」
特典という言葉に敏感な礼場さんたち。特に女性たちの眼光が鋭い。特典という言葉に弱い模様。だが、その説明はウサギではなく、ルルが立ちはだかり、むふんと説明を始める。
「そこは、私が説明いたします。本来は美しく賢いとても偉い神の力を受けて、魔物の討伐にあたり、『魔石化』『ガチャ』『階位の上昇』などなどたくさんの特典が有るんです。ですが、貴方たちは………宗派が違うので特典はありません………宗派が違うので!」
悲しげに俯くルル。哀れなる人たちだとでもいうようにチラチラと視線を向けていたりもする。とてもわざとらしいが、あかねさんが手を挙げる。
「メイドさん、宗派が違うってなんですか〜?」
「はい。私が調べたところ、この異世界は辺獄と言われてます。聞き取り調査をしたので間違いありません。恐るべき邪神と堕天使が支配する世界なんです。そして、貴女たちは祝福という名前の呪を受けています!」
なんと! この世界は辺獄と言うんだ。聞いただけでも恐ろしそうな世界だよ! 誰に聞いたんだろう? この世界の情報屋かな。
「なぜ階位が上がらずに、固定されているかというのは絶賛調査中ですが、邪神と堕天使たちの仕掛けた邪悪なる策謀に違いがありません!」
頭脳明晰な名探偵ルルだ。まるで最初から知ってたかのような推理に感心しちゃうよ。裏で頑張って調査をしてくれていたんだね、ありがとうルル。
「階位って、レベルのことですか? あれは上がるものではないのでは?」
「領主様の言うとおりです。普通は強くて優しくて美しい神様の加護を受けてレベルアップします。自愛の神である神様は人間をとても可愛がっています。その力はというと様々な特典があります。経験値を取得する『魔石化』、様々なアイテムが手に入る『ガチャ』などなど、魅力たっぷり! イベントだってたくさんあって信者からは大人気!」
なにやら宣伝を始めるルル。その目はギラギラと深い闇を伴って輝いてる。そんなルルも愛らしくて可愛らしい。声の響きから慈愛ではなく自愛に感じるが聞き間違えにしておきます。
「え~と………宗派を変えれば、それらの特典がもらえるんですか?」
「そうです! この世界の運営はゴミですよ。運営はとりあえずなんとかエルを付ければ偉く見えるだろうとアホな考えから、ウッキーと森で遊ぶ猿エルとか、あたしぃこの仕事よくわからな〜い、教えて〜、ついでにやって〜とオタサーの姫プレイをするあざとい女子のミカエルとか、カマエルはもうこのご時世ではオネェエルに改名しないといけませんし、ウリエルなんか………くっ、ウリ、エルがなにをしているのかは、とてもではありませんが私の口からはいえません」
力説するルルはまるで堕天使たちに恨みがあるような憎しみのこもった語り口だけど、それだけ堕天使が酷いんだろう。なぜか礼場さんたちはドン引きしてるけど。
「すげぇ、ここまで天使様をディスる人は初めて見たぜ………」
「お、恐ろしい………」
「ハルマゲドンが起こる理由わかったわ……」
「というわけでーーー! 宗派を変えないと、ハンターとしての活動にも支障が出ると思うんです。偶然、私は洗礼が行えますので、宗派変えません?」
皆の声にかぶせて、ルルが顔を上げるとフンスと叫ぶ。特典がいっぱいで、愛すべき神様を信仰するんだから、断る理由はないよね。
「えっとルシフェル様を信仰する条件はなんですか?」
「それは簡単です。名前と魂を捧げると誓えば改宗は終了です。その瞬間から、貴方は神様の信者! 職種を選択できますよ」
ニコニコと説明するルル。僕たちの世界では常識なのに、なぜか皆は嫌そうな顔だ。
「えっと………まーくんも洗礼を受けたの? 突然悪魔とかにならない? 死んだり食べられたりしないの?」
「領主様ももちろん洗礼を受けてます。それに悪魔化とか、食べられるとか、それは遥か大昔のルールですね。まったく生産性がないことに神様は気づいて、職種は人間に選ばせることとなりました! 本能だけで生きる悪魔たちばかりでは、欲望って生まれないんです。単なる本能だけなんで。今は死んだら転生させるために神様が預かるだけですよ」
「あぁ、カオスも時間が経てばロウになるパターンは本当だったのか………」
話の内容はよくわからないけど、皆は納得したみたい。
「は~い、それじゃ軽尾あかねは魂を捧げて信仰しまーす」
「きゃ~! やった。遂に人界ゲフンゲフン辺獄で信者の獲得に成功しました。これもアホな大天ゴホン、堕天使たちのやらかしのお陰でゲフンゲフン、あかねさん、ありがとうございます。では軽尾あかねは私の名のもとに加護を与えん!」
あかねさんが手を挙げると、あっさりと洗礼の言葉を口にして、それを聞いて飛び跳ねて大喜びのルルから洗礼を受ける。あかねさんの額をちゃんとつついて、こいつめーと微笑み、お茶目な洗礼で終わりである。
「軽いですわね! 魂を掴まれるのですわよ!」
「だって、私、Eランクだし、このままだとあっさりと魔物に殺されそうだし。それに、まーくんの世界で常識なら、別に怖がる必要ないんじゃないかなぁ?」
「むむむ………たしかにおっしゃるとおりですが……おっしゃるとおりですが………わたくしは様子見とさせていただきますわ」
大慌てのローズさんはあかねさんの言葉に顔をしかめて、口を閉じる。あかねさんの身体がほのかに光って、あかねさんの眼前には神の恩寵たるステータスボードが見えているのだろう。ホホゥと指先を宙に彷徨わせている。
「あかねさん。青文字の職種にしてくださいね。絶対ですよ。赤文字だと魔物や悪魔に変身するので殺さなくてはなりません。それと人間以外のエルフとかドワーフもなどの種族も個人的にはお勧めしません、なにせ性格が変わりますので。エルフは植物みたいにじっと過ごすことが多くなりますし、ドワーフは酒に目がなく、ぶっちゃけ頑固で適当な性格になるんです」
個人的な好みだけどね。人間は人間で良いと思うんだ。もしエルフを選びたいならダークエルフが良いよ。エルフの上位互換だから。
「そ、そっか………えっと『格闘王』と『格闘家』はどっちが良いの?」
どうやら滅多に出ない上位職種があかねさんは出た模様。純粋に凄いけど、考えものなんだよね。
「上位職は階位を上げる経験値が普通の十倍以上となります。最終的には強くなりますけど、長い時間かかりますし、それはお好みですが、普通は格闘家ですね。老いて最強になるよりも、若いころに強くなったほうがなにかと助かりますし、スキルを高めれば、格闘家も格闘王に負けない力を得ることができますしね。あと、上位職は最初から強力な魔物が徘徊する地域なら、選ぶのも正解です。バンバンと経験値稼げますし」
「それならこれからはまーくんと共に行動して強力な魔物たちと戦う予定だから『格闘王』だね!」
なにやらよくわからない理由から、あかねさんは『格闘王』を選ぶのだった。選んだ瞬間に、少しあかねさんの身体が引き締まり、強者の雰囲気を醸し出す。敵のステータスを少しだけ下げる『格闘王』の固有スキル『威圧』だ。他に『格闘ダメージ2倍』と『格闘術2倍』だったかな?
「おぉ、なんだか強くなった気がするよ?」
グーパーと、手を開いたり閉じたりして、あかねさんは自分の力を確認する。
「初期ステータスが高いからですよ。でもスキルを上げないと宝の持ち腐れなのでこれから頑張ってくださいね。それじゃ特典を説明します」
魔石化などの説明をしている間にも、ハンターとなった新米の中で何人かは洗礼を受ける。
「へへっ、アスモデウス様のためにも俺は頑張るぜ! 『侍』を選んだから、魔法も使えるようになったはず!」
「あほ、侍は刀が無いと弱いんだぞ。俺は『戦士』だ。こういう基本職が意外と最後まで使えるんだよ」
「私は『魔道士』。中位の職みたい。まぁ、小鉄だけだと不安だから一緒に洗礼を受けてあげたの」
どうやら礼場さんたちは、小鉄さんが『侍』、田草さんが『戦士』、初さんが『魔道士』を選んだらしい。礼場さんと実乃梨さんは洗礼を受けなかった。
「全員転職すると、レベル上げの効率が悪くなるからな。俺と実乃梨が手伝うから、さっさとレベルを上げてくれ」
なんかレベリングに慣れてるね?
「それじゃ、皆さんにハンターの最初の仕事をプレゼントうさ。ここ一帯の魔物を『聖域』を使用して駆逐してうさね」
受付ウサギの言葉に、皆はナンノコッチャと小首を傾げるが大丈夫。早速武具を装備して、クエストをクリアしに行こう。武具の貸し出しはトイチで良いよ。
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