45話 武具を見せる僕
木箱の中身を見て、皆は戸惑った顔となる。それはそうだろう。中身は木の枝ばかり━━━。
「きゃぁ、みつかっちった。次はあ~ちゃんが鬼でしゅか?」
違った。あ~ちゃんが隠れてました。頭に手を乗せて、木箱の中に丸まって入ってました。キャッキャッと嬉しそうなのでかくれんぼをしていたんだね。
「ロロもバレちゃった。次はロロが鬼うさ?」
隣の木箱にはロロが隠れてました。ウサギも木箱の中に丸まって寝てました。これ、鬼いないでしょ? 2人とも隠れてたでしょ? 幼女あるある、夢中になると、何をしているのか目的を忘れるのだ。きっとかくれんぼと聞いて、鬼を決めずに隠れちゃったのだろう。
まぁ、つかみは十分ということで、もう一つの木箱を開けてみせると、木の枝ばかりが入っているのを、皆が確認する。
「マセット君、これは、ポーション枝なのかい? それにしては、かなり大きいが」
礼場さんが一本手にとってみるが、長さは2メートルほどの普通の木の棒だ。どこからどう見ても回復アイテムにはみえない。
「もちろんポーション枝ではありません。これは『ヒノキの棒』です。簡単なお店をやろうと思いまして、持ってきました」
「ひ、ヒノキの棒?」
ざわりと皆がざわついて、気まずそうに顔を見合わせる。ヒノキの棒になにかあるのかな? この間のキングベジタブルの残骸を頑張って木の棒にしたんだけど。結構苦労したんだよ、錬金術は大変なんだ。
「俺らはタングステンの剣や槍を持っているんだ。世界最硬と呼ばれる金属なんだぜ」
小鉄さんが、フフンと自慢げに斧を見せてくる。たしかにその金属の輝きはかなり硬そうな雰囲気だ。
「ローンで買った2千万円の斧なんだ。まだ5回支払いが残ってるんだ、すげーだろ!」
………小鉄さん、家も売って投資しなかったっけ? 支払い大丈夫なのかしらん。でも、その斧は問題があるんだ。どうやら周りの冒険者たちも同様の装備なので、ヒノキの棒への蔑視が見えている。たしかに最安値の武器だけど、これは単に削っただけの棒じゃない。
そのことを教えてあげないといけないだろう。
「これは錬金術で作られた物なんです。魔石を付与したしっかりとした武器なんですよ。その金属を固めただけの紛い物とは違うんです」
「紛い物って? これ冒険者の一般的な装備だよ、まーくん。タングステン鋼は武器の中でも最強なんだから」
「紛い物と言うだけの理由はあるのかい?」
あかねさんが首を傾げて不思議そうにして、礼場さんは僕の言った意味を考えあぐねている。それなら、証明をしないとね。
「えっと、そうだな、小鉄さんの斧とヒノキの棒を打ち合わせてみていいですか?」
「あ、あぁ、なんというか……その、やめておこうかな? テンプレのパターンかなぁと」
予想外に日和る小鉄さん。わかったよと素直に答えてくれると思ったんだけど、顔を歪めて身体を引いている。てんぷれってなんだろ?
「なに言ってんだ、小鉄はテンプレをやってくれる英雄だろ?」
「そうそう、幼女を敬う小鉄ならできるって」
「あんたの武器ならテンプレを破れるわよ。なにせ自慢の斧だもんね」
「えぇっ? そ、そうか? へへっ、そうだよな、ヒノキの棒になんか負けるわけないよな」
礼場さんたちが小鉄さんを応援して、頭を掻いて照れる小鉄さんは斧をテーブルに置いてくれる。テーブルがずっしりとした斧の重みで揺れて、威圧感を見せつける。たしかに見た目は頼りになりそうな武器だ。
「ロロ、ヒノキの棒を」
「あ~ちゃんやりまつ! あ~ちゃんひっさーつ、『テンプレーション』!」
ロロにお願いしようとしたら、こんな面白そうなことを幼女が見逃すはずがなく、真っ先にヒノキの棒を掴んで、小柄な身体をそらして振りかぶると、思い切り斧を叩く。
振り下ろした際に花びらが舞い散り、可視化できるほどの高濃度の魔力がそよ風となり、周囲へと吹く。そして、振り下ろされたヒノキの棒は見事に斧に命中し、コツンと音を立てて、微細なヒビを作ると━━━ヒビが走り、斧全体に広がると砂粒へと変えるのだった。
「きょわぉぁぁ! やっぱりテンプレだった。テンプレだったよ。しかも砂になった! 普通は折れるとかヒビが入る程度じゃねぇの!? 俺のローンがぁぁ」
絶叫して泣き叫び、崩れ落ちる小鉄さん。
「あ~ちゃん、頑張ったでしゅ。褒めて良いでしゅよ!」
えっへんと胸をそらす幼女だ。むふーむふーと得意げに満面の笑顔である。木の棒で、金属製の斧を壊したのだ。得意げになるのは当たり前だろう。あ~ちゃんなら、伝説の剣も木の棒で破壊できるのではとの疑問は置いておく。
「すごいぞ、あ~ちゃん。予想以上の結果だね」
「砂にするなんて、凄まじい威力よね」
「俺のじゃなくて良かったぁ」
ちょっと威力がありすぎた気もするけど、結果は同じような感じになると思うので、あ~ちゃんの頭を撫でてあげる。えへへと笑顔でくねくねと身体を揺らして大喜びの幼女だ。後ろではローズさんが、埃は飲食店の敵ですわと、砂と化した元斧をちりとりで回収もしていた。少し容赦がないかもしれない。
「というわけで、このタングステンの斧とやらは魔力のこもった武器には決して敵わないのです。この『ヒノキの棒』は魔石を付与して錬金術で作成した正式な武器。その違いを分かってもらえたと思います」
「なるほどなぁ………魔力のこもっている武器との違いはわかった。だから、一部の敵の攻撃や魔法を前にしたら、刃もささらない現象が起きるわけだ。これはもしかしなくても防具にも言えるのかい?」
「あ、こっちには木綿の服が入ってる。木の盾と木の帽子もあるよ」
勘の良い礼場さんだ。あかねさんが他の木箱を開けて、防具を取り出し、しげしげと眺める。他の冒険者たちも僕の用意した武具を見て、指先で感触を確認し始める。
「そのとおりです。簡単な見習い装備ですが、ヒノキの棒、木綿の服、木の盾と木の帽子を用意しました。お値段は大変勉強しまして、一つ一千万円になります」
武具を触ったりつついたりして物珍しそうに眺めていた冒険者たちが、僕の言葉にピタリと動きを止める。
「い、一千万円ですの!? それは暴利では? だって、ただの木の棒ですわよね? わたくしの料理の何杯分……え~と、千円ですから………」
「それだけの価値がある武具なんだぁ………ねぇねぇ、まーくん。私、さっきの投資で貯金ないんだ。どーにかならないかな?」
百万円で限界だったらしい。そうか………皆も一文無しだよね。特に小鉄さん。投資金は武具の代金と相殺するわけにはいかないし………。そうだなぁ。
「ハンターギルド支部を召喚しましょう、領主様」
「うひゃあ、なんだ、ルルか。驚かせないでよ」
耳元で囁かれて飛び上がって驚くと、いつの間にかルルが優しげな笑みを浮かべて立っていた。屋敷で留守番をしていたんじゃないの?
「領主様がこの土地を買ったことにより、私の行動範囲も広がったんです。ほら、契約では領主様にお仕えするのは、『領主様の土地』となっておりますので」
「あぁ、契約は大事だもんね。で、ハンターギルド支部を召喚するの?」
ニコニコと微笑むルルに納得する。
「はい。この土地ならば召喚できます。ハンターギルド支部の召喚は、新規の顧客が増えそうだとのことで、こちらを大天使マモン様から預かっております」
カードを1枚渡してくれるルル。できる子だけど、マセット村のためにも1枚欲しかった。え、ないの? あそこはもっと発展しないと駄目? なるほどね。
「カードってなに、まーくん。それでこの人はだれ? メイドさん?」
「ルルは僕のメイドです。そして、これはハンターギルドというハンターを統括する組織の支部を召喚するカードですね。新規顧客が多数見込まれると思われる拠点で祈ると、強欲の大天使マモン様から贈られる貴重な品物です」
なんの素材かはわからない柔らかな感触の真っ白なカードには『ハンターギルド支部』と書かれている。
「僕みたいに清廉潔白なギルド員が経営しているので、賄賂や恐喝は効きません。まぁ、マモン様の眷属なんで当たり前なんですけどね。これならクエストなども発行されるので、皆さんがハンター登録すれば、天貨を手に入れることができます。天貨なら一律10万天貨で武具を買えますよ」
「おぉ、まーくんの所属しているギルドなんだ」
「え、レートって1天貨百円なの?」
「やばい。ジンバブエドルみたいに次の日にはレートが変わってるかもしれん」
皆がコソコソとおしゃべりをしているけど、そもそも円での取引は無くすかもしれないことは黙っておこうかな。
「え~と、もしかしてギルド員は扉の隙間から覗いているウサギたちですの?」
「きゅー、バレたうさよ」
「完全に隠れていたつもりだったのに」
「皆、隠れるうさ!」
ローズさんが指差す先には幻想の扉から顔を覗かせているたくさんのウサギたちがいた。僕たちの注目を集めると、ワタワタと慌てはじめて、テテテと走ってテーブルの下に隠れたり、植木の後ろに入ったり、人参をカリカリ食べ始めたりする。隠れようとして隠れていないのが可愛らしい。あ~ちゃんも隠れなくていいんだよ。
………うん、待っていられなかったらしい。ウサギ天使たちはせっかちなのだ。
「そのとおりです。彼らはマモン様の眷属の天使。ロロは天使を真似て作ったんですよ。それじゃ早速使いますか」
カードを天に掲げると『力ある言葉』を紡ぐ。
『ハンターギルド支部の申請をします。場所はグーママセット村2号です』
『受理したぜ!』
元気な少女の声が脳内に聞こえて、光の柱が店内に降り注ぐ。光の柱は形を作り、ハンターギルド支部となる。
「うさは受付やるうさ」
「魔石、魔物買い取りはうさね」
「えー、うさは依頼掲示板?」
隠れていたウサギたちが支部へと駆け寄り、ぺたりとお座りする。これでハンターギルドは出来上がりだ。
「木箱と黒板しかないのですが!? しかもわたくしの店内に作るんですの!」
うん、光が形成したのはいくつかの木箱と黒板だけです。しょぼいことこの上ない。エフェクト詐欺だとも言えよう。でも、仕方ないのだ。
「マモン様は常に事業に失敗しているので、いつも金欠なんです。なので、ウサギ天使と最低限の物は派遣しますが、支部の施設は建てないといけないんですよ」
ローズさんが呆れた声を上げる中で、木箱の前にちょこんと座ったウサギたちがスンスンとお鼻を鳴らして━━━。
「いっせーの」
「ハンターギルドの」
「頑張りますうさ」
「何を言えばいいうさ?」
と、声を揃えて、にこりと微笑むのだった。うん、声を揃えていることにしておいて。ウサギたちはあんまり頭がよくないんだ。
アースウィズダンジョンのコミカライズがやってます。ピ〇コマなどで見れますので、よろしくお願いします!




