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19話 領主として活動を開始する僕

「領主様が就任なされてから一週間が経ちました。そろそろ行動を起こしても良いかと思います」


「うむうむ、そうか」


「はい、頭を抱えて書類を見てもなにも変わらないですよ………そろそろ現実逃避を止めてくれないでしょうか」

 

「………はい」


 弱々しい笑みで請願してくる絶世の美少女には、僕も弱い。なので、項垂れて机に突っ伏すだけにしておきます。


 清廉潔白、品行方正、気弱でお人好しなマセット君。今日は領主の仕事をしています。机には何枚かの紙が置いてあり、呪いの言葉が書かれている。


 領主の屋敷は滅びそうな悲惨な村にしては立派で、きちんと男爵レベルの立派な建物だった。村の中でかなり浮いている建物だった。村人から領主ばかり贅沢しやがってと恨みを買いそうな感じもします。


 まぁ、税金払ってないみたいだし、新たなる領主も悲惨なことは理解しているようで、村人の誰もこないけど。こういう場合は挨拶に来るだろう村長とか名主も誰も来ないしね。そもそもそんな人はいないような感じもするよ。


「一人一万天貨の補助。それを500人分。しかもこれ一ヶ月だからね? 一年じゃないんだよ? 税金徴収できてないのに!」


 赤字だよ、赤字。というか、収支の両方がゼロだよと薄っぺらい紙をひらひらと振って見せる。領主として領地の現状を数分で確認できたよ。なにせゼロだからね、ゼロ天貨だからね! 収入と出費ゼロだからね! 財務管理表2行で終わってるよ! 


 そして、その下に今年の予算追加案、領民への食糧支援6000万天貨と記載されていた。こんな資料初めて見たよ!?


「領主様、仕方ないんです……。えと、領民が腹八分目で暮らすための最低の予算、補助しないと今年も毎月愚民から餓死者が出ると思います……」


 顔を少し俯けつつ、もじもじと弱気そうにルルが聞きたくない内容を報告してくる。窓から入る陽射しに、銀髪が映えて美しい娘だ。とはいえ、その報告は容赦ない。


「餓死者ですか………。え~と、毎年どころか、毎月餓死者が出る村がなぜ破綻してないのでしょうか? 彼らは分裂でもして増えるの? あっという間に過疎化が進むと思うんだけど」


「この村の村人たちは全員『農夫』です。こ、固有スキルは『育生』。その力を使い、なんとか若い世代は餓死を防ぎ、ポンポコ子どもを産みます。なので、なんとか人口が減少しないようにしていますが、それでも減少しているので、そろそろ破綻すると思うんです………」


「『育生』スキルをそんなことに使ってたのか………。なるほどねぇ」


 椅子に寄りかかりため息を吐いてしまう。『育生』スキルは本来は作物を育てるために使うためだ。神様が簡単に農業ができるようにとくださった偉大なるスキルである。病気になったり、枯れたりするのを防ぐ力もあるけど、人間に使ってもそんなに効果はないはず。そのスキルに頼っているということが悲惨さを教えてくれていた。


「………手元のお金は二千万天貨程度しかないし、そもそもハンターカードを使えるお店もないから、食料もないよね………。皇帝陛下がくれた慈悲である僕らの食料もたった2週間分だし」


 一応、いきなり死なないようにと皇帝陛下は食料を置いていってくれた。カチカチの黒パンと硬すぎて板のような燻製肉を2週間分。優しすぎて泣けてくるよ。


「まずは食料支援をしなければ、始まらないと思います………チュートリアル『まずは食糧支援を』です。報酬は領民からの好感度のアップですから頑張ってください」


「報酬が好感度のアップとか泣けてきますね………はぁ〜」


「あ~ちゃん、そろそろパンあきちった。まぁしゃん、お肉食べたいでつ」


「この子がよだれを垂らして、ロロを見ているうさよ、親分!」


 執務室に備えられているソファにロロをぬいぐるみのように抱えながら、あ~ちゃんが足をパタパタ振る。ロロを一目見てお気に入りにしたようで、召喚してからずっと持ち歩いている。けど、そろそろ幼女は栄養にご不満が高まっていたらしく、よだれを垂らしていた。ロロは死んだら消えるからステーキにはできないよ?


「そうですね、僕も寝て過ごすニートな生活は止めて、外を見て周りますか」


「私は仕事がありますのでご一緒できませんが、よろしくお願いします領主様」


 あ~ちゃんのお口をハンカチで拭きながら、僕はこのままだと餓死するので、仕方なく外出することにしたのだった。ところでルルさんはこの広い屋敷を常にピカピカにしているけど、どうやって管理しているのかな。すごいね?


         ◇


 『グーマ』という土地の領都『マセット』。うん、僕の名前になりましたとさ。皇帝陛下の嫌がらせ、いや、お慈悲もここまで来ると笑うしかない。


「立派なのは屋敷だけか………良い建材も使ってるようだし」


「この屋敷の建材はかなり高価うさ。対物理対魔法に強いダンジョン石うさよ」


「ダンジョンからわざわざ運んできたのか………」


 屋敷から出る前に、石壁を軽く叩くがびくともしないし、魔力反応が高いことに感心しちゃう。『ダンジョン石』とはその名前通りダンジョンの壁を解体して手に入る建材だ。しかもロロが鑑定したところ、『ダンジョン石:階位80』。ダンジョンの壁を解体すると、そのダンジョンには存在しない高レベルの魔物の群れが襲いかかってくるので、手に入れるのは苦労する。しかも階位80とは、かなりの高レベルダンジョンの建材だ。


 ドラゴンブレスも軽く防げる建材だ。皇城にも使われていておかしくないレベルの建材を使っているとは、この屋敷が建てられた由縁が気になるな。

 

「この屋敷の一部を解体して売ればお金持ちうさよ? 人参たくさん買えると思うなぁ」


 スリスリと脚に顔を擦り付けてくる可愛らしいうさぎさん。お散歩だねとついてきたあ~ちゃんがあたちにもスリスリしてと、ロロを抱き上げちゃうとむにむにのほっぺをスリスリとロロに擦り付けて癒される光景だ。


「駄目だ。これだけの屋敷となると昔の皇帝陛下からの下賜品の可能性があるよ。それか、これだけの屋敷でなければ、防げない魔物がいるとか。どちらにしても売るのは無理だね」


 どちらにしても駄目だ。ということで金策をしないといけないんだけど………。


「屋敷を一歩出ただけで、絶望しちゃうなぁ」


 単に踏み固められただけの土が剥き出しの道。その先には魔物から身を守るためだろう、家屋が集中しており、並び立っている。


 家というか、木の小屋だ。大風が吹けば崩れそうなボロ小屋で、木の窓から子供が覗いているが、目が合うとすぐに引っ込んでしまう。

 

 どれもこれも同じような小屋ばかりで、罪人を収容させる強制労働所よりも酷そう。


「外に誰もいないね。僕を怖がってるのかな?」


 今の僕は美少女よりの美少年だ。幼さもあって、可愛いと思うんだけど、やけに警戒されてるな?


「あ~ちゃんです! ごしゃいです。あ~ちゃんもいるよ? あしょぼ〜」


 ロロの手を掴んでブンブン振る無邪気なあ~ちゃんだけど、それでもドアの隙間から、窓越しに見てくる領民は姿を見せない。愛らしいあ~ちゃんでも駄目なら無理だな。


「領主様の御息女であらせられるでしょうか?」


 肩を落として落胆していると、家の中からよぼよぼのおじいちゃんが杖をつきながら出てきた。ようやく話せる人が現れたか。おじいちゃんの背中の影から、泥が顔について薄汚れた小さな幼女もこわごわと顔を出している。でも、僕は領主だよ。御息女じゃないよ。


「おねげぇしますだ! 儂ら、年貢などとてもとても出せないだよ。どうか寛大なる御心でご慈悲をくだされ」


 そして、いきなり地面にダイブしてからの土下座である。おじいちゃんの背中に隠れていた幼女があわわと慌てている。


 どうやら新しい領主が税金を取るとでも思っているらしい。


「あの現状は知っています。餓死する寸前なんですよね? 皆さんが苦境にあるのは知ってますから」


 後方に見える田畑。石ころだらけで、荒れており、ポツポツと生えている作物は萎れており、実など採れそうにもない。というか、このおじいちゃん、最初スケルトンかと思うほどに痩せてるよ。そんな現状で、税金なんか取らないよ。


「おぉ、領主様がそのようにおっしゃってくださったのでしょうか?」


 アワアワと慌てて手を振り、否定をする僕に、感激したのか涙目となるおじいちゃん。というか勘違いされてるな、これは。


「え~と僕が領主です。はじめまして、新しく男爵としてこの地の領主となりましたマセットと申します」


「な、なんと、領主様でしたか! これは失礼をいたしました。へへぇ〜」


 また額を地面に押し付けて平伏してくるおじいちゃん。正直ドン引きです。お貴族様になったばかりだから慣れてないよ。


「いや、平伏はしなくて良いです。それよりもなぜ農地を耕さないかを教えてください。階位の高い方はいないのでしょうか?」


 『農夫』の職は階位を上げれば、簡単に田畑を耕すことができるし、作物を育てることもできる。だいたい村長とか名士が階位を上げていて、村の中心となっている。なのにここは荒れ果てているのは不自然なのである。


「それが………畑の土地を見てもらえればわかりますじゃ」


 おじいちゃんが暗い顔で先導してくれる。田畑の中でも他よりはマシといった畑で立ち止まると、手を上げる。


『ノックノック。ジジイのノック。土地を見せてくださいな。ほら、可愛らしいジジイが訪れてますよ、ハウッ』


 そうしてシワだらけの手を振って、折れそうな細い腰を振り、当然踊り始めるおじいちゃん。最後にグキッと、腰から嫌な音を立てて蹲るのだった。無理しないで欲しい。『鑑定魔法』ならロロが使えるから!


「こ、この土地を見てくだせぇ………」


 土地のステータスボードを震える手で見せてくる苦悶の表情のおじいちゃん。僕は鑑定結果を見て、ウワァと顔を顰めてしまう。


『至高にして豊かなる大地:階位51』


「階位51!? こんなに高品質の土地なんですか?」


 驚きで思わず声を上げておじいちゃんに顔を向けると、腰の痛みで突っ伏しながらも頷く。


「へぇ………そうでごせぇます。この土地を開拓できれば、黄金の価値を持つ田畑になるのですじゃ」


「そういうことか。この土地は本当に肥沃なんですね。皇帝陛下の嫌がらせかと思ってました」


 一般に階位が高い土地ほど魔力が込められていて、美味しい作物が収穫できる。階位51となれば本当にほっぺが落ちてしまう程に美味しい高品質の作物が収穫できるだろう。


 きっと昔の領主はそう考えてこの土地に村を作ったのだろう。屋敷が立派な理由もわかった。かなりの金持ちで、莫大な投資金をつぎ込んたに違いない。


「でも『農夫』を階位51に上げるなんてとんでもない労力が必要です。無理に決まってる」


「その通りですじゃ。そして土地の階位よりもあまりにも低い者は、神様のルールにより田畑を耕すとペナルティがあるのです」


 おじいちゃんの言うとおりだ。一般的に平均的な階位は15くらい。そこからは階位を上げるための必要経験値が一気に跳ね上がるので皆はそこで諦める。村長すらも30あれば高いほうだ。


 なのに、この土地は階位51。耕すのは無理だな。そりゃ作物は育たないよ。


「領主様なんですか? 本当に?」

「我らをお救いに来たのでしょうか………?」

「子供にだけでも、なにか食料を頂けないでしょうか? おねげぇします」


 いつの間にか、後ろに幽鬼のようにぞろぞろと村人が集まってきていた。その顔色は悪く、今にも倒れそう。薄汚れていて、服は穴だらけで破れてもいる。


「親分、ロロの人参ブロックわけるうさ?」


 明日にも死にそうなくらいに子供も痩せ細り僕を期待した目で見てくる。その様子に、ロロがオロオロと同情して、ポシェットからとっておきの人参ブロックを取り出そうとしている。大好物を分けようと思うくらいに彼らは悲惨なのだ。


「大丈夫だよ、ロロ。人参ブロックは人間が食べられないから持っておいて」


 ロロの頭を撫でながら優しく微笑む。


 さて、いつもは周りを気にしない使い魔うさぎが同情するくらいに悲惨な村。すぐに行動をおこさないといけなさそうだね。


 ここは清廉潔白、品行方正、気弱でお人好しのマセット君にお任せを。

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― 新着の感想 ―
かなりゲーム的な世界だなー。あと、やっぱ銀髪は神様関係者か!チュートシアルにしても難易度高すぎひん?
 無茶苦茶不毛な土地を押し付けられたのかと思ったら土地が高階位すぎて雑魚な村人では開墾すら出来ないとか(´□` )世界を創造した神によって生きるモノも生無きモノにも普遍的に恩恵としてのレベルが存在する…
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