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15話 トロールキングと戦う僕

2024/11/22は既に6話投稿しています。読む前にお気をつけください。

 美原閣下を助ける少し前、清廉潔白、品行方正、気弱でお人好しのマセット。即ち、僕はワクワクと魔法使いとトロールキングの戦闘を観覧していた。なにしろこの国の魔法使いの実力がわかるのだ。もしかしたら新たなる『力ある言葉』も知ることができるかもしれない。


 『力ある言葉』は魔法の威力を変えたり、新たなる魔法を発動できるようにする。皆が使う言葉は結構適当だけど、わかりやすくて想像しやすい言葉は結構大事なのだ。最近では『炎よ!』より、『竜の息吹よ!』の方が火炎魔法は強力な炎のイメージができると流行りである。


 ………で、見ていたのだが、少し残念な結果に終わりそうだった。トロールキングをどのような魔法で倒すのか期待していたんだけど、トロールキングの肉体を削る力はたしかにすごいけど、魔法を使ってくれない。魔導具頼りのようだ。あの人たち魔法使いではなかったのか。


 しかもトロールキングが本気になったから、たいしてダメージも与えられなくなっている。あ、『咆哮ハウリング』食らった。


『ジュウハキガナイ。グハハハハ』


 あの魔法は銃というのかな? でも魔法使いたちは切り札を用意しているのを知っているのだ。その切り札はというと、僕の周りの人たち。


 広間の隅っこに避難している貴族様たちは、板をトロールキングへと向けている。明らかに狙っている動きだ。


「すげぇ、本物のバトルだよ。殺れ高高いぞ!」


「バズるよ、これ。間違いなくバズるって!」


「炎上間違いなしだ。ものすごい燃えるぞこれ。サムネは避難所にモンスターを侵入させる軍笑いとかだな」


 爛々と目を輝かせて、獲物を前に舌なめずりをするように貴族様たちは戦闘をニヤニヤと見ている。たぶん儀式魔法だと思うんだ。強力な火炎魔法の用意をしているのだろう。


 形勢は明らかに、魔法使いたちが劣勢だ。あの鉄の杖の魔法ではトロールキングの再生能力を上回ることができていない。でも、そのことに調子に乗って、トロールキングは甚振っている。トロールキングの脳は猫に劣るから、目の前の敵しか見えていないのだ。


(さあっ、今です。今がチャンス! 儀式魔法見せてください)


 儀式魔法なんて滅多に見れないので、ソワソワワクワクして、板を持っている貴族様たちを見る。きっとトロールキングを一撃で灰にする魔法だよ。間違いないよ!


「ねぇ、マセット君。どうしてあのモンスターに銃が効かなくなっているのかわかるかい?」


 今かな、今かな、と期待の目を送る僕に、やけに緊張した表情で十三さんが話しかけてくる。なんだろ、僕を試してるのかな。


「トロールキングが身体に魔力を巡らせたのです。なので強化された肉体は今までとは比べものにならない硬さを持ちました。不意打ちで倒せなかったのは残念でしたね」


 どうやら、最初は肉体を砕けたのに、小さな穴しか開けられることができなくなったことを気にしているようだけど、常識だよねとコテンと首を傾けて答える。


 魔力を体内に巡らせる前は、肉体はプリンみたいな柔らかさだ。なので不意打ちでは大ダメージを与えることができたけど、戦闘となれば魔力を体に巡らせて凍ったプリンのような硬さとなる。まぁ、ドラゴンとか魔力が豊富だったり、ロスなく魔力を体内に巡らせる人は常時身体強化してるから、不意打ちでも硬くて大ダメージを与えることはできないんだけどね。


「魔力? そうなのか………今まではそんなことはなかった。報告でも聞いたことはない。あいつを倒す方法はあるのかい?」


「トロール系統は炎に弱いので、炎で倒すのが、あ、馬治さん」


 うぉぉと、雄叫びをあげて、馬治さんが参戦していた。俺が主人公とばかりに張り切って、火炎魔法を放っていた。トロールキングも炎に怯み後退っている。やっぱり馬治さんは魔法使いだったのか。


「………炎があれば倒せるのかい?」


「炎魔法なら確実に」


「炎魔法? 炎ではなく?」


 なぜか、焦った顔で、十三さんは尋ねてくる。あ~、そっか。なんで質問してくるのかわかった。魔物と戦うことが少ない、貴族様ならそこまで詳しくなくとも仕方ない。


「よく勘違いされるんですけど、トロールキングは炎は効きません。炎魔法ではないと駄目ですね。あの馬治さんの魔法なら問題ないでしょう」

 

 トロールなら松明の炎とかで倒せる。でも、トロールキングは普通の炎では倒せないんだ。魔力が込められていないと、トロールキングには効き目がない。トロールと間違えて油をかけて燃やして効き目がなくて、手痛い反撃を受けたのはよく聞く話だ。


 ボーボーとトロールキングを燃やしている馬治さんの姿を見ていると、なぜか十三さんから緊迫した空気を感じる。


「美原少佐! 馬治、その化け物から離れるんだ!」


 そして焦った顔で、戦闘をしている馬治さんたちへと声をかけようと口を開き━━━美原さんが馬治さんをかばって、トロールキングに殴られていた。丸太のような棍棒は美原さんの手足をひしゃげさせて、小枝のように折って吹き飛ばす。グシャリと床に落ちて、血を流すその姿は致命傷を受けたとわかる。


「あれは治癒魔法で癒やさないと駄目ですね。馬治さんのは魔法ではなかったんですか」


 あーりゃりゃと美原さんを見て苦笑してしまう。トロールと勘違いしたのか。失敗してしまったね。でも、よくあることだから次を気をつければ良いと思うよ。


 のんびりと見ながら、砦だから高位神官もいるだろうと眺めていると、ガッと強く肩を掴まれた。


「この砦には神官がいないんだ。君は美原少佐を癒せるかい? ………そして、あのモンスターを倒せるかい?」


 悲壮な顔の十三さんにビックリしてしまう。


「神官が出払っているんですか!? 美原閣下は随分思い切った指揮をとっているんですね」


 なるほど前線に全ての兵力を送っちゃうという若い司令官にありがちなことをしたのか。そうか……で、火炎魔法の使い手がいないと。僕を試してきた理由がわかったよ。


「ちょっとパパ、なにをわけわからないことをモガモガ」


 あかねさんがなにかを言おうとして、十三さんに口を塞がれる。そっか、その失態を隠したいと。そういうことだな、僕わかっちゃった。むふふと微笑み、僕は礼をする。


「お任せください。清廉潔白、品行方正、気弱でお人好しの僕ですが、力を尽くして頑張りたいと思います」


 トロールキング。普通のトロールキングなら僕では倒せないが、たぶんあれなら倒せる。


「ポーション枝などの使用料金は経費として、あのレベルのモンスターならそうですね……」


「土地付きで家をプレゼントしようと思う。どうだろう?」


「ご用命ありがとうございます。では、依頼にかからせていただきますね」


「うん、心苦しいが頼む。このままでは全滅しそうだ」


「ちょっとパパ、あんな化け物とまーくんを戦わせるつもり!?」


 即断即決、お貴族様は太っ腹だ。手に入れたら即売ろうっと。あかねさん、大丈夫、ちゃんと準備をするので。


 コートを掴み羽織ると、コートに取り付けられているカードケースから、1枚のカードを取り出す。トランプと同じ大きさのカードは魔力を帶びており、妖しく光る。


『我が半身よ、使い魔よ、魂の片割れよ、出でよ!』

 

 魔力を込めた言葉を紡ぎ、カードの力を発動させる。本来は書くのに時間がかかる魔法陣がカードには封印されているのだ。


 カードが光ると空中に魔法陣が映し出される。そして、魔法陣からなにかが姿を現して降り立つ。


 短い手を伸ばして〜。


 ちっこい足をペタペタと。


 長い耳をゆらゆらとふり。


 つぶらな赤い瞳に、突き出たお鼻をスンスンと鳴らし。


 頭にゴーグルをちょこんと乗せて、白い毛皮の上にコートを羽織るナイスガイ。


「使い魔ロロ、見参うさ!」


 僕の作った使い魔であるミニウサギのロロが出現した。特殊な魔法にて僕の魂の欠片を使い作り出した使い魔。様々なことをできる優秀なパートナーだ。


「ええぇぇぇぇ! うさぎが現れた!」


「なんだ、あれ?」


「え、手品なのか?」


 使い魔が珍しいのか大騒ぎとなる貴族様たち。でも今はそれどころじゃない。


「ロロ、敵の解析をするんだ!」


「キュー! 可愛らしくって、有能なロロにお任せうさよ!」


 トロールキングだとは思うけど念の為だ。ロロはコクリと頷くと、ゴーグルに両手をつけてカリカリと動かす。


『ノックノック。うさぎのノック。お家を見せてくださいな。ほら、可愛らしいうさぎが訪れてますよ』


 ロロの得意な魔法。相手の『神の恩寵』を盗み見る魔法である。可愛らしい声で歌うように紡ぐ魔法により、僕の目の前にステータスボードが表示される。


 真っ赤なステータスボードが。


『オネ リュウジ』

『種族:トロールキング』

『階位:ゼロ』

『基本戦闘力:104』


 予想通りの結果に嘆息してしまう。このステータスボードは僕とロロしか見れない。周りを見ると、気づいてはいないようだった。


 ………そっか。あの元老院の議員の息子は職種に『トロールキング』を選んだのか。


 自由を尊ぶ神は人類に様々な職種を与えてくれる。それは職業だけでなく、種族もだ。エルフやドワーフ、ハーフフット、獣人までよりどりみどり。


 その中には魔物もある。基本性能は最初から高いが、魔物の本能に自我はほとんど消されて人を襲うモノ。人類の敵。赤いステータスとなったものは人類ではなくなり、討伐対象となる。


 なのに、魔物を選ぶものの理由のほとんどは『憎しみ』のためだ。子供同士の虐め、親の子への暴行。魔物となり相手を殺すためである。そのことを知っているため、12歳になるまでは、いじめや家庭内暴力などはほとんど起きない。復讐を胸に魔物に変化した者に確実に殺されるからである。


 尾根さんの両親が見つめる息子への視線。蔑みと怒り、そして弱者を甚振る歪んだ性格が垣間見えていた。だからこそ、盗難事件で息子は両親から酷い目に遭うと予想していたが………。


 彼は一番楽で一番愚かな選択をしたらしい。きっと両親は既に殺されてるだろう。


 気は進まないが仕方ない。魔物に変化した人は討伐すると経験値もドロップアイテムも同じ種類の魔物よりもはるかに美味しいのだ。討伐対象としてハンターたちが血眼になる理由の一つだ。


「正義を愛するマセットは、トロールキングの討伐。させていただきます」


 炎華を抜き放つと、哀れみの心を抱き、僕は戦場へと飛び込むのであった。

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― 新着の感想 ―
「神の恩寵」いいですねぇ哀れな弱者には一矢報いる手段を弱者をいたぶる愚か者には警告となる良い仕組みですね。死に瀕した時に選択も12歳未満は与えられるというのも救済措置であり報復の手段でありこうなること…
 (´⊙△⊙`)なんと恐れていた人間からモンスターへの変異が、まさかの「神の恩寵」による種族変更!今まで25年間ゴブリンとメガゴブリンしか現れていないって事は今回のトロールキングが初めてなんだろうけど…
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