第一話 ⑨ 初めての友達
「…別に止めてもいいのよ。さっきの冒険者の人達はアレだったけど、この街にだって強くて戦える人なんて一杯いるんだしユーネが無理しなくても…」
「ううん。ユーネがやりたいの!ルウもお父さんも通りのおじちゃんもおばちゃんも大好きな人がいっぱいいる街だから。大好きなみんなにイヤな思いをして欲しくないから!」
満面の笑みでそう宣言したと思ったら、急に照れたようにモジモジしながら、声が小さくなる。
「…そしたら…ほら…みんなにユーエルの事好きになって貰えるかもしれないじゃん?…友達なんか100人できちゃったりして?」
まったく、この子は…
照れながら笑うユーネの姿を見ると、ルウはそれ以上何も言えやしない。
まったく。覚悟が足りなかったのはこちらだったと思い知らされてしまった。
そうよね。何があっても、私達が全力で守ってあげればいいだけの話なのよね。
「わかったわ。それじゃあ私達で世界を征服してやるわよ!!目指せ、世界の女王よ!…あ、でも、待って。それならさっきのワールドエンド・クラッシュは、どんなに甘く採点しても六十五点ぐらいしかないじゃない。圧倒的に修行が足らないわ!」
決意を決めパタパタ浮かびとユーネの肩に降ると、照れ隠しの様にいつものお説教が始まる。
「え~なんで!?百二十点満点だったでしょ?」
「何言っているのよ。百二十点だったら、あそこの浮島まで綺麗に切れているはずじゃないの」
ピンクの肉球で示すえぐれた山の向こうには、大きな浮島が漂っている。
「うぅ…そ、それは…」
「牛男を倒しちゃうとあの大きなドーナツが消えちゃうとか思ったんでしょ?」
「……」
「やっぱり!大体、全然美味しくなかったでしょ?」
店から逃げる際に、シレっとかじっていたのをルウの金色の目は見逃してない。
でも、だってと騒ぐユーネの背後にふわりと男が降り立つと、ユーネの頭を優しく撫でる。
「ドーナツならまたマウイの奴が安全で美味しいのを作ってくれるさ。な?」
確認をとるように片腕に抱えられた女の子の顔を覗き込む。
「お父さん!それにミトラちゃんも!」
アキラの腕に抱えられたミトラちゃんが、少しバツの悪そうな顔で下りてくる。
「大丈夫だった?怪我はない?」
「うん…あ、あの…ユーネちゃんが黒騎士になって助けてくれたんだよね。その…ありがとう!それと、今までごめんね!」
「ん?何が?」
「だって…ユーネちゃんが、公園でいつも一人なの知ってたのに…」
「あ~…」
ユーネとしては、何も気にしていなかったと言うと嘘になるし、今日の公園の見落としはそこに起因していると言ってもいいぐらいだ。
けど、だからと言ってユーエルの事を考えると、こちらから一歩踏み出していく勇気はまだない。
だって…もっと嫌われるぐらいなら、最初から近づかない方がいいから。
あー。うん。と何とも煮え切れない返事を返すユーネにミトラちゃんが手を差し出す。
「だから、その、今度一緒にブランコ…乗らない?」
「え?」
「ごめん!いきなり!…イヤ、だよね」
「う、ううん!全然イヤじゃないよ!一緒に乗りたいっ!」
慌てて差し出されている手を握る。
正直羨ましかった。それと同時に寂しさに胸が締め付けられてきた。今日の事もいつもの事だと期待もしていなかった。
そんな周囲を囲む壁が思いがけず、しかもあっさりと崩れていく。
よかったぁと安心したように笑うミトラちゃんの顔を見ていると、今日何度目かの涙が溢れてくる。
今日は泣いてばっかりだ。
その様子に辛抱たまらんとばかりに、親馬鹿アキラが抱きしめ頬ずりしようとした所で下の方から怒鳴り声が聞こえてくる。
「こら~!アキラぁ!降りてこんか!!どうせお前が関係しているんだろうが!さっさと説明せんか~!!」
「げぇ~!おやっさん!!」
下を覗き込んだアキラから子供のような声が上がり、普段のアキラからは見れない珍しい反応に皆の視線が集まる。
ユーネも並んで下を覗き込んでみると、もじゃもじゃの髭を生やした初老のオッサンが下で顔を真っ赤にして騒いでいる。
「誰?あのおじいちゃん?」
「そっか、ユーネとは合った事なかったな。冒険者ギルドでマスターをしているギャランだ。父さんが初めてコッチに来た時から世話になっている人さ」
正直、面倒くさくはあるが、ユーネが力を使えるようになってきた今、先の事を考えると話は通していた方がいいか…。
「よし、それじゃあ紹介するから下に降りようか」
「おい!何が、げぇ~!だ!聞こてるぞ!いいから、さっさと降りて来ぉい!」
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