第十話 ⑥ 一対一だ!
「ううう、うるさい!自慢のスキルと独学で習得したこのヌンチャク技で絶対にわからせてやるぅ!」
アシダカ男は岩から大きく飛び上がり、二本の腕で地面を殴りつける。
すると足元から槍のように尖った土が幾つも盛り上がり、四人を襲う。
先ほど炎のドリルを相殺した土の壁もコイツが地面を操作したのだろう。
地面に飲み込まれたことといい、本格的に戦闘に入る前に見せすぎだ。
ユーエルやソロリズは勿論、他の二人も難なく対処できている。
「おら!まだまだ終わりじゃねぇぞ!」
風の魔法で自身を浮かせて対処していたミトラの頭上へと、黒光りするヌンチャクが振り下ろされる。
完全に油断していたミトラは避けられないと、覚悟して目を閉じる。
しかし、髪が揺れるだけでいつまでたっても、何もおきない。
薄く片目だけ開けると、頭の上でリーブルのミスリル製の剣が怪人の攻撃を防いでいる。
「大丈夫か!?」
「う、うん。」
よし!と素早く剣から片手を離し風の魔法を放ち怪人を遠くへと吹き飛ばす。
吹き飛ばした先にソロリズが横から突っ込んで、怪人が地面に着地する前に飛び蹴りを当てる。
『お前の攻撃はさ。直接触らないと操作できないんだろう?』
「クソクソ!空気読めよ!」
腕を十字に重ねなんとか直撃を防ぐが、ピンボールのように直角に向きを変える。
「クソ!着ぐるみなんか被って女に媚びやがって!情けなくないのかよ!」
「情けないのはお前だよ!」
背後から来たユーエルの拳が無防備な背中に吸い込まれる。
今度は潜る余裕もなく地面に叩き付けられ転がっていく。
『なんてひねくれた奴なんだ。媚びているなんて発想初めてだぞ』
「びっくりだよね。もう、早めにぶっ倒してやるのが優しさと思うわ」
ミトラが心底可哀想な目をしながら、うつぶせに倒れる怪人を見つめる。
「リア充どもが…一人じゃ何にも出来ない癖に群れたとたん調子に乗りやがってよぉ!」
ゆっくりと立ち上がりながら、怪人がこちらへ濁った目を向ける。
「いや、別に調子にはのってないけどさ…」
無視すればいいのにリーブルが真面目にというか、役割的につい返事をしてしまう。
「嘘だ!今だって四対一だろうが!卑怯者め!違うっていうなら、お前が一対一で戦えよ!」
え~。と顔をしかめるリーブルにほら、言わんこっちゃない。と皆の視線が集まる。
だいたい、さっきから会話がかみ合っていないのだから、面倒なことになるのはわかっていただろうに。
だから、ここは怪人の肩をもつことにする。
リーブルには少しは反省してもらわないと、巻き込まれるこっちが堪らないわ。
はぁ~お姉さんは大変だわ~とみんなが聞いたら、総ツッコミが入りかねないことを考えながらリーブルへと近づいていく。
「取り敢えず、タイマンしてあげれば?死にそうなら助けてあげるから」
押し付けたいという確固たる意志を乗せた黒い籠手が、リーブルの肩を力強く掴む。
「はぁ?なら、最初からお前が行けばいいだろ?」
「ヤダよ!アンタが倒してくれるなら、それが一番平和だもん。それとも、ユーエルやミトラちゃんがセクハラされる所を楽しみたいの?あ~あ~リーブルはそんなカッコ悪い男だったんだ~。あ~あ~残念だな~」
「チッ…はいはい、わかりましたよ。行きますよ」
大きく聞こえるように舌打ちすると、剣を握り直し怪人に向かっていく。
「一対一だ。これで文句ないだろ」
「ああ。無いぜ!!」
馬鹿め!簡単に口車に乗せられやがって、人間のガキごときが怪人様に一人で勝てるわけないだろうがよ!やはり、所詮は劣等種族よ!
「だから、ここで死んどけや!!」
怪人は言い終わらない内に、地面を蹴り間合いを詰める。
同時に両手のヌンチャクがリーブルの頭目掛けて左右から放たれる。
「いきなりかよ!」
怪人からの突然の不意打ちに、剣で片方を払い横に転がり何とか回避する。
次の攻撃に備え構えるリーブルの頬に一筋の赤い線が伸びる。
完全に躱したはずなのにと、驚きと共に怪人の手にあるGの足に目をやると、ピンとした張りのある毛が風にそよいでいるが見える。
「おい、その毛ってまさか…」
気が付いてしまったが故にゾワっと全身が泡立つを感じる。
それを見ていたミトラたちも大股で一歩下がる。
「ちゃんとお風呂に入るまで近寄らないでね!」
「だね!」
「おい!お前ら聞こえてるからな!!」
戦闘中だというのに、完全に後を振り向き二人に指をさす。
「今度はイチャイチャしやがって!自慢のつもりかぁ!?」
怪人は怒りを糧にして先ほどより速く、強く襲い掛かってくる。
更には、他の腕を使い上下からも攻撃を繰り出す。
「どうだ!?ビビって声も出ないだろう!」
二本腕の人間には絶対無理な逃げ場のない四点同時攻撃!偶然を実力と勘違いしたことをひき肉になってから後悔しな!
しかし、勝利を幻視していた怪人の瞳に映ったものは、引き裂かれる肉では無く。ちょんと後へ飛びのく人間の姿だった。
「え?」
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