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第一話 ⑧ 目標は世界征服だ!



瞬時に戦闘態勢を整える二人に、雲から身を乗り出した青と緑のTシャツを着た同じ顔の少年達が楽しそうに語り掛けてくる。

「中々やるじゃん!お前!」

「やるじゃん!やるじゃん!」


「おい、そんなに体を出すと落ちるぞ」

後にいた黄色のコートの男が少年たちの襟を掴み持ち上げ奥へと下ろすと、冷たい視線を仮面越しにユーエルに向ける。


「最近、次々と怪人が消息を絶っていると聞いて着てみれば、こういう事だったわけだ」

ため息を混ぜながら面倒そうに首を振るコートの男の肩に、白い着物の女が手を掛ける。

「でも、カッコいいじゃな~い。私のコレクションに加えたいぐらいだわ~」

「妹よ。姉さんに報告が先だ」

わかっているわよ~と着物の女は綺麗に装飾された長い爪を整えながら頬を膨らませる。


「ハク姉ちゃん、怒られてやんの!」

「怒られてる!怒られてる!」

「うるさいわよ!静かにしないと、この削りたての爪でブスっといくわよ!」


そんな怪人たちの様子にルウの精神が眉をひそめる。

(怪人が身だしなみを気にしている?人の真似をさせているだけ?それとも…新しく作ろうとしてるの?)


「急に現れてなんだ!お前らも怪人なのかって!?」

「フッ。そう鼻息荒げるな。慌てなくても今から名乗ってやるさ。我らは今しがたお前が倒した牛男の所属する組織V.H.Fの幹部衆。その名も、天空の彼方から舞い降りし正義の使者あぁぁ~!」


「「「解放された空の子供達!略して、L(iberated)・S(ky)・B(oys)!!」」」

三人で特殊なポーズをとり…その、まぁ…なんとも言えない空気が場を支配する。


「「「‥‥‥」」」


「LSB…ラ、ラッキースケベぇ!?初対面の女子にいったい何をたくら…いや、そもそも狙ってやるのはただの犯罪だろうが!!」

ユーエルからすると、たった一時間あまりで二回も変態に絡まれる不運に、つい声が大きくなるのも仕方がないというものだ。


「ち、違う!ラッキーじゃなくて!L・S・Bだ!」

「そうだ!スケベじゃなくて、L・S・Bだ!」

「クッ!!妹よ!お前がやらないせいで我らのカッコよさが伝わらないではないか!」

「それは私のせいじゃなくて、クソダサポーズがいけないのよ~兄妹じゃなかったら、一生口を利きたくないわ」


着物の女をそう言うと、男の足元に唾を吐く。

グヌヌと唇を噛み口惜しそうに、片膝を折り革靴を拭う黄色のコートの男。


「あ、安心しろ黒騎士!心配しなくとも今度、姉さんも含めた完璧な奴を見せてやるから!」

「見たくもないけど、そんなに安心させたいならさ~!ここでまとめてぶっ飛ばされろぉぉ!!」

掛け声と共に真横に大斧を振りぬき大きな斬撃を飛ばすが、黄色のコートの男は人差し指で簡単にそれを弾くと、楽しそうに手を叩く。


「不意打ち…とは感心しないが。確かにこれだけの力だと牛男程度では役不足だったろうな。しかし、それでも兵長クラス。我らの敵ではない!」

「へぇ~言うじゃん。そんじゃあ、答え合わせしてみようよ」

「ふ、そんな無駄な事やりはせんよ。何故なら遠くない未来、世界の全ては我らによってあるべく姿へと導かれるのだからな。ヒトも魔物も女神も、この世の全てがな!」


腕を大きく開いて高らかに声を上げる怪人とは対照的に、ユーネの気持ちは萎え初めていた。

牛男もそうだったが、怪人の間じゃ素肌に服を着るのが流行っているのか?

まずコレが集中力をガシガシ削いでくる。

それに、ミチビかれるってなんだ?ムズカシい言葉を使えばカッコいいとか思っているのか?

分からない事がいっぱいだが、まぁなんにせよ、やはり怪人とは相いれないと理解できないという事だな。うん。


「おい!そんな事より人に話すときはムズカシ言葉は使わないで、皆がわかるようにいいなさい!そんなのジョーシキだよ!ジョーシキ!」

「む。常識か…そうだな。悪かった。では言いなおそう。簡単にいうと我々が世界を征服するのだ!数多の王や英雄が夢見てきた野望。己が前に全てをひれ伏せたいという欲望。それら人間の夢を女神に代わって我らが実現してやろう!」


「…世界の征服…王様…野望…」

目を伏せ独り言を呟くユーエルに満足げに空を仰ぎながら怪人は更に続ける。

「その様子だとお前も考えた事があるのではないか?守られているくせに、その力を恐れ、糾弾し、排除しようとする愚か者共を押さえつけ黙らさせたいと。我々の仲間になれば、その夢叶える事ができるぞ?ほら、皆の夢が叶ってハッピーで平和な世界だ!最高だろ?」


「いや、変な決めつけはキモイって。それにそんな夢なんてもってないし、お前の仲間なんてなりたくないんだけどさ…でも、その世界征服ってのはいいじゃん!!」

「ユーネぇ!?何言ってるの!それは悪者の考えよ!」

常日頃から冷静さを売りにしているルウもあまりの驚きについ変な声が出てしまう。


「なるほど。要するに、アンタの仲間なんてなりたくないんだからね(はーと)と言いたいわけだな。そのツンデレな心意気受け取ったぞ!今日から貴様も我ら秘密結社VHFの一員だぁぁ!」

「だから、なんねーって言ってんだろうがよ!人の話を聞かない奴は立派な大人になれないんだぞ!」

「何!?そうなのか!?それはダメだな。人はちゃんとした大人に成らなければ、ならないからな」


「そうそう!それでこっちが何を言いたかったて言うと、その世界征服ってのはこのユーエルちゃんがやらせてもらう!だから、邪魔なお前たちはぶっ潰す!」

床に斧を叩き付け、顎を上げ、思いっきり人差し指を突きつける。

世界を征服して王様にでもなれば、日ごろ抑え込んでいる自身の望みも叶うかもしれないと言う気持ちが、ユーエルのテンションをぶち上げていく。


「お前のような奴が我らを潰す?ハハハ!威勢のいい奴は嫌いじゃないぞ。だが、現実を知らなすぎるな。──ウー、リュー、少し見せてやれ。我らの力が兵隊ども力を遥かに上回るという事を」


「ああ、わかったぜ!ライ兄ちゃん!」

「見せてやるぜ!ライ兄ちゃん!」

名前を呼ばれたTシャツ姿の少年たちが同時に指を鳴らすと先程のユーエルの斬撃と同程度の衝撃が放たれ、遠くの丘を派手に吹き飛ばす。


「わかっただろ?先程貴様の放った全力など、我らにとっては造作もない事を。今日は報告を優先しろと姉さんに言われているからこのまま帰ってやるが、次は口の利き方をおぼえておくことだな。ハハハ!では、さらばだ!」


コートをひるがえすと同時に、四色の爆煙が辺りを大きく包む。

カラフルな煙幕が晴れたときには、すでに雷雲は高度を上げ北の空に向かって消えていく所だった。


完全に見えなくなるころには、街中を埋め尽くしていたドーナツも甘い臭いを残して消えてなくなっていた。

ユーエルは今度こそ敵が居なくなったことを確認すると、その姿を光の粒に変えながら二人へと戻っていく。


フゥ~と大きく息を吐き、汗と共に赤い綺麗な髪を振る。

髪の隙間から見えるその顔は土気色を帯びている。まるで、何時間も戦っていたかのように。ユーエルとは、それほどユーネから色々なものを削っていく。

正直なところルウの中では、あの幹部とやらと戦闘に入った場合、無理矢理にでも撤退するつもりだったのだ。


「あ~クッソぉ~!逃がしちゃったよぉ!」

「こっちもこれ以上の戦闘は難しかったし、丁度よかったじゃない。それに、あの感じだと嫌でも向こうから来るでしょ」


「そっかぁ。それじゃあ、明日から頑張んなきゃね!!」

「頑張る?あーやっとユーエルの修行を頑張る気になったのね」

変身はできるようになったが、まだまだ万全とは程遠くユーネには特訓が必要なのだ。

それをやっとやる気になってくれたかと、嬉しそうに頷く黒猫の耳にとんでもない事が飛び込んで来る。


「何言ってるの?さっき言ったじゃん!征服だよ!世界、せ、い、ふ、く!ユーネは世界の王さまになるのだぁ!ぬあっはっはっはっ!」


「・・・はぁ」

はぁ?(疑問)とはぁ↓(呆れ)とはぁ…(自身の考え甘さ)の混ざったため息を吐きながら、小さな眉間を押さえる黒猫。


「ユーネ、王さまになったら何しようかな~!」

「…ユーネ」

だがユーネがこんなに明るく振舞うときは、いつだって何か本心を隠しているときだ。

しかも、それが一体何なのか大体わかってしまうほどルウの心は締め付けられる。


「そうだ!まずはねぇ──」

先程のマントの怪人が言っていたように、この先どんなに怪人や魔物を倒しても多くの人はユーエルを恐れるだろう。

むしろ、力を示せば示すほど排除しようと動くかもしれない。

そしてそれは、この街の人だけじゃなく世界中に伝播して様々な人の心に入り込んでいく。


理由は単純に怖いのだ。得体のしれない強い力が。

九年前のあの日、北の空を覆い、世界の半分を更地にかえた光を忘れていないから。

勿論、理解はできる。できるが、我が子を傷つけるような事を許容できるわけがない。




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