第九話 ⑧ 燃えたろだ!
ユーエルは自ら赤紫色をした嵐の中心へと突っ込み、おりゃぁぁ!っと球状の魔力を放つ。
発動のスピードを重視した攻撃なので大した威力はないが、あずきの粒を遠くへ吹き飛ばし隙をつくる事ができる。
その間に急いで通りへと降りると、目の前の石畳へと大斧を叩きつける。
何をするのかとルウが黙っていると、今度はぐるぐると回転しながら斧を石に擦り付けていく。
「ああ、なるほど。アイスだものね」
「どあぁりゃぁぁああ!」
褐色へと変わっていく大斧の魔力と合わさった炎がユーエルの周りに吹き上がっていく。
空を焦がし竜巻のように渦を巻く炎が、一瞬膨らみ弾けて消えるとその中心には黒い鎧を赤銅色に染めた騎士が立っていた。
「さっきユーエルに舐めてるとか言ってたけどさ、最近はふざけていてもいつでも全力全開の本気でやってんだよ。それを今から見せてやるから!」
「勝手にしろよ。オレはもうさっさと帰りたいんだ。だからこれで最後にさせて貰うぞ!行け!オレの分身たちよ!」
あずき棒男が腕を振ると、それに合わせて空を覆うあずきの粒が一斉に襲い掛かってくる。
ユーエルも迫る攻撃を睨みつけると、溶けた石畳を蹴り空へ飛び立つ。
低く激しい音を響かせながら、一瞬の閃光と共に異なる赤色が混ざりあう。
「おらあぁぁぁあ!!」
刀身を赤く輝かせる大斧をあずきに向かい大きく振りきると、ユーエルを中心に環状の衝撃波が広がっていき、全てのあずきの粒が次々に爆散していく。
「い、一撃ぃ!?クッ!だが、まだだ!」
あずきアイス男は現れたときのように手足を胴体の中へと収納すると、そのまま上空から一直線に突撃してくる。
白い軌跡を残しながら空を進むその速度は先程までのすっとろい動きとは雲泥の差だ。
さすがのユーエルもそのギャップに対応できずに次々と被弾してしまう。
しかも、威力もあずきの粒とは比べ物にならない。
「どうだ!オレ様の本気は!?お前の全力全開なんかじゃ手も足もでねぇだろ!?」
円を描くようにユーエルの周囲を回るあずき棒男が勝ち誇る。
「さぁこれでトドメだぁ!」
全身の魔力を先端に集中させると、一気に黒騎士に向かって突貫していく。
風を切り裂き進む中で、怪人は不思議な感覚に包まる。
体が軽い!過去最高のキレと言ってもいい!今なら幹部を越えたのではないかと思うほどの速さだ。
試しに、明日あのBBAの頬を一発張ってみるかぁ?えぇ?
「きっ~きっきっきぃッ!これで終わりだぁぁ!!」
膨らむ高揚感と出来もしない妄想に気持ちよくなると、ひび割れた鎧目掛けて飛んで行く。
しかし、その気持ち良さは激突した瞬間に一気に萎んでしまう事となる。
「はぁ?」
全く予想していなかった現実に思わず、マヌケな声が漏れる。
何故か過去最高と思えた攻撃が、片手で受け止められているのだ。
理解が追いつかずに目をキョロキョロさせていると黒騎士の声が聞こえてくる。
「もしかして気が付いてないの?自分の体の事にも。なんであれだけ攻撃をくらって貰ったって事にもさ」
「体ぁ?攻撃をくらって貰ったぁ?」
黒騎士が何を言っているのか全然わからない。
強がりにしてはその声は自信に満ち溢れており、強がりとは到底思えない。
だから答えを求めるように、黒騎士の次の発言を静かに待つ。
「そう!要するにアイスは溶けるってことなんだよ!」
極々当たり前の事を世紀の大発見の様に言い切るユーエルの勢いに押されて、一瞬の静寂が辺りを包む。
「は、はぁ…まぁそれは…な」
…いや、まぁそれはそうなのだが、さっきまで吹雪いていたんだ。一瞬の炎ごときで急にそんな簡単に溶けるなんて…
「まさか!そんな!」
確認するように自身の体に目を向けると、いつの間にあずきアイスの部分がほとんどが溶け流れて中心の棒(本体)しか残っていないではないか。
も、もしかして体が軽いと感じた理由はこれだったのか!?あの人生最高のキレが勘違いだったというのか!
受け止められた先端から物凄い熱が伝わって来る。
もしかして、この赤い鎧に攻撃していたせいで溶けて…?
「だ、だが、オレの外皮を溶かすほどの熱を身に纏ったら、お前だって無事でいられないはずだ!」
「そうだね。無事じゃないよ。でも言ったよね?本気ってやつを見せてやるってさぁ!!」
怪人を掴んだ左手が赤く光りを放ち、真っ赤なの炎が吹き上がる。
「ぎゃぁぁあ!あ、熱い!!は、離せぇ!!」炎は徐々に本体である棒へと燃え移っていく。
「うるさいなぁ。痛いのはこっちもなんだけど、まぁ離して欲しいならそうしてあげる!」ユーエルはそのまま燃え盛る怪人を地面に叩き付けると、その勢いのまま今度は空に向かって放り投げる。
街から離れた事を確認するとクレーターを穿つほど力強く地面を蹴り、怪人を追いかける。
「これでッ!終わりだぁぁ!!」
すれ違いざまの一閃。
斧を振った腕すら認識できない程の渾身の一撃が放たれる。
チュドーーーーン
ブスブスと燃える怪人は中心から真っ二つに分かれ、それぞれ赤いマナをまき散らしながら爆発する。
「へへ、燃えたろ?」
カッコつけるユーエルだが、その様子は肩で息をし、お世辞にも余力があるようには思えない。明らかに強がりだ。
がくりと片膝をつくと二人の意思とは関係なく変身が解けていく。
「ユーネ!!」
「大丈…夫。まだ…怪人は、残っているから」
「取り敢えず、一旦休むわよ。今無理に動いてもフォルさんは助けられないわ!」
「…うん、そうだね」
ルウは抵抗するであろうユーネをどうやって説得するかと覚悟していたが、肩透かしを食らってしまう。
これだけ聞き分けがいいのは、自分でもかなり消耗している事が分かっているのだろう。
迷っている暇は無さそうね。
ルウは自身の首輪へと移った、揺れる小さな玉へ爪を掛ける。
◇
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