第九話 ➃ 垂れ目のイケメンだ!
「じゃじゃーん!ばあちゃん!来ったよぉ!」
元気よく挨拶をしながら、ユーネは慣れた感じで古い木造の建物に駆け込んでいく。
「おや、ユーネちゃんにルウちゃん。今日も来てくれたんだね。婆ちゃんは嬉しいよ」
ユーネ行きつけのいつもの駄菓子屋さんだ。
少し薄暗い奥にはいつもの様に、ニコニコしたおばあちゃんが座っている。
ここのてんちょうさん!名前は……知らない!
でもいいの!みんな、「ばあちゃん」って呼んでるから、ユーネも「ばあちゃん」って呼んででいい?って聞いたら、良いよって言ってくれたから!
今日は何にするんだい?と問われ、う~んと唸っていると背中から見知った声が掛けられる。
そこには、大きい三つ編みのよく似合う丸眼鏡の女の子が立っていた。
「ミトラちゃーん!偶然じゃ~ん!」
「だね~!今日新商品の発売日だから塾に行く前ちょっと寄ってみたんだ!ユーネちゃんは何を買いに来たの?」
「ん~チョコは買うって決めてるんだけど、もう一つを何しようかなって悩んでたとこ~」
「じゃあ、一緒に新発売のコレ買おうよ!」
ミトラちゃんの指さした場所には、色とりどりの綺麗宝石が付いた指輪が並んでいる。
「え!何これ!?ちょ~キレイなんだけど!このでっかい宝石は本物なの!?」
「ううん、これ宝石に見える部分は飴で作られた指輪キャンディーなの!それにちゃんと指にも嵌められるんだから!」
「ふへぇ~すっげ~!」
こんなやべぇのが出るなんて、完全に予習不足だった。これも怪人に時間を取られて勉強時間が増えているせいだ。あいつらは絶対に許せない!
いつもの様に思考がとっ散らかるユーネにミトラが指輪が入っている箱に手を伸ばす。
「え~と、ユーネちゃんには~やっぱり赤かな~」
ほらっ!とまだ透明なラッピングの付いたままの赤い指輪をユーネの指に嵌めてくれる。
「ん~凄く似合ってるよ!ユーネちゃんらしいし!」
「ほんと?ありがと~!じゃあ今度はユーネが選んであげる!じゃあ~これかな!」
青くキラリと光る指輪を手に取り、天井から吊るされた照明に透かしてみる。
うん!シデリちゃんの瞳の色と同じで凄くキレイ!
「はい!手かして!」
ミトラちゃんの指に嵌める。
「おお!やっぱり似合うよ!チテキな感じがビンビン出てるよ!」
「嬉しい!ありがとう!!」
「それじゃあこれ買おう!」
そんな二人の様子をルウが目を細めながら、横で静かに佇む。
私達に向ける笑顔とはまた全然違う笑顔を見る事が出来てちょっと寂しい反面、嬉しい感じもして複雑な気分が沸いて来る。
ユーネの人生で初めて出来た友達。あんなに楽しそうに笑って、これからもこの幸せが続けばいいのに。でもアキラは構って貰えなくって泣くのかしらね。
そんなことを考えてると、ちょっと可笑して笑ってしまう。
(ユーネ、今日は特別にお小遣いとは別にしてあげるから、シデリちゃんの分も出してあげない)
「え~!いいのぉ!?シデリちゃん、今日はルウがおごってくれるって!やったね!」
「え?そうなの?」
「うん!ルウがこんな事言うなんて珍しいんだから、ほら、気が変わらない内に!」
「ありがとうね、ルウちゃん!」シデリがルウの小さな頭を優しく撫でると、ニャッと短く答える。
ユーネが支払いを終え、外に出ると二人並んで太陽に向けて腕を上に突き出す。
広げた二つの手の平の指輪を陽の光に反射させながら、顔を見合わせニッと笑う。
暫く店の前で立ち話をしたあと、シデリは塾の事を思い出して慌てて駆けていった。
ユーネも帰ろうとした所で大事な事を思い出す。
駄菓子屋さんに来た本来の目的だ。
「あ!忘れてた!今日はミルク味のチロリチョコを買う予定だったんだ。危ない危ない!」
急いで駄菓子屋さんの店内へと踵を返す。
【説明しよう!】CV:ウ〇バタケ・セ〇ヤ
「チロリチョコ」とは、きなこ棒に並ぶ駄菓子の定番のお菓子の一つ!
2cm角の四角い小さな子供用のチョコレートなのだが、値段も1つ20ゼニーとお手軽なうえに味の種類も豊富な所がうけ、大人も巻き込んで多くの支持を集めているチョコなのだ!
「ん?ん~まっいいか~」
何か聞こえたような気がしたが、特に興味も無かったのでそのまま店に帰りチョコをばあちゃんに渡すと、小さな紙袋に入れてくれる。
「はい。じゃあ、ルウちゃんと一個づつで40ゼニ-ね」
はい!と首から下げている小さなガマグチから、茶色をした10ゼニ-硬貨を4枚渡す。
その様子をうんうんと頷きながらルウが見つめている。
いつもはお菓子ばっかり食べて!と小言を絶やさないルウだが敢えて何も言わないどころか、駄菓子屋さんに関しては推奨しているほどだ。
何故かというと算数の勉強にもなるし、今何を欲しているのかと自分に向き合う入り口になればという思いからだ。
しかし、勉強もこう熱心ならいいのにと一言も忘れない。
「そうそう、ユーネちゃん知ってる?チョコとガムを一緒に食べると、口の中のガムが溶けて消えちゃうのよ」
「解けて消えるぅぅ!?」
小銭を受け取りながらばあちゃんが凄い情報をぶっこんでくる。
さっきのウォータードラゴンの話なんて、ホントにどうでもいい。くだらない。
「情報」とはこういう事をいうのだと、がまぐちを握る手をギュッと握りしめ実感するのであった。
「えぇぇー!!じゃ、じゃあ、ふ~せんガム(みかん味)も買う!!」
ノールックですぐそばに並んでいるガムの箱に手を伸ばす。
と、ちょうど横から伸びて来た手とぶつかる。
「おっと、ごめんね。大丈夫だった?」
ぶつかった手の先には、銀髪をキラキラ、サラサラ輝かせた眼鏡垂れ目イケメンが微笑んでいた。
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