第九話 ➂ ユーネへの依頼だ!
再びキレイな更地となった場所で、四人が地面に直接腰を下ろす。
それぞれ思う所はあるが、もう気にしていては先に進まない。
アキラとしてもここでお開きになれば、また後日店を閉めて来なければならないし、ユーネとしても大人の用事に付き合わされるは面倒くさい。
「そう言えば、あの若い冒険者はいないのか?」
アキラが何かを探すようにキョロキョロと首をまわす。
「ああ、元々依頼を受けにきた所だったからな。今頃は街の外さ。…それで、嬢ちゃん。まずは今回の恋のウォータースプラッシュ事件の事を教えてくれるか?」
ギャランはユーネに質問しながら、思っているより早く冷静さを取り戻せた事でふと関係のない事が頭をよぎる。
…オレは忘れていたんだな。いや、平和ボケしていたと言った方が正しいだろう。
アキラが現役だったころは、毎日のように頭を抱えたものだった。胃薬が手放せないほどに。その娘だぞ。小屋が壊されたぐらいまだカワイイ方だ。
…そう、カワイイ方だ…王都から良い胃薬を取り寄せておこう。
「う~ん、怪人のヘドロ男がオヤカタって名前の人の中に入って悪い事してたから…ホームランでぶっ飛ばしてやった!」
人差し指を顎に当て、思い出すように斜め上に視線をあげる。
「怪人が中に入る?どういう事だ?」
「うんとね。カクカクシカジカ…って事だったよ!」
「あいつらそんな事もできるのかよ。ますます警戒しとかなきゃいけないな」
かくいうユーネも本当の所よくわからないけど、後のルウからのカンニングでそれらしく答えているだけなのだ。
しかし当然と言わんばかりに胸をはる。
周りのオッサンたちもそんなユーネの可愛らしさに目じりは下がりっぱなしだ。
「でも、おじいちゃん。オヤカタさんの事は上手く誤魔化してあげて!悪くないのにタイホされちゃったら可哀想だからさ」
大袈裟に腕を広げる少女にギャランは、なんとなく懐かしい気持ちを思い起こされる。
昔から見てきたそのお人好しな目と無駄に甘っちょろい所は…親子、だな。
息子のような男の娘…ピンクのギルドの件もそうだが、つい良い所見せようと思って張り切ろうという気持ち沸いて来やがる。
まっ。悪い気はしないがな。
「ああ、わかってる。むしろ被害者というふうに上手く情報を流しておくさ。おじちゃんに任せておけ!」
「うん!ありがとね!おじいちゃん!」
「ああ。だからってわけじゃ無いんだが、コチラからもちょっとお願いがあってだな」
話は終わったと立ち上がるユーネ達を片手をあげ制する。
ギャランがアキラたちを呼んだ大きな理由の方がまだ終わっていない。
「お願い?」
「そう、お願いだ。まだ正式な冒険者ではない嬢ちゃんに、依頼はできないからな」
「それは内容によるな!」
不敵に笑いを浮かべるギャランに対して、アキラが間髪入れずに立ち上がりユーネを隠すように前にでる。
「ユーネ。ちょっとでも胡散臭いと思ったら断るんだぞ!ギャランは昔から無茶ばっかり言ってくるギルマスで有名なんだからな」
「失礼な事を言うな!オレはそいつだったら出来ると思う事しか、やらせてないぞ!しかも、今回の話はただ単に、二つ三つ先の山まで様子を見てきて貰うだけだ!」
全くアキラは親馬鹿でいかん!
確かに、中には全身骨折したりとか、再起不能一歩手前なんて奴らもいたけども、相手は嬢ちゃんだぞ。かなり安全で簡単なお願いだ。しかも、本部案件で報酬もいい!嬢ちゃんの心象をよくするにピッタリの依頼だ。
なんと言っても、オレだってな!嬢ちゃんに良く思われたいんだよ!!
「様子を見るぅ?」
アキラが、なおも胡散臭い目を向ける。
だいたい、こんな子供に山を二、三個超えさせようという発想がもう完全にオカシイという事を自覚して欲しい。
それとも、行くとなれば自動的にオレが一緒にいく事を前提としているのか?
いや、だぶんどっちもだな。出来ると思ってしるし、オレが付いていくとも思っていやがる。
全く昔から全然変わってないな。
「ああ。なんでも手負いのウォータードラゴンが、コッチに向かって来ているらしいんだ」
「あ?ウォータードラゴン?王都の北にある雨の森に住むっていうアレか?」
「そうだ。A級認定されているアレだ。本来、森から出てくるようなタイプのじゃないんだがな。突如、王都を襲撃した後、コッチの方角に向けて姿をくらましたらしい」
「はぁ?王都ならA級もいるのに逃げられたって言うのか?」
「それがちょうど近くの村が大雨で大きな被害が出たらしくてな。その救助活動で主要な奴らが出払っていたせいだってよ。まぁ不幸中の幸いというか、街や住民には大した被害は無かったみたいだけどな」
「大雨の被害…思ったよりも少ない被害…偶然なのか?色々と気になる事件だな」
――何やら、大人同士で難しい話が始まっている。
「頼まれたのはユーネなのになぁ…」
ちょっとだけ複雑な気持ちになりながら、暇潰しにすぐ横を進んでいるアリの行列に石を置いたりしてイジワルしてみる。
大人の話なんかは世界や時代が変わろうと、子供にはつまらないものと相場が決まっている。
そんな退屈を子供が我慢できるわけも無く、イジワルにも飽きてくるとアキラの陰でそっと立ち上がる。
「長くなりそうだし…いいよね」
小声でルウに声を掛け、そうっと足音を忍ばせながら、こっそりと空き地を出ていく。
◇
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