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第一話 ⑥ 人質を救え!



「モハハハハ!逃げろ!逃げろ人間どもぉ!恐怖におののき、負の感情は爆発させろ!」

愉快に笑うその姿からはユーネ達の事なんてもう完全に頭にはないようだ。


「負の感情…組織の目的は人を攫う事の他に、街の下を流れるマナの龍脈を穢したいみたいだけど…これは、よかったと言って良いのかしら…」

「まぁひとまずはって所だろ。人や龍脈を狙う理由もまだわからないしな」


鐘の音に合わせるように遠くで野太い声があがる。

声が響いてくる方に目をやると、ワラワラと屈曲な男達が屋根の上から時計塔に向かっていく所だ。

「おっ。冒険者たちも気が付いたみたいだぞ。あいつらが解決してくれるなら…って、やっぱ無理かぁ~」

彼らは時計塔に近づくことさえできずに、上空からの牛男の攻撃で蹴散らされ枯葉のように次々に宙を舞う。


「ん?今度は領主おかかえの騎士団が突っ込んでいくぞ。こっちの方が数は多いが…」

冒険者より統制は取れているが、力量的には低い兵士たちにどうにか出来るはずも無く、こちらも同じように牛男が振るう鈍器からの衝撃波で瓦解してしまう。


「まぁそうなるよな~。あの怪人見た目はアホそうだけど、冒険者ランクで言う所のB+ランクはありそうだし、そんじゃそこらの奴じゃ相手にもならないか…」

仕事の多くを戦闘に費やしている冒険者ギルドでは、魔物に一定の基準を設けており、その基準だと生物の頂点と言われるドラゴンでAランクとされている。

なので、あの牛男の力量はドラゴンより少し劣るぐらいだと言えるわけだ。

ただしドラゴンと言っても、種族差、個体差でピンキリなわけだから一概に断言はできるわけではなく、あくまでぐらいなのだが。


そんな予想通りの結果にアキラが苦笑いを浮かべる間にも、ドーナツに呑みこまれていく街にユーネの顔が厳しくなり、無言で走る速度を上げる。


「オレの魔力は、地下の方から発せられているな」

「時計塔の地下なんて日ごろ使わない場所は悪巧みにはうってつけって訳ね」

「よし、それじゃあ父さんは攫われた人たちを助けに行ってくるから、あの牛男の方はユーネに任せていいか?」

「もっちろん!!ミトラちゃん達を助けて、マウイさんの仇もとってやるんだから!」

振り向いてニカっと笑いながらピースしてみせるユーネ。


「「・・・」」二人はそんな表情に顔をしかめる。

「お願いな」

「わかっているわ」

一言づつの短い言葉。それだけでいい。

もう十年以上の一緒にいるのだ。言葉にしなくても目を合わせるだけで互いの言いたい事はわかる。

それに同時にもう九年もユーネの親をしているのだ、その笑顔が二人を安心させる為のものだっていうのも、きっと無理をする気だろうと言うのもわかっている。


「それじゃ、ルウ早く行こ!」

ユーネはピョンと跳ねて、時計塔の壁を垂直に駆け上がっていく。

「でも仇って、アイツまだ死んでいないけど…でもユーネがそう言うならそうだよな!さらば友よ!永遠に!」

「馬鹿言ってないで、アナタもさっさと行きなさい!」


黒猫は今日何度目かもわからないため息を吐き、もう相手にしないと決めて速度を上げユーネの後を追って壁を駆けあがっていく。



    ◇



「さて、このくらいのなら今のオレでもっと!」

アキラが扉に手を当て目を閉じると、電気がショートするような弾ける音が暗い部屋に響く。

そのまま錆び着いた扉を開け地下室へと降りていくと、部屋の中には多く子供がひしめき合っていた。

攫われた子共達だろう。中には意識がなく横たわっている子もおり、一人で全員を避難させるのは難しそうだ。


どうしたものかと考えていると、部屋の隅に体育座りで膝を抱えている小太りの男を見つける。

今時、思春期の少年だってそんなポーズ取らないが、さっきみたいに気を失っていられるよりかはマシかと、すぐに駆け寄り肩を叩く。


「おい、マウイ。大丈夫か?」

顔を上げる男の顔が、こちらを見て申し訳なさに歪む。

「アキラ…そうかお前も捕まったのか。すまない、全部オレのせいで…」

「早とちりするな。逆だ。オレは助けにきたんだよ。それにどうせ脅されてたんだろ?」


「ああ、言い訳にもならないがな。だから、お前には悪いがオレは逃げるわけにはいかない…けど、なぁ身勝手な事を言っているのはわかっているが、ここにいる皆を助けてくれないか?あと…ウチの娘、ミトラも一緒に」


「もちろんだ。皆助けてやるさ!ただ、お前もうずくまっていないでしっかり手伝えよな。そうでないと、その心のしこりはいつまでも残ることになるぞ」

攻められる事を覚悟していたマウイには、なんの躊躇もなく手を差し出してくれた薬屋の友人がとても頼もしくカッコよく映る。

日頃の常軌を逸した親馬鹿からは想像できないが、昔は王都で有名な冒険者だったというのも、まんざら嘘でもなさそうだ。


「…そうだな。わかった。世話になる」

「ダチなんだから気にすんな!それで、まずはミトラちゃんだが、何処にいるんだ?」

「それは…」



    ◇



塔の上では牛の頭をした男が、勝ち誇ったように逃げ惑う人間を見下ろし満足そうな表情を浮かべている。


「モハハハ!雑魚どもめが!その悔しさや苦しみ、心の闇をもっと膨れあがらせろ!それが我らの悲願となるのだ!」


牛男は込み上げてくる感情に静かに拳を握る。

この数ヶ月間、日中は店頭に立ち、夜はそ次の日の仕込みに汗を流し、毎日甲斐甲斐しく働いてきたかいもあってようやく作戦が完遂しようとしているのだ。


柄にも無くこれまでの事が思い起こされてくる。

しかし、さっきの荒事になれた連中ですらあの程度の力しかもって居ないのであれば、わざわざこんな時間のかかる策をろうせずとも、力ずくでいけたのではないか?

総帥からの指示だというから、ムカつく幹部連中の言う事を聞いてこんな回りくどい事をやってきたのだ。


「だが。もうここまで来ればオレ様の好きなようにヤッてもいいよなぁ!モハハハハハ!」

そんな下品な笑いに水を差すかのように、怒声が響きわたる。

「おい!笑ってないで今すぐミトラちゃんを返せ!」


突如背後から聞こえる場違いの声に牛男が訝しげに振り返ると、先ほど赤い髪の幼女がこちらに向け指をさしていた。

ガキがわざわざこんな所まで、何をしに来たんだ?とか、どうやって来たんだとか怪人の頭の中には素朴な疑問がわくが、今は命令から解放された高揚感にすぐ塗りつぶされてしまう。


「…何をしに来たか知らないが、オレは今すこぶる気分がいい。そのまま回れ右して帰ると言うなら、見逃してやってもいいぞ?」

「はぁ?あのさ、わざわざここまで来てそのまま帰るわけないじゃん。馬鹿なの?ねぇ?あ~!そっか、その頭の中はドーナツの真ん中みたいに空洞なんだね~」

「…ハハ…はぁ。人間のガキごときがえらく生意気な口をきくじゃないか…お前みたいなやつはわからせてやらないと気がすまなくなるなぁ」

そう言いながら、鼻の先にぶら下がるドーナツを力任せに引き抜くと邪悪に笑う。


「今から良い物を見せてやるがすぐに萎えてくれるなよ」

徐々に大きくなるそれが人程の大きさのまでなった所で、勢いよく穴に腕を突っ込み中から何かを引っ張り出す。


「……ッ」

引っ張り出された見覚えのある顔にユーネの心がひりつく。




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