第七話 ➂ 見えない攻撃だ!
上空から見下ろす山の一角が黒く染まっているように見える。
目を凝らすと、真っ黒な犬型の魔物がびっしりとひしめき、虫のように蠢き街に向かって進んでいるようだ。
人によってはこれだけで卒倒してしまいそうなぐらい、キモイ。
本当にキモイ。
「ざっと百はいるわね。ユーネが早く気が付いてくれてよかったわ。いくら高い壁があるとはいえ、あんな数が街に来たら大きな騒ぎになるもの」
「それじゃあ、街に近づく前にその辺に隠れている怪人と一緒にぶっ潰しますか!」
上空で見下ろしていたユーエルが、全身に魔力で覆おうと一気に魔物の群れに向け急降下していく。
「おおおりゃあああ!」
黒い塊の中心へと雄たけびを上げながら突っ込んで行くと、着地の際の衝撃だけで二、三十は消し飛ぶ。そこから一気に崩してやろうと思っていたのだが、魔物は怯むことなく一斉に戦闘態勢に入り近いものから飛び掛かってくる。
普通は動物型の魔物でも、不意打ちをくらえば怯み距離をとるものだが、そんな様子は一切ない。
「…なんかおかしいね。こいつら」
「ええ。強い…というか、意思が感じられないわ」
自身の命も顧みずに間合いに入ってくる奴から、片っ端に殴り蹴り飛ばすと簡単に光の粒子となって空気に溶けていく。ワンパンで倒せるユーエルとしては楽でいいが、一般的に考えれば、怪我も死も恐れずに特攻してくるなんて恐怖でしかない。
「これは、確実にここで殲滅していた方がよさそうよ」
「うん、兵隊の人たちじゃコレは大変だろうからね!」
うおおおっと気合を入れながら拳に魔力を集め、全力で足元を叩く。
一瞬の膠着の後、地面にヒビが広がり巨大な穴へとその形を変え、奈落となった地表は、ひしめき合う魔物を一斉に呑み込んでしまう。
「よし。お終いっと!」
空へと移動し、全ての魔物が落ちていったのを確認していると、突然背中に衝撃が走る。
隠れていた怪人からの攻撃だと即座に悟るが、もう遅い。続けて何もないはずの真上からの攻撃を受け、地上に向け叩き落とされてしまった。
不意打ちにバランスを崩し落下させざる得なかったが、地表ギリギリのところで何とか体勢を立て直し、気配のする方を睨むとその先には片腕を突き出しこちらに向ける黒い犬の怪人が不敵に笑っていた。
「油断はビッグエネミーだぜぇ?噂の黒騎士さんよ。HAHAHA!」
「お前がこれの犯人か!?」
「犯人?いきなるり何の話だ?変な言いがかりはよしてくれよ。それとも、そうやって無実の罪を着せていくのが、ユーのスタイルなのか?卑怯なやつだな」
「後から不意打ちを仕掛けて来たやつが何言ってんだ!」
「HAHAHA!戦闘中に油断する方がわるいのさ!まぁ、どうせここで死ぬんだから、だっちでもいいか」
そう言うと、片腕を上げ拳をこちらに向ける。
「何か飛ばす気よ。気を付けて!」
「わかってる!」
拳の先に意識を集中して何が来ても対応できるように身構える。
「くらえ!!」
怪人の手首に巻かれるように生えているフワモコの毛が、爆発したかのように膨張すると弾けて消えるなくなる。
「…なくなった?」
油断はしていなかった。しかしユーエルの足首が突然引っ張られ、宙吊りにされてしまう。
え?と口をついた時には、そのまま地面に叩き付けられる。
ガハッ!背中全体に衝撃が走り、全身の自由が奪われる。その間に今度は正面から叩き付けられてしまった。
怪人の謎の攻撃は更に続き、周りに生える木々をユーエルの体で叩き折っていく。
「HAHAHA!強いと聞いていたが所詮は人間だな。このオレ様、ドック男・オブ・プードルスタイル様の敵ではナッシングという事だ!」
余裕からか、周囲の木を全て折ってしまったからか、雑に地面に投げ出されたユーエルにすかさずルウの声が響く。
「ユーネ!大丈夫!?」
「うん、不意をつかれただけで、そんな大したダメージはないけど…どんな攻撃をされたわかんなきゃ、ずっとアイツのターンになっちゃう」
きっとアイツが攻撃する前に手首のフワモコが消えた事がヒントだ。
二人とも次の攻撃からがチャンスだと思っていたのだが、それはあまりに自分達に都合の良い考えだった事が告げられる。
「悪いが、さっさと終わらせて貰うぜ!早くオレたちの大事な弟を迎えに行きたいからな」
怪人は不意に真横を向き太もも上げると、全身に魔力を込めて肩や腕や腰、足首など要所要所にあるモフモコの毛を膨らませ破裂させる。
ユーエルからは先程のように真っ白な毛が消えて無くなり、全裸になったようにしか見えず、思わず目を凝らす。
しかし、それだけ警戒していたにも関わらず、先程とは比べ物にならない衝撃が真上から圧し掛かかり硬い地面へと押しつぶされてしまう。そのまま何度か攻撃を受けると、またもや投げ飛ばされてしまう。
「グッ!何がどうなってんだよって!」
顔を土で汚し悪態をつきながら、膝を立てる黒騎士に横向きのプードル男が嗤う。
「HAHAHAHA!お、まだ生きているのか!中々やるじゃないか。だが、これで終わらせてやるよ」
「ユーネ!また見えない攻撃がくるわ!ジッとしておくのは悪手よ!」
「わかってる!」
真横に走り出すユーエルの後方の地面が何かの衝撃を受けて破裂したように吹き飛んでいく。
ユーエルの観察眼はある一つの真実を見出す。
あの半裸野郎は、何故かずっと太ももを上げながらこっちに体の側面を向けるように動いていやがる。
あれも、何かのヒントに違いないはずだ!
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