第六話 ➀ 作戦会議だ!
「ワンモア・グリーンジュースプリーズ事件」が人々の健康意識を高めた週の日曜日。
朝のラジオ体操で賑わう公園のテーブルを三つの影が囲んでいる。
「はい。今日は【秘密結社ユーネちゃんはいつもくぁわいい会】の第一回作戦会議を行いたいと思います!キンチョー感を持って参加お願いします!」
真っすぐに伸び、ほど良い長さの木の枝を振りながら、おもちゃのダテ眼鏡をクイっと上げるユーネ。
「あのよー、何かと思って来て見れば一体何の話なんだよ?ツッコミどころ多すぎて追いつかねぇんだがぁ?」
頬杖を突きながら、めんどそうな顔を隠そうともしないリーヴル。
「ほら、そんな事言わないで!ユーネちゃんにも何か悩みとかあるかもしれないじゃない、ちゃんと最後まで聞いてみましょうよ」と、宥めるミトラ。
「何の話ですって?リーヴル君、あなたは一体何を聞いていたのですか?」
「何をって、俺たちは今来たばっかりなの!」
「あ!もしかして!きなこ棒売り切れだったとか!?あー大変!そんな事になったらユーネちゃんがっ!」
「なに言ってんだよ。こいつはそんなに繊細じゃッグエぇぇ!」
「それじゃあ、あんたの首とどっちが繊細か比べてみましょうかねぇ」
ユーネの両手がリーヴルの首を優しく絞めていく。
「や、止め…し、死ぬ!!」
「ユーネちゃん、待って。リーヴル君なんかに構っていると話が進まないわ」
「チッ…そうだね。まったく、アンタはす~ぐ話にチャチャ入れてくるんだから。気を付けてよね」
首から手を離すと腰に手をやりいかにも自分は悪くないという態度をとると、再びダテ眼鏡をクイっと上げる。
「それで、今日は何の集まりなの?」
「ほら、ユーネ達は世界せーふくをする予定じゃん?その為には、まず何からやったらいいかの話合いです!」
「いつそんな物騒な予定が立ったのも知らないし、何がどうなってオレ達も一緒にやる事になってんだよ!」
ゲホゲホと咳き込みながらも、ツッコまざる得ない状況に条件反射的に声を張ってしまうのは、いつの間にかポジションが確立されてしまったせいなのかもしれない。
リーヴルとしてはいい迷惑だが、本人が望む望まないに関わらず運命の荒波に飲まれてしまうのはまさに人生なのだから仕方がない。
「世界征服…私も初めて聞いたわ。なんて事を…」
ミトラの方も目を大きく見開き、驚きを隠せずにいる。
相手が普通の子供であれば冗談としか受け止めないし、そういった遊びだと思うのだが言葉の主があの黒騎士なのだ。
やろうと思えば本気でやれそうな所に、つい言葉が詰まってしまう。
「だよな?いきなりまったく意味の分からない事を…」
「なんて素晴らしいの!それじゃ、まずはこの街フジザクラタウンから支配してやりましょうよ!」
「そっちかよ!」
「おお!流石ミトラちゃん!わかってるね~!」
すかさず入るツッコミを物ともせずにユーネが喜びの声を上げる。
本人としてはツッコミにやりがいを感じているわけではないが、スルーされるとそれはそれで何とも言えない気分になってくる。
「はいはい、そうですね~。オレはわかっていませんね~」
「もう、そんなすねないの。ほら、どうすればこの街を支配するにはどうしたらいいか、一緒に考えるわよ」
ユーネも二人の間の椅子に座ると、ちょっと飽きてきた眼鏡を外す。
「考えるっていってもな~。そもそも世界征服ってなんだよ?」
「せーふくは…せーふくだよ!みんなから…そんけーされるやつ?王様みたいなエライ感じよ!」
「偉い感じね~。よくわかんねーけど街の掃除とか良い事をすれば、尊敬されて皆の評判はよくなるんじゃねーの?」
本当はそんな事しなくてもいいんだけどなと、小さく付け加える。
彼としては先日の件をまだ消化しきれていないのだ。
それに自分で提案しておいてなんだが、なんでユーネ方から更に歩み寄らなきゃいけないんだって思うと少しイラっとしてくる。
「そうね!リーヴル君にしては良い考えだわ!見た目はアホなのに意外ね!」
「あーオレさ…お前とまともに話すの今日が初めてのはずだよな…」
小さな事を気にするリーヴルを置いて話はどんどん進んでいく。
「でも掃除か~。悪くないんだけどせっかくユーネ達の初作戦なんだからもっと、こう、派手でカッコいいのがいいんだけどな。なんか都合よく困っている人いないかな~。いっそ作る?困ってる人?」
「作んのかよ……ッ」
「それでもいいんだけど…う~ん。あッ!そう言えば、昨日お父さんが最近万引きが多くて困っているってフルーツ屋さんのオジさんと話していたわ!」
「それだ!!みんなで犯人を捕まえようよ!」
「うん!だったら早速調査に行きましょうよ!」
何故かノリノリの女の子二人とは対極に、既に疲れきった顔のリーヴルの手にルウが短く鳴いて肉球を乗せる。
「まったく、オレの味方は貴女だけですよ…」
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