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第五話 ⑥ お下品ですわ~だ!



「子供を助けて貰ったくせに、お礼どころか文句だと!いい加減にしろよ!恩人を傷つけた口で子供に何を教えるつもりなんだよ!女神さまのおかげで助かったんだよ、だから神に感謝しましょうねって言うつもりじゃないだろうな!そんなんでどうやってお天道様の下を歩くつもりなんだよ!──」

今にも殴りかからんばかりの怒りに顔を真っ赤にするリーヴルが怒鳴り散らす。


自分達よりずっと年下の少年に怒鳴られても、「しかし」とか「なんだ」とハッキリしない大人達に、リーヴルは更に頭に血を登らせると、こんな奴ら放っておいて行くぞ!とユーエルの手を引っ張り、駆け出す。


「ちょっと!待って!どこまで行くの!」

ユーエルの声にハッと我に返る。

怒りに任せて夢中で走ってきたが、辺りを見渡せば朝ユーネと会った裏路地の練習場だった。


息を整えながら立ち止まり振り向くと、また声をはり上げる。

「なんで、黙ってんだよ!あんな奴ら、ふざけんなってぶん殴ってやればいいだろ!」

「だってぇ…」

淡い光を放ちながら、変身が溶けていく。

ルウも殴るまではいかないが、同意を表すように敢えて黙って道の脇へと腰を下ろす。


「お前がいなかったら、もっと一杯攫われていたんだぞ!この前のドーナツの件もそうだし、他にもオレたちが知らない所で頑張ってんだろ!?なんで、堂々と言ってやらないんだよ!」


積み上げられた木箱を蹴りながら、まるで自分の事のような悔しがるその姿に、ユーネは不思議だなぁと思いつつも何か嬉しくなってくる。

さっきまでの怖さや苦しさなんて、あっという間に吹き飛んでしまった。コイツがいつもお天道様がうんぬんと言う話はこういう事かもしれない。


まぁ。半分もまとも聞いていないから、当たっているかはしらないけど。そういう事にいておいてやろう!うん!


「おい!聞いてるのかよ!ニヤニヤしやがって!」

「聞いてるって!ユーネはあんたと違って大人の女だから、色々あるの!」


「なにが大人の女だ!さっきまで泣きそうな顔してたくせによ!」

「してないもんね~!あんた頭も顔をも悪いのに目も悪いって可哀想ね!」

「ウッせぇー!ブスブスブース!ぐえぇぇッ!」

無言のユーネから繰り出される左フックがリーヴルの脇腹を捕らえる。


「ゲホッゲホッ!コイツ!朝から沢山手伝ってやったのに、お礼もなしに殴ってくるなんて、何考えてんだ!」

「なに?ご褒美が欲しかったの?仕方ないわね~何かして欲しい事でもあるの?」

「あー、して欲しい事か…」

実際ユーネにそんな事を期待していたわけではないのだが、確かに少し困っている事はある。


「だったら、お前のおじさんを紹介してくれよ。ほらオレ、魔法が使えるようになったのは良いんだけどさ…」

そういうと、蹴とばした木箱に向け手の平を向け魔力を放つと、パキッっとカワイイ音を立て一部が壊れる。


「こんな感じで、上手くいかないんだよ。もっとバキバキバキッ!!ってカッコよくやりたいのにさぁ。だから、おじさんに教えてくれるように頼んでくれよ!な?」

元SSSの冒険者に教えて貰える事になれば、上達する事は間違いない。


「そんなのお父さんに頼まなくても、ユーネが教えてあげるよ!」

「え~お前が?そもそも、ちゃんと魔法使えるのか?」


ほら!とユーネが同じ木箱に魔力を放つと粉々に砕け石畳に転がる。

ユーネだって、なんやかんやで毎日マナを集め魔力を運用する修行を行っているのだ。

ルウみたいな本職の魔法使いのようにはいかないが、簡易的に魔力を扱うぐらいなんて事はない。


「ぐぅっ…」

フヒッと笑うムカつく顔と、転がる木片へと交互に目をやると一瞬で様々な感情が心の中を駆け巡り、奥歯を噛みしめる。


「ほら、どうするの~?」

確かにユーネの方が話しやすいし、気軽にわからない所も聞ける。だけど、コイツに負けっぱなしというのも、プライドが…。


「…それじゃぁ…頼む…」

だが、結局気を使わなくてもいいという事であっさりとプライドは折れ曲がる。

まるで、焼いたマシュマロのようにフニャフニャだ。


「よし!それじゃあ、アンタも今日から我が秘密結社の会員ですわ。あ、でも下っ端なんだからユーネがアイスを食べたいと言ったら、すぐに走って買いに行くのよ」

「行・く・か・よ。てか、会員とか一体なんの話だ?また、変な事考えてんじゃないだろうな」


「あ、ホームラン棒はバニラ味よりチョコ味の方が好きだから、間違いないように覚えておきなさいね」

「人の話を聞けぇ!!オレはホームラン棒の話なんかしてないんだよ!」

「あらあら、オレのホームラン棒ですって。お下品ですわ~!お~ほっほっほ!」


もう言い返すかわりに、はぁ~~~とクソデカため息が漏れる。

まぁいつも調子に戻ったみたいだし、良かったとするか。コイツが元気ないと張り合いないからな。


「あ、そうだ。会員になったんだから、今度から日曜日、朝の鐘が鳴ったら公園にくるのよ」

「だから、それは何なんだよ?」

「小さい事は気にしなくてもよろしくってよぉ~!!」


何度目か分からぬため息をかき消しながら不気味で甲高い笑いが響き渡る、昼下がりの路地裏であった。



     ◇



焦げ臭さを漂わせながら、真っすぐ遠くまで伸びるブレスの跡は、散りばめられたガラスの欠片の上で光が跳ね、とても幻想的な風景を作り出している。

そこには、勿論生き物など存在しない。問答無用で全てを吹き飛ばす最高の攻撃だ。

ブレスを放った主もその光景に満足して鼻を鳴らすが、そんな充実した気持ちもほんのつかの間の事であった。

突如上から降ってきた圧倒的な力に押しつぶされ、砂の上に押させ込まれる。


砂を噛みながらも、なんとか目だけで周囲を見渡す。

そこには、吹き飛ばしたはずの愚か者の姿があった。

ニヤニヤしながら近寄ってくるそれに向け、何とか口を開く。


「グゥッ…き、貴様何者だ!」

「ハハ、そんな事聞いてどうするんだ。どうせ、すぐ忘れちまうってのによ」

全身タイツの男が、砂の上に横たわる頭部に手を置く。


「や、やめろおぉぉ!!」

不快な魔力が体に入り込んでくる。自分が自分でなくなるような感覚に矜持も忘れ、体をくねらせ願うように叫ぶ。

だが、そんな願いなど通じるわけもなく。全身タイツの男は不敵に笑うと一気に魔力を流し込む。

おさまっていく叫び声に合わせて、青い瞳からは光が失われていく。


「よし!お終いっと。それじゃあ、計画通り頼むぞ」

「…は…い」


「これでよしっと!アッチは上手く時間を稼げてるかな。まぁ上手くいかない方が楽しめるんだけどな」

辺りを吹き荒れる風にぽつぽつと雨が混ざり始める。


「よぉ。そっちは終わったか?」

雨に混ざり青い全身タイツが、ゆっくり降りてくる。

「おぅ。終わったぞ。あとはユエン姉ちゃんに報告するだけだ」

緑の全身タイツが嬉しそうに答える。


「そっか、これで準備は出来たな」

「ああ、お祭りの準備はコレでバッチリだ」


「「楽しみだなぁ!」」


  ◇





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