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第四話 ⑤ 謎の助っ人だ!




ミトラに肩を借りながら中に入ると所々に穴の開いたホールが広がり、廃れた天井からは光差し込んできている。だが、壁や柱はしっかりしており、すぐに崩れたりする事はないだろう。


「なんか凄いね。遺跡って聞いてたのに、中は貴族様のお屋敷みたい」

ホールの中央にそびえるような大階段に左右に並ぶ無数の扉。

昔は貴族の家だったのなら、外観がとうふ建築なのもちぐはぐで変な感じだ。初心者か?

奥へと進みながら休めそうな部屋をさがしていると、部屋の一つから水の音が聞こえてくる。


「こんな場所で水の音?外はあれだけ乾燥してるのに?」

チョロチョロと小さな音ではあるが、何かが流れている音なのは確かだ。

「理由はわからないけど、ユーネちゃんの背中を冷やせるならなんだっていいよ!」

ユーネを担ぎ直すと、足早に音のする部屋へと向かう。


錆びて腐り落ちそうな扉を蹴り飛ばし中に入ると、半分が崩れ外に繋がった部屋の隅から綺麗な水が湧き外に流れ落ちている。

「ホントに水が流れてる…」

小さな緑に囲まれた湧水に触れると、思った以上に冷たくて気持ちがいい。


ミトラちゃんがハンカチを取り出し水に浸すと、ユーネの背中に当てる。

「大丈夫?痛くない?」

「ううん、大丈夫だよ。ありがと」

「ごめんね。私のせいで…」

血が滲んでくるハンカチを見ると、申し訳なさでいっぱいになって涙が溢れてくる。

「でも、元々は私が追いかけるなんて言わなければ…」


「だから、違うって。ユーネも乗り気だったし、怪我にしてもクマがまさかブレス打てるなんて思ってなかったから間に合わなかっただけだって」

ユーネの言葉にム~と唸りながら今一納得は出来ないと抗議の意を表すが、これ以上は逆に気を使わせると思い、袖で涙を拭きながら話題を変える事にする。


「わかった。それじゃあ、これからどうする?逃げるにしても、あの高い壁を登らないといけないし、ルウちゃんがいないから戦えないし」

「だね~。でも、どのみちアイツを倒さないと、最終的には街まで迷惑すると思うんだよね。だから、なんとかここで倒しておきたいところだけど…」


「…ねぇ。前から思ってたけどユーネちゃんはなんでそんなに街の人の事を守ろうとするの?だって、みんなユーエルには凄く冷たいよ?怪人を倒しても誰もよくやったって言ってくれないどころか、文句まで言う人もいるぐらいなのに」

「う~ん。そうだけど実はユーネもよくわかんないんだよね~。最初はお父さんみたいでカッコいいってだけだったけど、やっぱり嫌われると悲しいし、文句言われると恐いけど、最近はなんか変わってきて…友達が出来たからかな?へへ」


「ユーネちゃん…」

はにかむユーネにつられて、さっきまで泣きそうな顔をしていたミトラも嬉しくなって笑顔がこぼれる。

だが、ほのぼのした幸せな時間には邪魔が入るというのが世の常だ。

タイミングを計っていたかのように近くから魔物の雄たけびが聞こえてくる。


「来た!ミトラちゃんはここにいて!」

「でも!」

「大丈夫だから!」


部屋から飛び出すと、魔獣が丁度入り口に足を踏み入れた所だった。

隠れていた部屋から遠ざかるように回り込みながら、様子を見る。

まだ、こちらには気が付いていないのか無防備に歩みを進める隙だらけだ。このチャンスを利用しない手はない。


「さっきのぉ!お返しだぁ!」

走りだしながら転がる瓦礫を拾うと、加速の勢いを乗せて投げつける。

白い筋を引き、平らな床を削り取りながら、胴体に向け真っすぐ飛んで行くそれに魔物が気が付いた時はもう遅い。

着弾音が建物を震わせパラパラとを立て天井の破片が降ってくる。


もちろん「やったか?」なんて口にはしない。

当然のように煙幕のように広がる埃を切り裂き魔獣が姿を現す。大して期待はしていなかったが、全くダメージは入っていない素振りには少し悔しくなる。


よくみると足元の床が小さく凹んでいる事から、直前ではたき落とされたのだろう。うん。これは何の捻りも無い真っ正面からだったから仕方なかったとしておこう。だからユーネが悔しがる必要はないんだからね!


当の魔獣はユーネの存在を確認しながらも、即座に襲ってくるような事は無く何故か首を逸らす。

何かの臭いを確認するかのように数度鼻を鳴らすと、別の方向へと走り出す。

この行動は、今のユーネの攻撃が脅威になり得ないと判断されたわけだ。

ちょこまかと逃げ回り面倒な獲物よりも、先に始末しやすい弱い方を先にと。


ユーネもそれにすぐに気が付き舌打ちをしながら即座に走りだす。

部屋から遠ざかり、回り込んだのが裏目に出た。ここからでは魔物の方が明らかに近い。

そうミトラちゃんが隠れているあの部屋にだ。

「ちょっ待てって!そっちに行くな!ユーネの相手をしろ!」


そんな希望が届くわけも無く、脇目も振らず真っすぐ進む魔物だったが、突如横へから現れた影の尾に顔面を弾かれ、綺麗に転がっていく。

その幸運が何か確認しようと、転がる巨体の前に立つ影へ視線を移すと、どこかで見たターヌキが牙をむいていた。

隣には子ターヌキも毛を逆立て向かって行こうとしている。

なんであの二匹がここに居ているのだろうか。しかも親ターヌキは大怪我をしていたはずなのに。


次々に浮かぶ疑問につられて止まってしまったユーネがそんな事を考えているうちに、起き上がった魔物はターヌキに向け四本の腕を振り下ろそうと腕に魔力を溜めていく。

まずい。力が増しているアレをくらったら、今度こそ生き残れはしないだろう。


再び瓦礫を拾おうとした時に、今度は真上からの別の影が降ってきて爆音と共に魔物の頭を床にめり込ませる。

何の警戒もしていない真上から全体重がのった不意打ちをくらって潰れたトマトみたいにならなかったのは、子供の目がある状態では幸いだっただろう。


その影は上機嫌にスキップしながら目の前まで来ると全力でピースサインを向けてくる。




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