第三話 ② しつこい奴だ!
「わぁ!今日の晩御飯はカレー!カレー!ニンジンさん!じゃがいもさん!たまねぎさん!頬の十字傷のしいたけさん!」
お風呂上りの面倒な髪を乾かして、勉強もさせられ、さっきまで不機嫌だったユーネも晩御飯がカレーだとわかった瞬間ニッコニコだ。
「こら!椅子の上でピョンピョン跳ねないの!あと、椎茸は入ってないわよ」
いつものルウの小言も耳に入らないほど、目の前の大好物ご執心だ。
「ユーネはニンジンは嫌いなのにいいのか?」
台所から来たアキラが椅子の上で跳ねるユーネを抱えると、一度床に下ろしマエカケを首にかける。
「あのね。ユーネ、カレーのお野菜は食べれるよ!だから、お父さんがね。毎日カレー食べたいって言うなら、ユーネも一緒に食べてあげてもいいんだよ?」
「いや毎日はさすが…そ、そうなんだぁ!お父さん丁度毎日カレーが良いって思っていたんだぁ~!」
潤ませた瞳の上目遣いにアキラは秒で落ちる。いや、秒持っただけましな方だ。
しかし、そんなアキラの甘くただれた空気も長くは続かない。
「止・め・て。美味しい事には賛同するけど、私は髭に付いちゃって食べ辛いのよ。それより、ユーネはあの事話さなくていいの?」
「あ!そうだった!あのね、お父さん、今日ね。バレちゃった。変身の事…」
「えぇ~!!誰にぃ!?ディーモの奴以外の話だよな!?」
スプーンを咥えたままジッと見つめてくるユーネの可愛さに理性が崩壊しそうになるのを必死に耐え、なんとか頭を回転させる。
「なんか灰色の髪の目つきの悪いガキだったよ。あと口も悪かったし、髪型も子供っぽくて…」
つらつらと悪口が止まらないユーネに対し、アキラはほっと胸をなでおろす。
「あーなんだ。よかった。ただの近所の子供か~」
いや、もちろん良いわけじゃないし、そこから広がってしまう可能性を考えると、子供といえ何かしらの対応をしておかなければならないが、あの組織や変な大人にばれるより全然良い。
だけども、いつ最悪な展開になってもいいように、ユーネには早く力を制御できるようになってもらわなきゃいけないな。
なんてアキラが思っていると、ユーネが椅子を鳴らして目つきを鋭くする。
「お父さん!お父さんってば!ボーっとしないで、ユーネの話をちゃんと聞いてっ!ユーネはいっしょーけんめーお話してるんだよ?」
怒るユーネの姿に、アキラとルウは顔の筋肉にグッと力を込める。
椅子を踏み鳴らし、腰に手を当てて頬を膨らます姿は、本当に申し訳ないのだがどうも小動物の様な愛らしさというか可愛さが先に来てしまい、真剣なユーネを更に怒らせてしまうので、アキラ側も一生懸命に真面目な顔を作る必要があるのだ。
「ゴホン。あーごめんごめん!えーと、その特徴の子だったら衛兵隊長の息子さんのリーヴル君かな。隊長さんとはよく話すんだけど、聞いた感じだとまっすぐな子みたいだから、言いふらしたりはしないんじゃないかな」
「でもね!でもね!あの子、ユーネにブスって言ったんだよ!」
「はぁぁん!?全次元一カワイイユーネちゃんに向かってブスぅぅ!?討ち入りじゃぁ!」
「止めときなさいって。もぅ。ほら、カレーが冷めるわよ」
盛り上がる二人と呆れる一人で夜は更けていくのであった。
◇
それからも、リーヴル君は毎日毎日ユーネの前に現れては、めげもせずに変身させろとしつこく迫ってくる。
「だ~か~ら~ムリってだ……あ、ユーネわかっちゃった…あんた、こんなにしつこくしてくるのはユーネの事が好きなのね!おほほ~もうお子ちゃまなんだから~」
「ふざけんな!全然ちげ~よ!今日こそ、オレの方が相応しいって証明してやるって言ってんだ!」
そう言うと、腰にさしていた良い感じの木の棒をユーネに向かって振り下ろすが、瞬きをした次の瞬間にはクルクルと円を描いて宙を舞っている。
「フッ。みじゅじゅ者め!出直しくるがよい!」
きな粉棒に刺さっている爪楊枝を掲げると、カッコいいポーズを決めるユーネ。
この間のダンジョンに行った後からスキル<けんせい>持っているとか、意味の分からない事を言っているお父さんが剣の使い方を教えてくれているんだけど、今はそれをすぐ試せるからユーネは超楽しい!フヒッ!
「う…母さんから習った剣なのに、今日も勝てないのかよ!くっそ!次だ、次こそは覚えてろよぉ!」
リーヴルは溢れる涙をみられないように、急いで背中を向けて走り出す。
「そうだね~お前の負けた回数はちゃんと覚えておくからね~」
「もう。煽りすぎよ。友達でしょ」
「友達じゃないもん!」
だって、来るたびにお母さんお母さんってうるさいんだよ。
口に出されるたびに、何かちょっとだけ胸がキュってなる。
ユーネにはお母さんなんていないのに。ムカつく。
そんな気持ちがルウにバレないように、自分の気持ちをごまかすように、その辺に転がる石を蹴ってみる。
一方リーヴルは、街の門を門番にバレない様にこっそり抜けると、大きく上に顔を向ける。
「…また、負けた」
覚えてろとは言ったものの、正直まったく勝てる気がしない…
「いや、ダメだ!ダメだ!こんな考えじゃなれるものもなれない!修業だ!修業!お母さんもいつも努力だっていってた!」
悔し涙を吹き飛ばすように、首を振りいつも修行場に向けてかけていくのだった。
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