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第一話 ② 怪しい公園



「ああ、勿論だ。──ルウ。今の話はまた今度な」

ルウは小さくうなずくと奥の洗面所の方へフワフワと飛んで行く。

黒猫のいなくなったカウンターにほらよ。とアキラ特性の栄養ドリンクが数本入った紙袋を置くと、マウイはその場で一本取り出し一気に喉に流し込む。


「くぅ~!効くぅ~!コレで明日まで頑張れるな!」

マウイは全身を淡い紫の光に包まれながら、ドリンクの効能を噛みしめると、旨いのか不味いのかわかない何とも言えない顔を浮かべながら拳を握る。

「おいおい。明日までって。いい加減休んだ方がいいんじゃないか?顔色が悪いぞ?」

確かに明日まで効能が出るようには作られてはいるが、それで健康を維持できるという訳ではない。これはあくまで補助的なものだ。


「顔色は生まれつきだ。まぁでも、子供の事とか考えると稼げるときに稼いでおかなきゃって思うんだよ」

やつれた顔に苦笑いを浮かべる男マウイは、数ヵ月前に先祖代々続くケーキ屋を突如たたんでドーナツ屋を始めたのだが、これが売れに売れて今は寝る暇もないぐらいに忙しくしている。

言いたい事もわかるし、商売繫盛なのもいい事だが、友人としては微妙な心持ちだ。


「まぁその気持ちはわかるから強くは言わないけど。オレを葬式に出席させる事がないようにはしてくれよ?」

「おいおい、縁起でもないこと言うなよ。まぁ、そうだな…気をつけておくよ」


そんなどうでもいい話をしていると、時計塔の鐘が響き二人の会話に割り込んで来る。

鐘の音に何か思い出したような顔を浮かべたマウイは良い気分転換になったと笑うと仕事に戻っていった。

そんなドーナツ屋の店主と入れ替わるようにユーネが焼きたてクッキーを咥えて、アキラの腹に突撃してくる。


「お父さん!今日ね!今日もね、勉強いっぱいがんばっゃくしふぁんふぁよ!」

「こら、ユーネ。九才にもなってお行儀がわるいぞ?喋るか食べるかどっちか…に…うッ…」

足に抱きつき、上目遣いのつぶらな瞳がアキラの精神を破壊する。


「そうでちゅか~!ユーネたん頑張ったでちゅね~!エライエライエライ!よしよしよし!」

「…アキラ…最近、ご近所さんからも「病気なのね。可哀想にって」噂されているのよ。少しは元SSS(トリプルエス)の冒険者らしくしてくれない?」

戻ってきた空飛ぶ黒猫ルウが諦め半分で苦言を呈する。

昔を知っているだけに落胆が大きい。前はもうちょっとカッコよかったはずなのに…。


「ユーネの可愛さは、神をも超えるから仕方ない。だろぉ?」

「だろぉ?じゃないわよ。まったく…」

ルウはもう何も言うまいとクッキーにかぶりつく。


「それでね、モゴモゴ、女神さまのね、名前をね─」モグモゴモグモゴ

リスのようにマルマルと膨らんだ頬のまま話を続ける娘の顔を見ていると、アキラの精神が限界を超える。


「あぁ!ウチの娘は何てカワイイんだ!世界いや宇宙一であることに間違いはなく、このかわいさの一割でも表現できる言葉が無い事が実に悔やまれる。これはこの世界を作った奴の怠慢に他ならない、いつか見つけ出して小一時間詰めてやるからな覚悟しておけよ。しかし、そんな事どうでもよくなる程くぁわいい!カワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイ…………………………」


静かに娘の口が止まり、苦笑い変わったのも気づかずに、アキラの早口は止まらない。

ユーネは基本的に父親のことが大好きではあるだが、流石に白目をむき、早口でブツブツ呟くオッサンはとても許容できそうにない。


「…そ、そうだ!まだ、今日のパトロールしてないから、行ってくるね!」

そんな事は今じゃなくていいと言うアキラの腕の中からするりと抜け出し、逃げるようにルウと外へ飛び出していく。

まぁ実際逃げたのだけれども、言い訳してくれるだけでも娘として破格の優しさだ。


「まっ!本当は見回りなんてしなくても、このユーネちゃん様がいれば安心安産なんだけどね!」

ぬあっはっはっはッ!と高笑いしながら、街の中心を走る大通りに偉そうに入っていく。

ユーネは通りの賑わいを見ていると、自分の活躍のおかげでこの平和が保たれているだと実感し、ついつい誇らしさが笑いなってこぼれてしまう。


この街の人々の食料品は基本この大通りで済ませる事が多く、それに伴い店の種類も増え、夕飯時などは大きな賑わいをみせている。

その内の一つ屋台から、こっちに大きく手招きしているおばちゃんが見える。


「ユーネちゃんにルウちゃんじゃないかい!ほら、こっちに来なさい!」

何か用事かと思い近づいたとたん、マシュマロを二人の口元に強引に突き出してくる。

抗えずにトロリと垂れるチョコソースのかかったマシュマロを頬張ると、柔らかな甘さが口の中で広がり、父親のキモさなどすっかり忘れさせてくれる。


「ん~おいしい!!やっぱり、おばちゃんのマシュマロは最高だね!」

ルウと顔を合わせて笑顔がはじける。

そんな楽しげなユーネ達に、突如大きな影が覆い被さる。


「おいおい!聞き捨てならないなぁ!最高なのはウチの串カツだろ!?」

「いやいや!ウチの練乳イチゴには敵わないでしょ!」

「何を言っているんだ!うちの香ばし焼きとうもろこしが一番だから!」

「飴ちゃん、あげるわね~」

近くの露店のおじちゃん、おばちゃん達だ。

圧倒されていると、あっという間にユーネの両手は美味しい食べ物でいっぱいになってしまう。

「おばちゃん、おじちゃん、皆いつもありがとぉ~!!」

チョコで汚れた口を精一杯広げてお礼を言うユーネの可愛さに街の皆の顔がほころぶ。


いつでも元気いっぱいの「ユーネ」は街の人気者だ。

その笑顔を見ていると元気を分けて貰える気がしてくるのだ。

ユーネもいつも笑顔で迎えてくれるそんな街の人たちが大好きだ。

まっ。それもユーネのおかげなんだけどね!フヒッ!


おばちゃん達と別れてニッコニッコで通りを進んで行くと、先ほどのマウイさんのドーナツ屋さんが見えてくる。

三ヶ月前に改装オープンしてからというもの街一番の大盛況だ。

中でも、牛のマーク入ったミルクドーナツが一番人気らしく、今も牛の頭を被った店員さんが元気な声で、小さく切り分けられた試食品を配っている。


「そこのお嬢ちゃん!一つ食べていかないかい?」

「いらな~い」

先ほどとは打って変わって、あからさまな塩対応にはちゃ~んと理由がある。

だって前に食べた事があるけど変な臭いがするんだもん。ケーキ屋さんだったころはそんな事なかったのにヘンなの~。

そしてなによりも、エプロンから汗で透けているピンクのぽっちがキモい。本当に最悪だ。


「よし!気分転換に、次は公園のパトロールねっ!」

そのまま店の前を足早に通り過ぎて、街を見下ろせる高台にある公園へたどり着くと、いつものジャングルジムへと駆けあがる。

てっぺんで精一杯つま先を伸ばし街を見下ろすと、色とりどりの屋根がキラキラと光り、気持ちのいい風がユーネの赤い髪を撫でていく。


カラフルな色合いのお気に入りのジャングルジム。

いつもはここでキメポーズの練習をしているのだが、今日はパトロールという事で練習ではなく、ガマグチ型のポシェットから取り出した草野球チップスを頬張りながら辺りを見渡す。

そんな中で少し離れたブランコの周りにはユーネと同じ歳の頃の子供たちが集まって楽しそうにしている。


「…一緒に遊んできてもいいのよ」

「ううん。別にいい」

素っ気ない返事に、ルウは再び遊ぶ子供たちに視線を移し、今の会話がなかったかのように最近の事件について口にする。


「それにしても心配ね。最近、子供たちが場所を選ばずに突然いなくなる事件が増えているじゃない。ほんの数分の間に姿を消してしまうらしくて、全く手掛かりつかめないらしいわよ」

「ふ~ん。でも大丈夫!大丈夫!そんなのいつもみたいにユーネがちょちょいっと解決してあげるから!」

「…そうだといいんだけど」

少しの間街の様子を眺め、食べ終わったお菓子の袋を丸めてポシェットに突っ込むと、ぴょんとジャングルジムの上から飛び降りる。


「よし!問題なし!今日もユーネちゃんのおかげで街の平和は守られているのでした~!」

満面の笑顔で駆けていく女の子を困った顔の黒猫が追いかけていく。

そんな二人がいなくなったタイミングを見計ったかのように、公園の中心から怪しい魔力が立ち昇り始めるが、他の事に気を取られていた二人に気が付けるわけも無かった。





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