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第二話 ➉ 得意料理だ!



「き、斬っただと?今の炎は地獄で燃える原初の炎をだぞ。それを…」

「あのさ~お父さんがお前なんかにやられるとは思わないし、他の人も別に友達ってわけじゃないんだけどぉ。中には自分を犠牲にしてもユーネ達を助けようとしてくれた人もいるんだよ」


ユーエルの右手に握られる折れた剣の先から、まっすぐ黒い光が伸びている。

武器を失くし、少なくなった魔力でおこなった苦肉の策ではあるが、薄く細く鋭利に凝縮された魔力の刃は先程までの大斧と比べても何ら遜色はない。


勿論、木の枝で同じ事が出来るかと言われると否だ。あくまで魔力の伝導に優れているミスリル製の剣という土台があったからに他ならない。

しかし、そのミスリル製の剣もユーネの魔力には耐え切れずボロボロと端から崩れて初めている。


「そんな人達を襲ってやるぞっとか言われると、マ、ジ、で、イラってするんだよね~」

「お、お前!その力は…まさか遂に…!?く、来るな!それ以上、我に近づくんじゃない!」

少しでも黒騎士を遠ざけようと炎をまき散らすが、震える体が思うように動いてくれない。


「だからさ。お前が皆を怖がらせたりする前にここで確実にぶっ飛ばす!覚悟しろ!」

黒い光の剣がユーネに呼応するかのように太さを増していく。

「ルウ!アイツに世界の終わりを見せてやるよ!」

「ええ、地獄でも思い出せるぐらいバッチリ見せてやりなさい!」

剣を両手で掴み顔の前まで持ってくると、目を閉じ限界まで魔力を注ぎ込んでいく。


「や、止めろ!我らの目的は同じはずだろ!」

「一緒なわけ、あるかぁぁ!!」

天井を貫く光の大剣が周囲を黒く染め上げながら、ヤモリの頭上へと振り下ろされていく。

「グァァァァッ!!!」

ちゅどーーーーーん!!!


ヌシの体に縦一文字に刻まれた剣筋から幾つもの光の帯が溢れ出すと、断末魔と爆炎をまき散らしながら爆散する。


「よっし!ら~くちゃく!」一欠

いつもの様に赤く光るマナを吸いこみ、黒い鎧は光の粒になって宙に消えていく。


「ふい~ちゅかれた~。まったくふざけた敵だったね~」

額の汗を拭いながら、ルウの方へ顔を向けると、ぼさぼさになった髪を押さえつけながら腹の出た男が、厳しい目つきで近づいて来る。


「あ…そうだ。しまった、バレたんだった」

「まったく、お前らが噂の黒騎士だったなんてな」

ユーネだって難しい事は分からなくても、ユーエルが皆に好かれていない事ぐらいわかる。

キツイ言葉を投げつけられる事を覚悟して、背中に隠した小さな手をギュッとにぎる。

わかっていても、明るく振舞っていても、やはり実際に面と向かって言われると堪えるのだ。


「おかげで、また嫁の顔を見る事ができる!本当にありがとう!」

目の前までくるとガバッと勢いよく頭を下げられる。

「ふへ?」

あまりにも予想外の事に変な声が出てしまう。

まさか、お礼を言われるなんて思ってもいなかった。


「勿論。お前が黒騎士だという事は、女神アイルート様に誓って口外しねぇから、安心してくれ」

しかも、先程までの丁寧な喋り方は何処にいったのか。


まさか、こんなガキに助けられるとは。と気まずそうに頭を掻く姿や冒険者然としたぶっきらぼう喋り方はきっと仕事から離れた素のオッサンなのだろう。

「ハハ…まぁ精々このユーネ様に感謝する事ね!何なら、お礼をしてくれても一向にかまわないんだよ?ん?ん?」

胸を突き出すし、両腕を腰にやり、勝ち誇ったイヤらしい表情を浮かべるユーネにいい加減にしなさいとルウの突っ込みが入る。


そんな三人を一つの視線が岩陰から覗く。

「あいつがあの黒騎士だったのか…だったらオレも…」



     ◇



数時間ぶりに見る日の光は思ったよりも眩しく、疲弊した心を温かく癒してくれる。

手で影を作り空を仰ぐ中、突然肩を叩かれ後振り向くと元SSS冒険者のアキラが立っている。


「どうだった。ウチの娘は?」

「…そうですね。凄いムカつきますが…凄いカッコよかったですよ。あの時のあなたの様にね」

モヤモヤした気持ちをため息と一緒に吐き出す事にする。


ああ、本当に凄かった。

遠い子供の頃、憧れ、思いをはせた英雄って奴を思い出させてくれるぐらいに。


「ほら、言った通りだろ!ウチのユーネちゃんは世界一!いや宇宙一だからな!」

「あーはいはい、その宇宙というのはわかりませんが、あなたの言う通りでしたよ」

「いや、わからなくてもフィーリングでさぁ…」

ダラダラと続く親馬鹿話に、ディーモは唐突にあっ!と大きな声を上げて話を遮ると、思い出したように肩から掛けた鞄を開ける。


「そう言えば、アキラさん。今日あなたに会うと妻に話したら、渡してくれと言われた物があったんですよ」

取り出した妙に凸凹した革袋をアキラにズイっと突き出す。


「あ~…なぁ…それ。もしかしてお前の嫁さんの得意料理とか言わないよな?」

「ん?そうですよ。よく憶えていましたね」

そう言って革袋の口を開くと、黒光りする芋虫のハチミツ漬けがびっしりと詰まっている。


「い、いや。オレは、その…遠慮しておくよ」

心なしかウネウネと動いているように見えて、伝説とまで言われた男がつい一歩下がってしまう。


「いやいや、何言っているんですかぁ。ほらぁ遠慮せずにぃ」

ニヤリと悪い顔を浮かべ袋から数匹摘まむと、ずいっと一歩詰め寄る。

たまらず背を向け逃げ出すアキラにディーモは満足げに芋虫を頬張る。

「こんなにおいしいのに、相変わらず失礼な人だ」


まぁ愛妻の手料理を他の男に渡さなくて済んだのは幸いだったと思いながら、子供達のはしゃぐ声が響くダンジョンの入り口へと振り返る。

振り返った拍子にポヨンと跳ねるお腹が視界の隅に入ると、少し考え新たな決まり事を自身に課す。


「おら!騒ぎすぎるなよ!決まり事を守れない奴はクズになってしまうからな!」




読んで頂きありがとうございます!

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