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第二話 ⑨ ぶった切ったった!



のけぞるユーエルの顎を掠めるようにギリギリを通り過ぎ、岩の天井へと簡単に突き刺さる。

ギリギリ避けれたが、今度は瓦礫と共に滴るよだれが雨の降ってくる。

ディーモを片手で放りながら、大きく後に飛ぶことでなんとかそれも躱すが、異臭を放ち、粘つくさまにいやな汗が流れるのは仕方がない事だ。


「ほら!やっぱり思い込みなんて碌な事ないわ!」

「ガアァァァア!!!」

ルウの絶叫に被せるように怒鳴り声が響き、突き刺さっていた舌が勢いよく抜ける。

ボロボロになりながらコチラを睨みつけるダンジョンのヌシは唐突に後足で立ち上がると、純白の羽を大きく広げる。


「ニんげ、ンが、ンげんごト、…まノ前にマナㇸと返してくれるわぁ!!!」

広げた羽から全身へと、まるでシミが広がるように腐り汚らしい色と変わっていく。

全身が、淀んだ紫色に変わり終えると、見せつけるように向けていた胸からは、ディーモの話にあった無数の人の腕が続々と生えてくる。


「何か騒いでるけど、今度は本気で行くぞってとこかしら。まぁ、あんな状態で叫んでも、ただの負け惜しみよね」

「うぇ~それよりキモいってぇ!あの手でまたオサワリする気満々って─ほらぁ来たぁ!」

各々好き放題言っているうちに、おびただしい小さな手がユーエルを掴もうと一斉に襲い掛かってくる。


「このくらい─っとあっぶな!そんな沢山の手を生やすなんて、薄い本の読み過ぎだろって!」

ダンジョンの生物がお子様におさわりしたいかどうかは怪しいものだが、その動きは本体よりも数段早く鋭い。

先程と違い多少だが距離をとりながら躱していく。

オッサンの話は別としても、あまりこれには掴まれたいとは思わない。


「ユーエルだってそのくらいの空気は読めるんだからね!っと!」

軽い身のこなしで次々と躱していくが、少しずつ鎧の端に掠すめ始める。

それもそのはず、いつの間にかイソギンチャクの様な腕は視界を埋め尽くす程にまで増えているのだ。前も後も気持ちの悪い腕がウネっている。


なんとか隙間を縫ってボスに殴りかかっても、無数の腕が拳と本体との間に滑り込んできてダメージをいなしてくる。

追撃しようにも、すぐさま別の手が掴み掛ってきて距離を取る事となってしまう。


「ユーネ。このままじゃ掴まっちゃうけど大丈夫?」

「うん、問題ないよ!ちゃんと考えてるから!」

そう、今の戦いでわかったのが、まず触るだけなら問題ないという事、次に反応が良すぎる事。多分自立して動いているのだろう。何でもない意味の無い動きにも着いてくる。

しかし、それがゆえに簡単なのだ。


元気の良い返事と共に、いつの間にか取り囲んでいたはずその手は、ユーエルと正対する位置となっている。

「オラぁ!正面からだけなら、これでぇ!」

大きく後方へと飛びのき思いっ切り足元を殴りつけると、地面がめくり上がり、天井まで

届かんばかりの土の壁がそそり立っていく。


「よし、計画通り!ここで一気に決めてやるから!」

壁の影でユーエルが両手に魔力を集め、大きな斧を作り出す。

「決めるのはいいけど、ダンジョンが壊れない様に手加減するのよ!」

「わかってるって!くっらっえっ~!!ワールドエンドクラァァッシュ!!」

壁越しにボスのいる方へと大斧を振り下ろす。

一瞬の静寂の後、爆音と共に辺りもの全てが吹き飛んでいく。


「よし、これでらっくちゃくだね!」

巻き上がった土埃りが収まると、目の前にあった壁も無数にあった手も、全て消えて無くなっていた。

ただ、デカいヤモリだけが先程の何ら変わらない姿で立っている事を除けば…だが。


「「「「「え?」」」」」

よく見ると、ヌシの数メートル隣には何かが通り過ぎたような深い溝が出来ている。


「あれれ?…もしかして…外れちゃった…のかなぁ?」

「かなぁ?じゃないでしょ!ワールドクラッシュは一日一回しか打てないの、わかっているでしょ!」

「うあ~ごめんなさ~い!」

「ハハ…ハハハハ!驚かせおって!自分の愚かさを噛みしめながら、死んでいけぇ!」

再び、蛇腹状の腹部からおびただしい数の手が放たれる。


「あ、あれ?もしかして速くなってる!?」

さっきまで簡単に躱していたはずなのに、あっさり掴まれボロりと崩れる鎧をそのままに即座に腕ごと切り捨てる。


「違うわ。こっちが遅くなっているのよ。ワールドクラッシュでかなりの体力と魔力を持っていかれたでしょ」

言い終わるころには、斧が先の方から光の粒になって立ち消えていく。


「え~!ヤバい!消えちゃうって!」

ついには武器も無くなり、防戦一方のそんな状態を見逃すほどボスも甘くない。

前足を精一杯広げると腹部が縦に裂け、溢れる淀んだ紫色が視界を埋め尽くす。


「あーあーどうしよう!?武器!武器!」

「ユーネ!アレを使いましょ!」

ルウが示す先に目を向けると、そこには折れたミスリルの剣が刺さっている。

即座に剣へと向かい柄に手を掛けるが、既に時は遅く大量の手がユーエルに覆い被さっていく。


「ハッハッハ!調子に乗り過ぎたな人間よ!天に唾した罰は、貴様だけじゃない、そこの死にかけの男は勿論、今この中にいる人間全員の魂で償ってもらうぞぉ!!」

ユーエルを覆っている腐敗色の塊に向け横に裂けた大きく口を開く。


「まずはお前からだ!死ねぇぇっ!」

口腔内に真っ赤に色づく灼熱の塊を生み出すと、それを一気に吐き出す。

射線上の土が一瞬で溶解するほどの熱が紫の腕ごとユーエルを焼きつくす。

「まだだ!もう先程の奇跡などおこさせぬ!徹底的に葬ってくれる!」

再度、口いっぱいに魔力を溜め顎を開く。


そこでヌシは何かがおかしい事に気が付く。

黒騎士を包んでいるドーム状の塊に変化がないのだ。

どういう事かというと、魔力で燃えている炎だ。そんな簡単に消えるものではない。

なのに、炎の姿は無く紫色の絡み合う腕が変わらずむき出しなのだ。


「炎は何処にいった?なぜ…消えている?」

ヌシの疑問に答えるかのように、腕の集合体に縦横無尽に光の線が走る。

「そんなの斬ったからに決まってるじゃん…」

細かな欠片となり崩れ落ちる腕の中から、ガチャリ、ガチャリと鎧の鳴る音がゆっくりと近づいてくる。




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