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第二話 ⑧ オサワリはNGだ!



「それじゃあ、黒騎士ユーエルの力見せてやるんだから!」

と気合をいれたユーエルを大きな影が覆う。

目の前に現れた異様な存在を排除しようと、振り下ろされたヤモリの前足の影だ。

その巨大な質量に込められた力は、周囲の土をめくり上げクレーターを穿つ。


数秒の後に高く巻き上げられた土埃りがおさまるとヌシの目に誇らしげな光が灯る。

人間ごときでは抗う事すら出来ない力で作られた死体を見るために、足を上げようとした所で異常に気が付く。

動かないのだ。人間の子供の血肉で塗れているであろう足が。押しても引いてもびくともしない。


「おい…変身中と同じで今は攻撃したらダメだ時間だろ!空気読めないのかって!?」

足の裏から、聞こえるはずの無い声が響いてくる。

その瞬間に本能が叫ぶ!この異常の原因はコイツだ、今すぐに始末しろと!


動かない前足を無理矢理に持ち上げると、何度も何度も地面へと叩き付ける。

それを暫く繰り返すと止めと言わんばかりに、今まで以上に高く持ち上げ全力で踏み抜く。


足が接地すると同時に、まるで大魔法の暴発でもあったかのような、音と力の波がダンジョンを駆け抜けていく。

不幸中の幸いなのか、咥えられている状態でなければディーモは確実に死んでいただろう。


静まり返った空間で肩を上下させるヌシの息遣いが妙にハッキリと聞こえてくる。

踏み抜かれた地表はまるで舗装されたかのように綺麗に均されており、その様子を見下ろすディーモの血色の悪い顔に後悔が滲む。


「今度こそ終わってしまった…。またオレは、間違えてしまった…」

自分が生き残っているだけでも、もう何度目かの奇跡かもわからないのに、これ以上期待するのは望みすぎだ。

しかし後悔が混ざる静寂は、ほんの数秒で終わりを迎える事となる。


「てっめえぇ!!!不意打ちの次はオワサリだと!?誰がオサワリOKなんて言ったんだよ!!あぁぁッ!?」

突如、膨大な魔力の奔流と共に怒りを帯びる幼い声が辺りに響き渡る。


「うらぁぁぁああっ!!」

足の下から咆哮があがると、痛みと共に前足が縦に裂かれていく。

堪らずバランスを崩すボスの目には、傷一つない黒い鎧が拳を真上に突き上げている姿が映る。


しかし、それを捕らえられたのも、ほんの刹那の間でしかなかった。

瞬きをした次の瞬間にはその姿はもうそこにはない黒い鎧を見つけようと、焦り鈍る思考の中でその影を探そうとする。

が、それはすぐに無駄となる。何故ならその黒い鎧は、顔のすぐ横で攻撃態勢に入っていたからだ。


「おらあぁぁっ!」

ユーエルがぐるりと体をひねり、つるりとしたヤモリの頬に向け回転蹴りを放つ。

反応すらさせない一撃は、鈍い音と共に顎の骨を砕き、咥えられていたディーモがあらぬ方向へ飛んで行く。


即座に後を追い宙を舞うディーモもお姫様だっこで捕まえると、ふわりと地面に降り立つ。

「もう大丈夫だよ。オッサン」

「お前たちは…一体…いや、それよりなんでオレなんかを助けた?その力があれば、一人で逃げる事も出来ただろ?」


「まぁ確かにムカつくし腹が出てるオッサンだけど、悪い人じゃないし、ユーネ達を助けようとしてくれたじゃん?それにさ、世界を征服しようとしたら、ダンジョンだって征服しなきゃでしょ?」

「せ、世界征服?何の話だ?」

「ほら、今はそれどころじゃないでしょ。巻き添えにならないように隠れてて!」


微妙な顔をしてディーモが足早に離れていくのを確認すると、横たわるダンジョンのヌシへと視線を移す。

「さて、オッサンも助けたし後はアイツだけだね」

「変な力を持っているみたいだから油断しないようにしなさいよ」


ヌシは隙だらけでゆうゆうと歩いて来る不届きな人間を瞳に映しながら、ゆらりと起きあがる。

本来、どこまでいっても不浄なものでしかない人間ごときに、そう言った感情が灯る事はないのだが、その舐め腐った態度に今は確かな怒りの感情がその黒い瞳に灯り始めている。


「おk!そんじゃ、今度こそいっちゃうよぉ~!」

そんなヌシの感情をワザと煽っているかのように気楽な声をあげる黒い騎士が、腕をぶんぶん振り回すと地面が爆ぜてその姿が消える。


黒騎士が一瞬でヌシの顔の前に現れると、硬く握った拳を大きな鼻先に向け叩き付ける。

続けて、左、右、上、下、と反応する暇すら与えずに殴っていく。

普通の人からしたら、影がちらつくたびに一人でに爬虫類の首が跳ね回っているように見える事だろう。


時折、長い舌や腕を振るって払い落そうとしているが、無理な体勢から繰り出される攻撃などユーエルに当たるわけも無く。

逆に空ぶって隙だらけになった部分を叩かれては、悲鳴を上げる羽目になる。


「凄すぎる…」

無意識にディーモが呟く。

格が違うとは正にこういう事を言うのだろう。

あの異質のダンジョンのヌシを全く寄せ付けない黒騎士に、自身も気が付ない内に子供のように興奮して拳を握りしめる。


淀みなく流れるような動きを見せたと思ったら、烈火の如く大胆に突撃していく。

その大胆不敵にして思慮分別な振舞いは、いつか見たあの人と重なる。

「あぁ…本当にムカつくな。カッコいい所までそっくりじゃないか。クソガキめ」


「うらあぁぁぁぁ!!」

ユーエルは組んだ両手を高く振り上げると、一気に頭上目掛けて振り下ろす。

それが頭部に触れると両手で圧縮された魔力が弾け、先程と同等の衝撃が再びダンジョンを駆け抜けていく。

衝撃が走り去った数秒の静寂の後には、鼻先からは地面に突き刺さり細かく痙攣するヌシの姿が残されていた。


「イエ~イ!ユーエルちゃんの勝ち~!ブイ!ブ~イ!」

と、わざわざディーモの前まで歩いていき、驚いているその顔にブイサインをグイっと突き出す。

「ちょっ!止め!目に刺さる!目に!待て!そこは鼻だ!」


(…それにしてもあっけないわね)

横たわる羽の生えたヤモリに意識をやりながら、何か納得できていないようにルウが呟く。

「まっ、私達が強すぎたってことよね!」


ルウは基本的に他人からの伝聞などは話半分にして聞くようにしている。研究の明け暮れてきた影響か、あまり主観を入れるのが好きではないのだ。

しかし、困った事にそんな主義も最近ではユーネの事となると完全に瓦解してしまっており、本当はアキラに対して偉そうに言える立場ではないという事は自分でもわかっている。

勿論、表にも出さないし、アキラにもそんな事は言いはしないのだが。


話は逸れたが、冒険者なんてやった事がなくともダンジョンのヌシの話ぐらいはアキラとの話題に上った事もある。

勿論世界の頂点の存在だった彼の話だと楽勝。クソ雑魚。と言う感想ばかりだ。


そんな話も最初はそれはあなただからでしょ?というふうに客観的に思っていても繰り返し聞いている内に、なんとなくボスはたいした事が無く、自分も出来るような気持ちになってくる。

今まさに、ユーネも私もそれじゃないだろうか。


「ッ!ユーネ!!」

まさにそう思い至った瞬間、足元の地面が割れ赤く太い舌が付き上がって来る。




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