第十八話 ⑧ 襲撃だ!
正面には大きな昇り階段がありまるで貴族の屋敷のようだ。
細かな部屋が幾つかあるのが見えるが、ガランとした空間が広がるだけで、特に何かあるようには見えないが、それでも、慎重に歩みを進める。
しかし見える範囲を壁伝いに一周してみても、特に気になるところはなかった。
「何かあったか?」
「いや、ただの古い建物にしか見えない」
三人は自然に立ち止まりほんの少しだけ気を抜き水筒の中身を口に含む。
キョウも同意を混ぜた息を吐きながら近くの壁にもたれ掛かる。
「う~ん。気のせいだったのかな」
「それならそれでいいけどな」
「だな。それに今ならまだ式に間に合うかもしれないし帰ろうぜ!」
「そうだな!じゃあ急ぐとしますか!」
キョウは姿勢を戻そうと、背中に力を込め背筋で持たれていた壁を叩く。
叩かれた壁は予想に反して、背中を押し返しもせずそのまま後へと倒れると、不意をつかれたキョウと一緒に真っ暗な穴へと消えていった。
二人は即座に大きな穴を近寄り覗き込むが、かなりの深さがあるようで、まったく底が見えない。
しかし、当然そのままにするわけにもいかない。
すぐにキョウを追うために薄い明かりを元に見渡すと、その穴には都合よく二本の太いロープが垂れているのを見つける。
のっぽとぽっちゃりは視線だけで意思を伝えあうと、そのままロープを掴み一気に降りていく。
キョウは数十秒ほど浮遊感に包まれた後、背中へ強い衝撃が突き抜ける。
声にならないくぐもった声と空気が口から漏れ出る。
続けて漏れ出た空気と入れ替わりに水が流れ込んで来る。
運が良いのか悪いのか、大量の水へと落ちたようだ。
沈んで行きながら、わからなくなった前後左右を確認すると微かに見えるオレンジ色の光に向かって水をかく。
水上へと辿り着くと、入り込んだ水を咳と一緒に無理矢理吐き出し、新しい空気を吸いながら状況の確認を行う。
落ちた場所は真四角な筒の底にいるようだ。
四方の壁は上へ上へと真っすぐ伸びており、落ちてきた場所すら見えないことから、結構な高さを落ちてきたことがわかる。
さっきの場所までは到底登れそうにはないが、ついていることに手を伸ばせば届くぐらいのところに横穴が開いており、あそこまでなら何とかなりそうだ。
「仕方ない。取り敢えず、あの横穴まで登るか…」
横穴からはオレンジ色の光が差し込んできており、先があることを教えてくれている。
これで真っ暗だったら、最悪だったな。と安堵とともに出る愚痴をこぼすと、合わせたように頭上から汚い悲鳴が響いてくる。
「うおおお!!!キョウ!どけどけどけ~~~!!」
「なっ!何やってんだお前らーーーー!!!!」
いきなり上から降ってきた仲間思いの素晴らしい彼らのおかげで、再び水の中へと押し戻されてしまった。
鼻に水が無理矢理入りこんできてツンとした痛みが走るが、これはきっと仲間達との絆を確認することが出来たことで溢れるだす感動のせいに違いない。
「ぶはっ!何でわざわざ当たるように落ちてくるんだよ!」
「お前があんな単純な罠に嵌って落ちるからだよ!」
「ああ!そうですか!マヌケなリーダーのフォローありがとうございます!!」
唾を飛ばし合う二人をよそに、既にぽっちゃりは一人で横穴に登っていて仲裁に入るような感じで口を開く。
「二人ともいつまでやってんだ。ほら見てみろ。ここ、結構奥まで続いてるのぞ。もしかすると上の建物より広いんじゃないか?」
上の建物より広いなんて言われれば普通に気になり、後を追うように壁を登る。
顔を上げると無機質で長く続く通路を所々に設置されたオレンジの光源が照らしていた。
いつのころから、こうやって光っていたのか分からないが、誰もいなくなっても甲斐甲斐しく廊下を照らしているというのは自分が与えられた使命を果たさんとしているからだろうか。
なんてちょっとカッコつけてアンニュイな表情を浮かべながら廊下を進む。
廊下の先は行き止まりになっていたが、キョウが引っかかった罠の件もあって壁を調べてみるとプシュンという空気が漏れる音と共に勝手上に上がっていき部屋が広がった。
「なんだ…ここ?」
広がった大きな部屋には見た事もない様々な四角い金属の箱が並んでいた。
所々錆びているようだが、まだ小さな光を灯しており生きているように見える。
三人ともあっけにとられてしまうがすぐに腰を落とし警戒態勢に移る。
これだけの障害物があると視界も動きも制限されてしまい、危険なのだ。
同時にのっぽのスキルが発動される。
彼のスキル「探索」は、一定距離の地形や魔物などの存在を補足することが出来るのだ。
数秒後、警戒を解き大きく息を吐く。
「大丈夫だ。何もいない」
「何もないのは魔物だけじゃなさそうなだ。ハズレか…」
少し残念そうに奥へと進んで行く。
キョウも二人の後から物珍しそうにキョロキョロしながらついていく。
その中で床に落ちている額縁が目にとまり、何気なく手に取る。
「肖像画…か」
「責任者K」と書かれたプレートが付けてある絵の中では、眉間に深い皺をよせた長髪の爺さんが、仕方がなくと言った風にこちらを睨んでいる。
この遺跡と同等の古い絵だろうに、はっきりと発色するその黒い髪を見ていると、なんか不思議な気持ちになる。
「ぎゃああ!!」
唐突に響いてくる悲鳴に、絵を投げ捨て声の主へと顔を向ける。
そこには背中から黒い腕を生やしたのっぽの姿があった。
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