第十八話 ⑦ 八重歯は光るだ!
しかし、そうは言っても普段あんなに遠くまでは中々行く事もなく。
突然あそこにあるなんて言われても正誤の判断なんてつきようがない。
だが、ぽっちゃり男も村のみんなが喜ぶ顔を思い浮かべると少しでも可能性が有るのなら行ってみたくなってしまう。
全く仕方がないな~という声を出そうとした瞬間、急かすような声が響いて来る。
「お前ら何やってんだ~!早くしないと置いていくぞ~!」
そちらへ顔を向けるとのっぽが、すでに山に向け走り出していた。
「あ!お前ふざけんなって!オレが言いだしたんだぞ!」
「抜け駆けしようなんて許さないからな!」
走り出した三人はあっという間に山へと辿り着くが、やはりというか当たり前というか、そんな簡単には見つからることはなく、時間だけがすぎていく。
みんな口には出さないが、このままだと式に間に合わないんじゃないかという焦りが生まれ始める。
しかも、時間だけ使って手ぶらとなれば余計にだ。
ここまで来たら必ず見つけなければならないという変な使命感が生れてくる。
各々気合を入れ直し、木々を抜け道なき道を進んでいくと少し窪んだ場所に古い建物が見えた。
小さな湖に囲まれた異様なそれに、弛んだ三人の顔が瞬時に色を変える。
傾斜をつけた屋根すらない、ただただ真四角の不思議な建物。
巻き付いた植物や外壁の様子から遺跡と言っても差し支えないほど古いものだとわかる。
ああいったところのマナは淀みやすい。
それは魔物の巣になっていることが多いということだ。
「どうする?」
ぽっちゃりが視線は真っすぐ向けたまま二人に問いかける。
見た感じそこまでの大きさはなく。探索するならするでそう難しくは無さそうだが、遺跡探索の準備をしてきたわけではない。
もし想定外のことが起こった場合、冥府の扉を開けることになりかねない。
しかし、遺跡の中には浪漫があるのも確かだ。
金銭、魔道具、歴史的価値、達成感、人それぞれのお宝とともに。
「状況が不透明過ぎる。ここは一旦撤退したほうが良くないか」
「…いや、行こう。あのくらいの遺跡なら探索もすぐに終わるだろう」
のっぽの意見を遮るようにキョウが二人を見つめる。
「もし、巣があるならここで潰しておいた方がいいからな。なに、心配すんなよ。オレ達なら大丈夫さ!」
明るく振舞うキョウに二人か顔を合わせる。
流石はオレ達のリーダーだと。
それでこそ、フジザクラ村を守る「闇夜を切り裂く月影の牙」だと。
「闇夜を切り裂く月影の牙」の面々は、分母も競争性も高い都会の冒険者たち比べても全く遜色はない。
キョウは言わずもがなだが、他の二人も難なくBランクをまで行きついた猛者だ。
パーティー戦力としても単独でゆうにドラゴンを討伐できるほどはある。
そんな実力者の集まりなら、魔物の巣になっていたとしてもよっぽどのことがない限り問題ないだろう、というのは互いが互いに持っている所感だ。
「…確かにそうかもな。明日急にあそこから溢れ出してきてフジザクラ村まで来られたらたまらないもんな」
ぽっちゃりがそういうと、のっぽは大きくため息をつき方をすくめる。
「はいはい、わかりましたよ。まっ、いざとなれば大賢者キョウ様の「浄化」スキルで淀みなんかも何とかなるだろうしな。よし!そうと決まればサッサと未来の村を救いに行きますか」
そう言うと、のっぽが先頭に歩み出てスキルを発動せさる。
目尻を鋭く尖らせ無言で振り向いて頷くと、気配を殺して歩を進める。
湖に掛る橋を緊張しながら渡り、何ごともなく建物の正面へと辿り着く。
「…おかしいな」
「ああ…」
普通はこんな閉じた場所では、大きな循環の環に戻りそこねたマナが集まる淀み、多かれ少なかれ魔物が生まれるのだ。
しかし、ここでは不気味なほど静かなのだ。
「こんなの何かありますよって言っているもんだろ」
「だな。で、どうする?引き返すならここが最終地点だぞ」
キョウが揶揄うように笑ってみせる。
「ここまで来て帰るぐらいなら、さっき帰ってるつーの」
「そうそう。しっかりとお宝でも持ってかえらせてもらうさ」
二人は合わせたように親指を立てて八重歯を光らせる。
どういった原理なのかは誰もしらないが、カッコつける時は八重歯が光るのだ。
「よし!じゃあ行くとしますか!」
同じく八重歯を光らせて、中へと踏みこんでいく。
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